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無題  作者: 雨地草太郎
19/41

命を預ける

 機英について砦に戻った超水は、そこで戦闘の終結を見た。


 城門の直線上にそびえる砦。正面の広場のあちこちに、折り重なった屍が転がっている。


 守備兵達は敗走していったらしく、砦に抵抗を試みる者はいなかった。


「将軍、城兵は全て敗走。ここに残っているのは、城門を開いた民兵と、近くの山の山賊だそうです」


 駆け足でやって来た兵士の一人が、馬上の機英に報告する。


 機英は馬を下りた。


「山賊も紛れ込んでおるのか」


「は、龍角という男に頼み込まれ、協力したと申しておりますが」


 ほう、と機英は感情の読み取れぬ声を出し、後ろの龍角に首だけ向けた。


「龍角」


「はっ」


「山賊に助力を頼んだと?」


「はい。町の男達が徴兵によって連行されたため、ほかに戦力のあてがございませんでした。罵られることは覚悟の上でございます」


 龍角が、胸の正面で両手を合わせて返す。


「いや、よい。今は戦時。使えるものはなんでも使おうとする心意気は大切じゃ」


 機英は龍角を軽蔑する様子もなく、むしろ感心したように言うのだった。


「山賊の首領をこれに」


 機英が命じると、先程の戦闘中、超水が気になっていた青竜刀の男が現れた。頭にかぶっていた獣の皮を外し、機英の前に膝をつく。


「お主が首領か」


「いえ、(それがし)は副首領にございます。名は周方」


 男の声は太かった。

 よく見てみると、まだ若い。二十五、六というところだろう。太い眉の下に、相手を萎縮させるような鋭い眼光を宿している。


「うむ。では周方よ、首領はどこじゃ?」


「龍角が我々を説得にやってきた時、首領は首を縦に振りませなんだ。いがみ合ってきた我々が協力できるわけがないと。しかしながら、某は龍角の真剣な態度に心を打たれ、また同じ気持ちを持つ者が多くおりました。我々は首領を離れ、龍角に力を貸すことにいたしました」


 周方が考え考え話をすると、周囲の視線は龍角に集まった。


 機英の目も、龍角を興味深そうに見つめている。


「龍角よ、お主はなかなか人心掌握に長けておるようだな。人の上に立つにふさわしい能力を持っておる」


「そのような……」


 言われた龍角は、恐縮しながらも少し嬉しそうだった。


「では周方にも聞くことにしよう。龍角は我が貫州軍の道案内をしてくれるそうじゃ。お主ら山賊はどうする? 真人間に戻りたいというのならば、挽回の機会を与えてやろうぞ」


 周方は背後に首を向けた。

 山賊達が集まって、若き新首領を見つめている。


 一体、彼らは龍角にどのようなことを言われたのだろうか。超水は気になった。いがみ合っていた連中を説き伏せたのだ。龍角にはやはり不思議な力がある。


「呈州を解放した暁には、軍に加えていただけまするか」


「それが望みか」


「は。ここにいるのは、将を志しながら夢破れた者ばかり。金と食糧だけを求める奴らとは違うのでございます」


「その奴ら(・・)と行動を共にしていたのであろう?」


一時(いっとき)、生きるためにやむなく」


 機英は空を見て、首を元に戻す。


「周方、そちの戦力は」


「五十二にございます」


「五十二?」


「はい」


 突如、機英が豪快な笑い声をあげた。


「わずか五十二の兵で、万の兵が守る砦に飛び込んできたと申すか!」


「龍角が、真っ直ぐに城門まで突っ込んで貫州軍を引き込めば勝機はあると」


「あ、いや、それは……」


 龍角が焦った声を出した。


 よほど面白かったのか、機英はまだ肩を震わせている。


「なるほどな。龍角よ、お主の度胸は買うぞ。いや、久方ぶりに笑わせてもらった」


 龍角は恥ずかしそうにうつむいた。


「ともかく、だ。ここに残った者たちは、貫州軍に従う。そういうことでよいのだな?」


 集まっていた山賊、民兵達の全員が頷き、ひざまずいた。


「我々は、貫州軍の支配を望みます」


 全員を代表して龍角が言う。


 その言葉を受けた機英は、大きな動作で右手を挙げた。


「よかろう。――お主ら全員の命、この機英が預かった」

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