第三話『魔天竜王の旅路』
今まではベリアル視点で物語を進めてきましたが、今回はルシファー視点の物語です。
私はベリアル様の命を受け『シャガの大森林』にて調査をしています。辺りは薄暗く、不気味な雰囲気を漂よす木々が瘴気を発生し、魔族にとって住みやすい環境を作り出している。人間が入ったらこの瘴気に耐えられず数分で命を落としてしまう。彼等はどうやってこの森で魔族達と戦ったのでしょう。戦闘した跡は見当たらず、手掛かりが掴めないまま時間だけが過ぎていく一方でした。これは私の妄想ですが、『シャガの大森林』の魔族は一方的に滅ぼされたと考えるのが自然だと思います。
ルシファー
「だとしたら何と酷い話でしょう。」
さらに奥深く進むと、集落らしき場所に迷い込んだ。でも魔族達の姿は見当たらず、生活した跡は残っていても荒らされた形跡がない?無抵抗に殺された?こんな厳しい環境の中で可能なのでしょうか?
???
「貴女誰!!」
私の前に女性らしき人物が現れた。正確には悪魔ですが、彼女の声は少々可愛らしさがありました。多分見た目は私と同じくらいでしょうかね。
???
「なんなのあなた?人間じゃないのは確かだけど?」
ルシファー
「これはご挨拶が遅れました。私『ガイロス帝国軍』『魔王ベリアル』の配下で『四天将』が一人、『魔天竜王ルシファードラゴン』と申します。」
???
「魔天竜王?なんかよくわからない名前ね?見た目は竜人族なのに天使の羽が生えてるし、その割には私達と同じ魔族の気配を感じるし、貴方一体どっちなの?」
ルシファー
「ごめんなさい、よく聞かれるのですが私自身もどれが本当の属性か種族かわからないのです。」
ローラン
「ふーん・・・色々訳ありなのね?私は『ランサーデビル』名前は『ローラン』よ!」
『ランサーデビル』。真名は『ローラン』。レベルは163。属性は『魔』。種族は『悪魔』。職業は『魔法槍使い』。
桃色のポニーテールの房を3つに分け、縦に巻いた髪型をしていて、瞳の色はブルー。服装は青いラインが入った黒いジャケットに黒いフリルのスカートを履いたまるでロックシンガーのような格好をしていた。ジャケットからは悪魔の特徴的な羽とスカートの中から尻尾が生えている。
性格は強気なクールタイプで、何かあると「面白いじゃない!」と言うのが口癖らしいのです。彼女の能力や魔法は・・・・この後直ぐに分かるでしょう。
ローラン
「あとガイロス帝国軍なんて聞いた事ないわよ?」
ルシファー
「でしょうね?最近この地に降り立ったばかりですから、我々もここら辺の地域は把握していないのです。」
ローラン
「それで探索してたらこの『シャガの大森林』に立ち寄った訳ね?だったら無駄足だったわね!ここには私以外誰一人いないから何もないわよ。」
ルシファー
「つい最近ここの魔族達が悪魔祓いに滅ぼされた件でしょうか?」
ローラン
「なんだ知ってたんだ。なら分かってるでしょ?ここには何もないわよ?」
ルシファー
「何もないから調べに来たんですけど丁度良かったです。貴女はこの森での惨状を見ませんでしたか?」
ローラン
「私が所用の帰りで大森林の近くまで来た時よ。大森林が光の柱で覆われて天に昇ったの。天を見上げたら星の形をしていたわ。」
星の形?まさか『六芒星の陣』!?けどあれは五ツ星クラスの広範囲魔法!?それをこの世界の魔術師が使った!?
