誰に賭ける
超水をはじめとする男達が徴兵によって町から姿を消した。
反乱軍の主戦力となるはずであった、ここ広来の男達。
残されたのは、女子供と老人だけだ。
突然に閑散としてしまった町並みを、星蓮はぼんやりと見つめていた。
先程まで、呈州城下への移動のためと、大勢の町民達が騒いでいた。それが、ほんのわずかな時間でここまで静まりかえってしまうとは。酒屋の店主も、宿屋の息子も、そして超水も。
龍角が帰ってきたら、彼はどのような顔をするだろうか。それを想像すると、星蓮の心は重くなるばかりだ。
†
ほどなくして、龍角が町に戻ってきた。
血相を変え、宙を舞っているのかと思うほどの勢いで通りへと駆け込んできた。
「龍角様!」
星蓮はすぐに龍角のもとへ駆け寄る。
龍角は馬から下りると、静かな通りを黙って見据えた。
「やはり、ここも同じか」
気落ちした、というよりも、あきらめにも似た感情が含まれた声だった。
「はい、太守の兵が現れ、若い方々を皆、連れて行ってしまいました」
「そうだろうな。私も、行った先の村で徴兵の者どもと出くわした。もしやと思い戻ってきたが、予想通りだったというわけだ」
はは、と乾いた笑いが、星蓮の耳に届く。
「あの太守にまたしてもやられた。私はやはり、戦略家としては二流、三流というわけか」
「龍角様、どうか気を強くお持ちくださいませ。まだ全てを断たれたわけではございません」
龍角を励まそうとするが、彼の表情は変わらない。星蓮にしても、どのようにすればこの事態を打開できるのか、想像もつかない。
「そう簡単に、貫州軍が敗れることはないと思います。呈州軍が州境に張りついている間、どこかにきっと隙が生まれるはずです」
星蓮は、なおも励ましの言葉をかけた。
その時、龍角がハッとしたように顔を上げる。
「どうせなら、潰してしまおうか」
「……潰す?」
一人で何度も頷き、龍角は星蓮の顔を見た。星蓮は寒気を覚える。
龍角の顔は、打開策を閃いたという顔ではない。自棄になっている、という顔だ。
「きっと貫州軍は州境を突破する。必ずそうなる。ならば、私はそれを利用する」
「龍角様、どうなさるおつもりですか」
問いかけると、龍角は星蓮の両肩に手を置いた。
「星蓮、お前はここで皆を見ていてくれ。呈州はきっと、厳立の手から解放される」
それだけ言うと、龍角は再び馬に飛び乗り、町の外へと出て行ってしまった。
「龍角様!」
星蓮は必死で追いかけようとしたが、町の外に出た時、龍角の姿は、風景に溶け込む点になっていた。
……どうなさるおつもりなのですか。
胸の内に湧き上がる問いに、答える者はいない。




