山賊襲撃
「大変だ、山賊だ! また山賊が出たぞ!」
町の表通りを悲鳴が貫いた。
立て続けに激しく打ち鳴らされる半鐘。
宿屋やら商店やらの店主達があわあわとうろたえている。
鐘からほとんど間を置くこともなく、馬蹄の響きが町に届いてくる。槍やら湾刀やらを手にした男達が殴り込んできた。
「金目の物は片っ端からかっさらえ! 邪魔する奴はぶっ殺しちまえ!」
獣の皮をまとった、頭領と思わしき男が怒声をあげた。
瞬く間に町の中央で惨劇が展開される。
「しつこい奴らめ」
そんな中、大通りの一角から三人の男女が戦いの様子を窺っていた。
「先生、さすがに今回は数が多すぎます」
一番左、細身で貧相な外見の青年が言う。
それに対して真ん中に立っている男は、
「だが、この町を守るには戦うしかないんだろうが」
冷静に返した。
「先生一人じゃどうしようもないですがね」
「町長が尻尾を巻いて逃げるなんて、恥知らずもいいところだ」
言いながら、男は通りへと飛び出していった。
物影から見ていた貧相な青年はため息をついて、背後の女性に向き直る。
「星蓮さん、ここで待っていて下さい」
「で、でも、渠郭翔さんは」
渠郭翔と呼ばれた青年は軽く頷いた。
「僕でも、先生の背中くらいは守れると思います」
†
後ろから渠郭翔が追い掛けてくるのを確認しつつ、町長である彼――龍角は手に力を込めた。
眼前には、山賊の頭領と思わしき人物がいる。
「貴様!」
龍角は、相手に剣を突きつける。獣皮に身を包む頭領は、血走った眼で龍角を威圧した。
「なんだてめぇ」
「町長の龍角だ! お前をこの場で成敗する!」
相手の視線にひるむことなく龍角は答えた。怖くない、と言えば嘘になる。
だが戦わなければならない。「町民を捨てた町長」などという汚名をかぶりたくはない。
「ふん、町長か。この俺様とやろうってか?」
その問いに答えることなく龍角は突きにいった。相手は馬上で身を反らしてかわした後、馬から降りて剣を抜いた。
「調子に乗るなよ」
相手の言葉に答える余裕はなかった。
龍角は無言で切り掛かり、頭領の剣と打ち合う。
戦い慣れた山賊だけあって、龍角の剣に軽々とついてくる。
龍角は全力で攻撃を加えたが、悠々と受け流された。相手にはそれだけの余裕があった。
相手の心臓を狙って龍角が突きにいく。頭領が上段から剣を振り下ろし、彼の剣は叩き落とされた。
あっ、と反応する間もなく蹴り飛ばされ、龍角は地面を転がる。
直後に渠郭翔が頭領に挑んだが、たった一合で組み伏せされた。
「なんだなんだ、自分から挑んでおきながらこの弱さか」
嘲笑が降ってくる。頭領は渠郭翔の頭を踏み付け、勝ち誇ったように声を張り上げている。
龍角が必死で立ち上がろうとした時、少し後ろから、甲高い女の悲鳴が聞こえた。
振り返ると、恋人である星蓮が山賊どもに捕まって、通りへ引きずり出されていた。星蓮は必死で抵抗するが、男三人の前では無意味な行動であった。
――誰か、誰か!
腹を蹴られた激痛に、龍角は思うように動けない。
歪んだ視界の端に、星蓮の涙が見えた気がした。
――誰か、助けてくれ!
ここの町民では、山賊に抗えない。立ち上がろうとしながら、龍角は願った。