ローラン
「それから大森林の外にレリック国の悪魔祓いがいたわね。多分そいつが発動させたのよ。」
でもおかしいですね。私やベリアル様ならともかく、国家軍の悪魔祓いが発動させた?いいえ、低レベルな彼等にそんな事象は有り得ない。それよりも、今は彼女の事が気になります。
ローラン
「話はわかったでしょ?なんならさっさと他所に行ってくれないかしら!私これから出掛けるから!」
ルシファー
「そんな武器を持ち歩いてですか?」
ローラン
「何が?」
ルシファー
「貴女が持っている宝具は『悪魔の三本槍』ですね?当たれば『腐敗』と『猛毒』の二つの状態異常の効果を発動させる事が出来る四ツ星クラスのUR宝具の武器です。そんな物騒な武器を装備して、行く先は『レリック共和国 王都』そして目的は『復讐』と言った所でしょうか?」
ローラン
「なんだ・・・・バレてたか。それで?知った上で貴女は私をどうするの!」
そう問いかけられましたが、答えは決まっています。なので私は宝物殿から『断罪の槍 ダインスレイブ』を取り出しました。何故なら私は戦闘モードに入ったからです。愚かな復讐者を止めるために。
ローラン
「なるほど、意地でもそこを通さないって訳?」
ルシファー
「貴女を復讐なんかの為に死地に送る訳には行きません。私は命を賭けてでも貴女を全力で止めます。」
ローラン
「面白いじゃない!!なら!力付くでも通させてもらうわよ!!」
いきなり真正面から突っ込んで来た!?何かの作戦かただの無謀か、どちらにせよ左に避ける。
ローラン
「ただの挨拶代わりよ!『ライトニングブースト』!!」
『ライトニングブースト』!?先制攻撃を与えるだけでなく素早さを上げてきましたか。私の横を通り過ぎたとは言え、急接近でターンしてくるなんて、なんと言う切り返しの速さでしょう。私も負けてはいられませんね!
ルシファー
「『瞬間移動』!!」
ローラン
「何!?」
私は彼女の後ろに移動しましたが、彼女は『ライトニングブースト』の威力でブレーキを掛けられず私から大分距離を取ったところで止まった。
ルシファー
「そんなに私から距離を取って大丈夫ですか。」
ローラン
「距離を詰める方法はいくらでもあるけど、貴女を倒すにはこれで十分よ!」
すると彼女は突然屈み始めた。右足を曲げて左足を後ろに曲げた状態?まるでスタートダッシュでもするかのような体勢ですね。まさか最初と同じ攻撃ではないと思いますが。
ローラン
「これで終わり!!」
彼女のダッシュした瞬間、槍が赤黒くなり始めた。まあ避けてしまえばどうと言う事はありません。
ローラン
「『突き穿つ死翔の槍』!!」
やはり『突き穿つ死翔の槍』でしたか。当たれば『麻痺』状態にする事ができます。ですが甘いですねローラン!!
ルシファー
「当たらなければどうと言う事はありません。」
そして華麗に彼女の攻撃を避けた。ローランはそのまま通り過ぎてまた距離を取っていた。やれやれ、悪魔と言うより猪みたいな方ですね。
ローラン
「この勝負、私の勝ちね!」
そんな事を言って彼女は私の方を振り向いた?攻撃を擦ってもいないのに・・・・!?
ローラン
「ようやく効果が出て来たようね!まさか当たってないと本気で思ってた?」
突然の脱力感、右腕の感覚がなくなっていき、さらに身体中のところどころに強烈な痛みを発していた。まさか『猛毒』に『腐敗』さらに『麻痺』の効果まで出て来るとは。
ルシファー
「一体何をしたのですか。確かに貴女の槍には触れてすらいなかった筈では。」
ローラン
「いつから私が貴女に触れていないと錯覚していたのかしら?」
ルシファー
「なるほど流石に盲点でした。補助魔法『刹那の幻影』を使ったのですね。低レベルな上、ほんの一瞬だけ幻影を見せるだけで使いどころがない魔法。まさかこんな事に使うとは思いもしませんでした。」
ローラン
「私を甘く見過ぎよ!貴女には悪いけどそこで死んでもらうわ。それとありがとう、私の事止めてくれて。死んだらあの世で謝らせてもらうから。それじゃあまたね!」
貴女の方こそ私を甘く見過ぎですよ。この程度の状態異常でそう簡単には倒れません!
ルシファー
「回復魔法・・・・。」
ローラン
「なに!?」
ルシファー
「『完全回復』!!」
『完全回復』。HPを全回復するだけでなく、状態異常も全回復。MPの消費は激しいですが、実はMPまでも全回復する事が出来るのです。なので今の私は万全の状態で挑む事が出来るのです。
ローラン
「貴女はどこまで私の邪魔をすれば気がすむの!!」
ルシファー
「貴女が考えを改めるまでです!さあ覚悟してください!ローラン!!」
ローランはかなり取り乱して泣きながら私に突っ込んで来た。どれだけ悔しかったのでしょう、どれだけ悲しかったのでしょう。貴女の悲しみが私にも伝わって来ます。だからもう終わりにしましょう。ローラン。
ルシファー
「『断罪の槍 ダインスレイブ』魔力解放。」
ダインスレイブは空間の入口から吸い込まれるように消えていき、今度はローランの頭上周辺に無数の空間の入口が現れた。彼女は立ち止まり空を見上げた。そこから無数のダインスレイブが現れ目に止まらない速さで対象者を串刺しにします。本来ダインスレイブは戦闘用ではなく、処刑用の宝具なので、そちらで使うのが正しいのです。
ルシファー
「私の勝ちです。ローラン。ダインスレイブ放て!」
彼女の頭上を覆う空間から無数のダインスレイブが一斉に放たれた。けど私はローランを殺したくはありませんでした。
ローラン
「なに?私・・・生きてる?」
なのでローランの足元にまるで杭を打ち込むかのようにダインスレイブを打ち込みました。しかもローランが体制を変えられないくらいギリギリのところを打ち込んでいます。
ローラン
「何これ!?動けないんだけど!?」
ルシファー
「どうやら私の勝ちのようですね。降参しますか?」
ローラン
「なんで・・・・殺してくれなかったの?」
ルシファー
「はい?」
ローラン
「なんで殺してくれなかったの!!これなら私を殺せたんじゃないの!?お願いだから家族のところに!友達のところに!仲間のところに行かせて!!」
彼女は泣き叫びながらそう私に言い放った。ローラン、貴女は『復讐』ではなく『自害』するつもりだったのですね。ですがそれは余りに無意味なものであり、愚かな行いです。私に出来る方法はただ一つ、ダインスレイブの魔法を解除し、ローランをそのまま抱きしめる事でした。
ローラン
『ルシ・・・ファー?」
ルシファー
「そんな悲しい事を言わないでください。貴女は生きなきゃダメです。そして仲間の仇を討ちなさい。それが貴女の使命だと私は思います。」
ローラン
「でも・・・・どうしたら・・・・。」
ルシファー
「私の・・・・ベリアル様の配下になって頂きたいのです。それが貴女の目的にも繋がる筈です。それに・・・・私は貴女と共に歩みたいのです!!貴女の力を私に貸してください!」
ローラン
「うっ・・・・・わあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ローランはまた泣き叫びましたが、もうこれが最後でしょう。存分に泣きなさいローラン、そして再び立ち上がりなさい。貴女の未来のために。
それからしばらくして、ローランの取り乱れた心は癒され、今は落ち着いていました。
ローラン
「ごめん、もう大丈夫。」
ルシファー
「そうですか。」
ローラン
「ルシファー。私行くよ。貴女と貴女が信頼するベリアル様の下に、連れて行って!」
ルシファー
「「ええ!喜んで!」と言いたいところですが、その前に寄るところがいくつかあります。」
ローラン
「私感動的な事言ってたのによく平気でぶち壊せるわね。」
ルシファー
「仕方ありません。私はこれから兵隊を集めなければません。そのために神殿や集落を周らなければなりません。」
ローラン
「だったらここから先は天使族の住む神殿と、竜人族の住む集落しか無いわ。そこから先はレリックの国境線を入って最初の村『ペルーニャ村』しか無いわよ?」
ルシファー
「そうでしたか。ではそのルートで周りましょう。丁度我が軍の合流地点が『ペルーニャ村』なので、詳しい話は移動しながら話しましょう。」
私とローランは『シャガの大森林』を出て、天使族の住む『パルス神殿』へと向かった。その日の夜、テレサから連絡があってベリアル様が冒険者として大出世したとの事です。
その翌日、王都で冒険者活動に勤しむベリアル様達は、レイと言うエルフの女性からある人物の事を聞いていました。それは集会所に向かう途中の事でした。
レイブン
「『エルザ・フォルテ』?」
レイ
「はい。私や貴方と同じプラチナクラスの冒険者で『大元帥』の称号持っている『大魔法使い』です。」
「へーそうなんだ。」とベリアル様は無関心に聞いてたそうです。そんな中ベリアル様に同行していたアイネが街の異変に気付いたのです。
アイネ
「先生、なんか昨日より人が減っていません?」
レイブン
「そう言えば出店も昨日より少ないな?」
ミオ
「それにみんな元気がない。」
レイブン
「たまにこう言う事はあるのですか?」
レイ
「いいえ?こんな事は初めてです。一体何があったんだ?」
桃央
「みんな葬式みたいな顔してますね?」
ベリアル様達が集会所の近くまで来た時、二人組の男が出てきたのです。確かダハードとバックと言いましたか?何か深刻そうな顔をしていたようです。
アイネ
「あっ!ダハードさんにバックさん!」
ダハード
「アイネちゃんにミオちゃんも。」
バック
「それにレイブンさんにレイも来たのか。」
レイブン
「お二人共顔色が宜しくありませんが、何かあったのでしょうか?」
ダハード
「それがこんな封筒が王都からきたんです。」
二人が取り出したのは、白ではなく赤い封筒でした。ですが何故赤なのでしょう?その理由をベリアル様はご存知でした。
レイブン
「これは・・・『赤紙』ですか。」
レイ
「ご存知なのですか?」
レイブン
「軍からの『召集令状』です。一般人を予備軍として派遣するための令状です。」
レイ
「そんな!?民衆を軍人に!?非戦闘員を戦場に駆り出すなんて無茶苦茶だ!!」
レイブン
「ですがこの令状は断る事も出来ます。」
レイ
「そうなんですか!?なら二人共今すぐにでも断るんだ!!こんな令状無視すればいい!!」
レイブン
「ただし!その令状を断れば『非国民』とみなされ、罪人として処刑されます。」
ミオ
「それって強制じゃないですか!?」
桃央
「こっちに拒否権なんて最初からないじゃないですか!?」
どうやらベリアル様の方は大変な事になったみたいです。私もそれを知ったのは『ペルーニャ村』に到着して輝夜に聞いた時でした。何故そのような事になったのか、その理由も聞かされました。
バック
「レイブンさんの言う通りだ。この紙に書かれている事は全部あんたの言った通りだ。」
レイ
「やはり二人共行くのか。」
バック
「まあな。けど!死んでくるつもりはないぜ!」
ダハード
「まだお前に鼻を明かしてないからな!」
レイ
「一生無理だと思うけど。」
ダハード
「言ってくれるぜ。」
バック
「レイブンさん、レイの事お願いします。徴兵される心配はないと思いますが、その時は守ってやって下さい。」
レイブン
「わかりました。尽力を尽くします。」
ダハード
「ありがとう!では、俺達はもう行きますので。」
レイブン
「ご武運を祈っています。」
レイ
「二人共!!絶対生きて集会所に帰ってくるんだ!!」
ダハード
「そのつもりだよ!」
バック
「お前も元気でやれよ!!またな!!」
ですが、二人が帰ってくる事はありませんでした。彼等の乗っていたレリックの連合水軍の船が敵の砲弾を受けて轟沈し、二人共その船と共に海の底に沈んでいったのです。その知らせが届いたのは、私達がレリックに攻め込む三日前の事でした。
王都でそんな事が起きているとも知らず、私とローランは『パルス神殿』の入り口まで来ていました。ですが私達は今『弓兵天使』達に完全に包囲されていました。
ルシファー
「困りました。出来れば戦闘は避けたいのですが、そうもいかないようですね。なのでローラン万が一貴女だけでも逃げて下さい。ローラン?」
ローラン
「ギモヂワルイ・・・・ウエェ・・・・。」
やはり魔族であるローランには神聖聖域の『パルス神殿』は少し厳しかったですか。ですが『シャガの大森林』の悪魔が、そんな軟弱では困ります。だから私は心を鬼にしました。
ルシファー
「ローラン、お行儀が悪いですよ。悪魔とはいえ女性は清楚で慎ましくしなければいけません。」
ローラン
「ナンデアンダヘイギナノ?」
ルシファー
「私は魔属性だけでなく神属性も持ち合わせているのでなんの影響もないのです。」
ローラン
「ジブンダゲズルイ!」
ルシファー
「仕方ありません。ではこの薬を飲んで下さい。少しは楽になりますよ。」
けど彼女に渡したのは薬ではなく『呪怨の水』と呼ばれる宝具で、不の感情を集約して出来た水です。神聖属性の聖域に入った魔族は、全てのステータスが20%下がってしまうのです。この宝具はそのステータスを元に戻したり、上げたりする事が出来ます。
ローラン
「あるならもっと早く出してよ!」
ルシファー
「ごめんなさい。まさか酔うまでとは思いもよりませんでした。」
レニアス
「お取り込み中のとこ悪いが、家のリーダーがあんたらと話がしたいそうだ。入っていいぞ。」
ルシファー
「御目通り感謝します。」
金髪の男性天使に連れられ、私達は神殿の中に案内された。白い大理石の廊下を進んでいくうちに、大理石の円卓が置かれた広間へと出た。そこに一人の天使が、私達を待っていたかのように挨拶をしてきました。
リリィ
「ようこそお越し下さいました。私は『白銀天使 リリエントエンジェル』。『リリィ』とお呼びください。」
ルシファー
「『ガイロス帝国軍』魔王ベリアル配下、四天将の一人『魔天竜王ルシファードラゴン』と申します。此方は『ルシファー』でお願いします。」
ローラン
「ローランよ、よろしく。」
『白銀天使 リリエントエンジェル』。レベルは184。属性は『神』。種族は『天使』。職業は『魔法天使』。
髪型は青いグラデーションがかかった縦ロールの銀髪で、瞳の色は赤紫色。真白なフリルのドレスですがスカートは短めで、背中には雪景色を彩るような綺麗な翼が生えていて、さらに彼女の持っている羽扇も同じように綺麗な羽でした。
性格は穏やかで慎ましくお淑やかですが、彼女の信念と頑固さと真面目さは人一倍。さらに彼女の武器はその『智略』です。今まで『パルス神殿』が無事だったのは、彼女の采配でレリックの兵士達を何度も撃退していたからです。
リリィは私達を歓迎するかのように、大理石で出来た椅子に座らされ、彼女から色々聞かされた。彼女は恐らく手練れの知恵者と見た方がいいでしょう。慎重に交渉を進めなければなりません。
リリィ
「ではご用件を伺いましょう。」
ルシファー
「我が軍は『レリック共和国』へ進軍すべく、周辺部族達に戦争参加への交渉に参りました。そこで『パルス神殿』にも是非我が軍の傘下に入って頂きたいのです。」
リリィ
「ではガイロスの進捗をお聞かせ下さい。」
ルシファー
「現在『ペルーニャ村』は我が軍の配下として、戦の準備中。私ともう一人、四天将のヘラクレスは東と西の部族と交渉中の為、村々を周っております。『ペルーニャ村』に集結した後に準備が出来次第、ベリアル様の合図でレリック王都に攻め込む予定です。」
リリィ
「西には獣人族が住む『ファレスト高原』と『ダイナマン』が住む『カラストの沼地』。そして東はこの『パルス神殿』と竜人族の住む『パラオ村』と襲撃を受けた『シャガの大森林』ですね。」
ルシファー
「その通りです。」
リリィ
「そして貴女は『シャガの大森林』で生き残りを見つけてここに来た。」
ルシファー
「はい。」
まさかローランの生き残りまで見抜くなんて驚きました。ですが何でしょう?先程から質疑応答しかしていません。彼女は何が狙いでしょうか?全く読めません。
リリィ
「わかりました。我等『パルス神殿』の全天使族は『ガイロス帝国軍』の配下として忠誠を誓いましょう。」
ルシファー
「はい?」
ローラン
「こんなあっさり!?」
レニアス
「何考えてるんだお前!?」
私もローランも、それどころか仲間のレニアスも混乱のあまり驚いていました。それにしても彼女は何を判断基準にして決断したのでしょう?
リリィ
「やはり私は間違っていませんでした。全ての部族が集結すればレリック軍に勝てる筈です。私は各村の部族を説得しましたが、どの部族も自分達の生活やプライドを守る事しか頭になかった。その結果『シャガの大森林』の魔族達は全滅しました。ベリアル閣下はその事実を知った上で行動に移されたのでしょう。」
彼女はこの状況をそこまで見ていましたか。ですが周りがそれを認めず、人間を下等種族と侮った結果『シャガの大森林』の魔族達は全滅した。ベリアル様はその情報を『ペルーニャ村』で入手し、直ぐに実行に移された。詳細まではわかりませんが、概ね当たりです。ですがそれだけで決め兼ねた材料にはまだ足りない筈、では何が彼女の考えをそうさせたのでしょうか。
レニアス
「リリィ!お前わかってるのか!?此奴等は魔王の配下!魔族なんだぞ!!俺達や他の部族を利用した挙句に捨てるに決まってる!!」
ルシファー
「彼の言う事も一理あります。こんなに早く決断するのは些か危険かと思われます。何故そこまで警戒心を打ち解けられるのでしょうか。」
リリィ
「ではお聞きしましょう。ガイロス軍の兵士の中には魔族以外の種族もいますね。」
ルシファー
「確かに我が軍には魔族だけでなく、天使や獣人、石像に妖精、様々な種族がいます。ですが・・・・何故貴女はその事を知っているのでしょうか。」
リリィ
「貴女を見ればわかります。天使のような優しさを持ち、時に悪魔のような卑劣さも持ち合わせ、そして竜のような獰猛さも兼ね備えている。そんな歪な存在の貴女ですら受け入れられている。ベリアル閣下は全ての種族を愛するお方。違いますか?」
なるほど、全ては私を一目見た時から決まっていたのですね。そこまで読み取れるとは思いもしませんでした。しかも私を通じて、ベリアル様の人柄も見抜くとは、大したものです。
リリィ
「そこでお願いがあります。私を貴女の軍師として置いては貰えないでしょうか。」
ルシファー
「私の軍師に?何故私なのです?」
リリィ
「恐らく貴女は自身の直轄の部下はいない筈。ベリアル閣下はこれを機会に、貴女に大部隊編成の為の兵を集めているのではありませんか?なら先ずは軍師をスカウトする事をお勧めしますよ。」
ルシファー
「正直貴女の考察には不気味さを感じます。」
リリィ
「お嫌いになりましたか?」
ルシファー
「いいえ。これほど優秀な人材を、逃す訳にはいきません。なのでリリィ、貴女はこの魔天竜王の軍師として迎え入れましょう。」
リリィ
「ありがとうございます。ルシファー様。」
まさか彼女から申し出るとは好都合です。では気になっていた『パラオ村』についてお聞きしましょう。
ルシファー
「ところでリリィ。『パラオ村』の代表者はどのような方でしたか。」
リリィ
「初めて面会した時は話になりませんでした。それくらい野蛮な方とだけお伝えしましょう。」
ルシファー
「わかりました。では『パラオ村』へ行きましょう。もしかしたらその交渉上手くいくかもしれません。」
こうして私達は『パルス神殿』を後にし、リリィを連れて次の目的地『パラオ村』へと向かいました。ですが到着した私達を待っていたのは、村長の余りにも酷い態度でした。
六角
「答えは一昨日来やがれだぁ!!」
『ペルーニャ村』と同じで作りの家で私達は村長のいる家の中にいます。全て説明し終えた私ですが即答で断られました。彼は『バレットドラゴン』の『六角』と言う竜人で、『パラオ村』の村長をしています。見た目は昭和を漂わせるようなリーゼントに学ランの乱れた着こなしと、まるで昔の不良のような格好をしていました。なるほど、確かに話を聞いてくれる御仁ではありませんね。
ローラン
「こいつ本当に村長!?賊長の間違いじゃないの!?」
六角
「なんだクソ悪魔!!喧嘩売ってるのかぁ!?」
これではリリィが苦戦するのもわかりますが、理由を聞いてみるだけ聞いてみましょう。
ルシファー
「では何が気に入らないのですか?」
六角
「決まってるだろ!!腰抜けで甘っちょろいパラスの天使共!人間如きに殺られるシャガのザコ悪魔!況してや!テメー見てーな何処の馬の骨もわからないガイロスなんたらって軍団の下に付けだぁ!?人をおちょくるのも大概にしろぉ!!ザコや腰抜け共と勝手にやれぇ!!」
陽炎
「ちょっとお兄ちゃん!!幾ら何でも失礼よ!!」
おや?そちらは妹さんでしたか。お兄さんと違ってしっかりしてますね。
六角
「お前は口挟むんじゃねぇ!!女が横から口出すなんざ100年早いんだよぉ!!」
それに比べてお兄さんは無茶苦茶な発言ばかりです。しかも今貴方の目の前にいる私達も女性何ですが、下手に指摘しない方がいいかもしれません。
ローラン
「本当にこいつメチャクチャ。」
リリィ
「全くお話になりません。」
確かに話し合いで解決できる相手ではありませんね。では彼の流儀に従いましょう。
ルシファー
「では六角殿、私と一対一で拳闘をしましょう。」
六角
「あ?」
ローラン
「ちょっとあんた何考えてるの!?」
リリィ
「向こうはこちらを相手にしていません。そのような勝負を受けてくれるかどうか。」
果てさてどうでしょう。彼も男ですから、喧嘩が一番わかりやすいのでわ?
六角
「面白いじゃねーか!わかり易くていい!!」
リリィ
「はい!?」
ローラン
「なんでそうなるの!?」
陽炎
「ごめん、家のお兄ちゃん言っちゃえば喧嘩好きなの。」
六角
「当たり前だぁ!鼻っから御託並べて話聞くのはうんざりだったんでな!どうせやるなら熱く拳で語り合うのが竜人族だろ!!」
やはりそうでしたか。竜人族なら話し合いではなく、拳で語れと言うわけですか。いいでしょう、私も嫌いではありません。存分に語り合いましょう。
六角
「だがな小娘!テメーが負けたら二度とこの村に立ち寄るな。それで受けてやる。」
ルシファー
「いいでしょう。ではそちらが負けた場合は、この魔天竜王の配下になって頂きます。それでよろしいですね?」
六角
「喧嘩上等だこのヤロー!!」
お互いに同意した私達は、村の広場のような場所で決闘を行う事にした。噂を聞きつけた竜人達が次々と集まり、広場は盛大な盛り上がりとなっていました。
ルシファー
「賑わってしまいましたね。」
六角
「喧嘩に見物客は付き物だ!派手に暴れようぜ!!」
それは結構です。これだけの見物人がいれば全員が服従するでしょう。
六角
「そんじゃあいくぜ!!」
構えて来ましたか。ではお手並み拝見としましょう。
六角
「強化奥義!!『ドラゴニックブラスト』!!」
先ずは攻撃力と素早さを上げてきましたか。そのままこちらに突っ込んできますね?だとしたら大技が来る可能性がありますね。
六角
「竜撃奥義!!『竜拳百連撃』!!」
なんと!大技では無く連続攻撃で来ましたか。
六角
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!ラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!!」
なんと凄まじい攻撃でしょう。全く隙がありません。受け止めるのが精一杯です。
陽炎
「ねえ?なんなのあの子?」
ローラン
「私も彼女と戦ったけど手加減されてたからな。」
リリィ
「流石はルシファー様。ここまでの実力とは!」
陽炎
「いやそう言う次元じゃないでしょ!?あの子お兄ちゃんのパンチ普通に受け止めてるんだけど!?」
まあ私から見れば鬱陶しいヘナチョコパンチですからね。おや?彼のパンチにキレが無くなりましたね?
六角
「はぁはぁはぁ・・・・ヲワタァ・・・。」
ルシファー
「おや?もう終わりですか?」
六角
「ああ・・・この後「テメーはもう死んでるぜ!」って決め台詞が入るんだがな。」
どこかで聞いたような台詞ですが大分息が上がってますね。今までは百発打ち終わる前に相手がダウンしてしまうから、このような事は初めてだったのでしょう。
ルシファー
「では次は私の番ですね。」
六角
「は?」
ルシファー
「『ドラゴンナックル』!!」
六角
「ぐはぁ!?」
私の拳が彼の溝打ちを直撃し、そのまま真上に殴り飛ばしました。集まっていた観客達はそのまま釣られて空を見上げて驚いていました。しばらくして彼が落ちてきて、そのまま仰向けの状態で地面に叩きつけられましたが、意識が飛ぶ事はなく空を見上げてました。意外とタフなのですね。
真昼
「お兄ちゃんが・・・・たった一撃で?」
村の竜人達は何が起きたのか理解出来ていないようですね。少々やり過ぎてしまいました。
六角
「負けた。負けちまった!」
ルシファー
「その割に楽しそうですね?」
六角
「まあな!こんな気持ち良く負けたのは初めてだ。」
彼は何事も無かった様に起き上がり、胡座をかいて座っていた。かなり真剣な顔をしていましたが、決心がついたみたいですね。
六角
「魔天竜王ルシファードラゴン!俺達『パラオ村』の竜人は魔王ベリアルの頭の幹部であるお嬢の舎弟となる事をここに誓う!!」
ルシファー
「こちらこそよろしくお願いします。」
六角や他の竜人族と打ち解けた私達は、『パラオ村』を後にして次のゴール地点である『ペルーニャ村』に向かいました。
陽炎
「で?なんで私が行かなきゃいけないの!?」
何故か竜人族はからは陽炎が同行する事になりました。
ローラン
「仕方ないでしょ。あんたのお兄さんは兵隊引き連れなきゃいけないんだから。一番適任なのあんたでしょ!」
陽炎
「他にも私より腕が立つ人いたんだけどな。」
リリィ
「まあまあ、これも「袖振り合うのも他生の縁」と言うじゃありませんか。」
陽炎
「そうだけど。」
『バレットドラゴン』。真名は『陽炎』。レベルは152。属性は『地』。種族は『竜人』。職業『格闘』。
オレンジ色のメッシュが入ったミルキーブラウンのウェーブヘアをサイドでまとめている。瞳の色は赤紫色。服装はオレンジ色の半袖のシャツにミニスカート、両手と両足には竜鱗の形をした防具が装備されていた。スカートの中から竜の尻尾が出ていた。
性格はしっかり者で、お兄さんと同じ自分の信念を曲げない性分。何ごとにも全力で取り組む。
先程の村長、六角の妹である。
ルシファー
「皆さん、この森を抜けたら『ペルーニャ村』に到着しますよ。」
私達は『ペルーニャ村』を囲んでいる森を進んでいました。すると出口らしきものが見えたのか、日の光が差し込んできた。森を出ると『ペルーニャ村』の前に出ました。そこで彼女達は村を見て驚いていました。
ローラン
「これ・・・・村なの?」
陽炎
「なんか守りが厳重だけど?ここら辺モンスターなんていない筈よ?」
リリィ
「ですが間違いありませ。即席とは言えこれは城壁です。」
ルシファー
「この城壁はレリック軍から村を守る為の城壁です。彼等はまた攻めてきますから。」
三人共息を飲んで、城壁の正面の門の前まで来ました。すると私達を待っていたかの様に門が開き、そこに戦闘メイド『ワルキューレ』のクトリ・コロナロスが出迎えてくれました。
クトリ
「お待ちしておりました。魔天竜王ルシファードラゴン様。長旅の遠征ご苦労様です。」
ルシファー
「貴女もお役目ご苦労様です。現在の状況をお聞かせ下さい。」
クトリ
「はい。現在『ペルーニャ村』の防備は、我が軍の『骸骨剣士』とアルタイル・ウラジオストクの働きで完成しました。レリック軍の攻撃にも耐えられるでしょう。」
流石はテレサの部下、仕事が早いですね。これ程の城塞を短期間で築くとはなかなかです。
クトリ
「それと先程到着したヘラクレス様がルシファー様に面会を求めています。」
ヘラクレスも到着しましたか。流石は昆虫軍団総大将ですね。私とは大違いです。ですが面会とは何でしょうか?
ヘラクレス
「ルシファー様。此度の遠征誠にご苦労様です。」
ルシファー
「貴方もお疲れさまです。」
早速お出ましになりましたか。ですが何だか顔色が悪い様ですが?
ヘラクレス
「ルシファー様。ご足労をお掛けしますが、お願いしたき事があります。」
何故その様な事を言うのでしょう?彼の遠征中に何かあったのでしょうか?
ヘラクレス
「この愚かな虫ケラに鉄槌の裁きをお与え下さい!!」
はい?急に土下座までして自ら罪を償いを求める罪人は初めて見ました。貴方は一体何をしでかしたのですか?
ヘラクレス
「このヘラクレス!我等が主人であるベリアル様に斬りかかってしまいましたぁ!!」
ルシファー
「は?今何と仰いました?」
ヘラクレス
「この『ペルーニャ村』に進軍中、レリックに雇われた冒険者の襲撃に遭い戦闘になりました!その冒険者の中に偽装したベリアル様がいた事に気付かず、ワシ自らベリアル様に斬りかかってしまいましたぁ!!」
あー・・・・私はてっきり此度の遠征で問題を起こしたと思っていましたが、それ以前の問題でしたね。ヘラクレス・・・・万死に値します。
ルシファー
「ヘラクレス。」
ヘラクレス
「はっ!!」
ルシファー
「貴方の罪状は、私個人の判断では出来かねません。何故なら・・・・・ガイロス其の物を巻き込む重要案件ですから、死刑や懲役に関しては軍法会議でベリアル様を交えて審議させて貰います。よろしいですね。」
ヘラクレス
「はっ!承りました!!」
ルシファー
「ですが貴方には罰を与えなければなりません。まあそれは私の楽しみでもあるのですが。」
ヘラクレス
「はい?」
ルシファー
「貴方が無様に泣き叫ぶ姿や命乞いをするところ、精々惨めに抗って踠がいて私を楽しませなさい。」
ヘラクレス
「あの・・・・ルシファー様?そこら辺に関してはせめてご慈悲を?」
ルシファー
「この後に及んで貴方はまた罪を重ねる気ですか?私から楽しみを奪うとは愚かな虫螻ですね。安心してください。楽しむだけ楽しんで最後は五体バラバラにしてカラスの餌にするだけですから。」
ヘラクレス
「ヒエェェェェェェ!!」
ルシファー
「ではお話を聞かせた下さい。その後でたっぷりと楽しませてもらいますから。」
私は心を躍らせながらヘラクレスの角を掴み、民家に入って行きました。
ローラン、陽炎
「ど・・・・ドSだ。」
リリィ
「いいえ。あれは彼女なりの仕付けなのでしょう。」
もうワクワクが止まりません♪
ヘラクレス
「慈悲をぉぉぉぉ!!」
次回はヘラクレス視点のお話しになります。