双子の姉だよ!
SIDE:あい
オーディション当日。
こいちゃんと一緒に来た『ライツ』の301号室の前には壁に沿って椅子が5脚並べられていて、あいたちが座る椅子の他に用意されていた3つの椅子には、それぞれ受験者と思われる子たちが座っていた。
あいたちと同じかちょっと下くらいの歳に見える栗色髪のショートカットの子、その彼女と同じ色の髪を腰まであるツインテールにしてる子、その二人とは対照的に大人びた印象の黒髪ロングの子の3人だ。
日曜日だからか他に人気はあまりない。
ショートの子は顔を真っ赤にして床を見てなにやらブツブツ呟いてる様子から、心配になっちゃうくらい緊張してるのがわかるんだけど、他の二人はなんていうか余裕そうな雰囲気だ。
ツインテールの子はニコニコしてて緊張の欠片も感じられないし、ロングの子はショートの子を心配そうに見ていて、自分のことよりも彼女が心配なようだ。
「……他にいないのかしら」
こいちゃんがキョロキョロと周りを見回す。
「うーん、まあまだ30分前だからこれから来るのかもね」
「そうね」
あいたちは受験番号順になるように端から並んで席に着いた。
あいちゃんに特訓してもらった、踊りの基本を思い出しながら待つこと30分。
301号室の扉から優しそうなおじさんが出てきて、
「ではオーディションを始めます。まず火美あいさん入ってください」
そう言うと彼は部屋に戻っていったのであいもそれに続いた。
「よろしくお願いしまーす」と声を掛けて入った301号室の広い部屋は、真ん中に椅子が置いてあって、その正面に長机が置いてあるというだけだった。
さっきのおじさんが長机につく。その隣に初めから座っていたのは、どこかで見たことあるような、若くかわいらしいお姉さん。
(まぁ、家の隣の会社だし、いつか出勤するところを見たのかも)
あいが真ん中の椅子に着席するとお姉さんが口を開く、それこそアイドルのような澄んだ声だった。
「よろしくね。……さっそくだけどまず、志望動機? 聞かせてもらってもいいかな」
「こいちゃ……妹が心配で―――」
そこでハッとする、最初に『こいちゃん』って言いそうになったのを訂正できたのはよかったけど、そもそも『妹が心配でアイドルやろうと思いました』なんて動機で合格できるはずがない。
「えっとえっと……そう、そうです! こいちゃんの勇姿が間近で見られるからです!
あいはこいちゃ……妹が大好きだからすごく楽しみです!」
「…………ぷっ」
しばらくの沈黙の後におじさんがふき出す。お姉さんも「ふふっ」なんて口を抑えて笑っている。そして二人とも手元の資料に何やら書き込んだ。
え、これはどういう反応なの?
もしかしていきなりやらかしちゃったかな?
「歌とか歌えるかな? 聞かせてほしいんだけど」
焦るあいとは反対に、女性は楽し気にそんなことを聞いてくる。
「えっとぉ、何の歌ですか?」
「『SHINE』の『かがやき』、歌えるかな?」
これなら多分歌える。
『SHINE』っていったら一昨年解散しちゃったらしいけど、国民的アイドルって言っても過言ではないほど人気なアイドルだったし、『かがやき』はその代表曲でカラオケなんかでもいまだに定番曲のひとつ。
全盛期には街中どこに行っても流れてたから聞いたことのない人はまずいないと思う。それにこいちゃんがCDも持ってて、たまに部屋にも流れてるしね。
「大丈夫だと思います」
「じゃあ、歌ってみようか。あ、一応歌詞カードあげるね」
お姉さんがあいの前まで歩いてきて、ちょうど立ち上がったあいに『かがやき』の歌詞が印刷されたプリントを手渡してくれた。
そしておじさんが机に置いてあったリモコンを操作すると、部屋の四隅にあるスピーカーから『かがやき』の聞き慣れたイントロが流れ始める―――
「~~~♪」
あいが歌い終えて椅子に座り直すと、二人が拍手してくれる。かなり好印象を与えられたんじゃないかなぁ。
またもや、彼らは資料になにか書き込んでいる。
「これで最後ね。火美さんはアイドルになったら何がしたい?」
「そうですねぇ、何がしたいって言うより、こいちゃんとか他のみんなと歌ったり踊ったりするのがとっても楽しみです」
「なるほど……ありがとね。これでおしまい」
お姉さんは太陽のような笑顔で笑いかけてくれた。
「ありがとうございましたぁ!」
あいはぺこりとお辞儀して、おじさんの「お疲れさま」という声を背に部屋を後にした。
質問もあんまりなかったし、あっさりした面接だった気がする。
部屋の前の椅子に座ると、ツインテールの子が少しも緊張感のない無邪気な笑顔で話しかけてくる。
「ねえねえ、あなたたち双子なの?」
「そうだよ。似てるでしょ」
「うん……でも目元がちょっと違うね」
初めて会った人であいたちの違いがわかる人ってあんまりいないんだけど、この子よく観察してるなぁ。
「そうだね、あとねぇ、こいちゃんのアイディアでサイドテールの結んでるのが、反対なんだぁ」
あいは右側のサイドテールを持ち上げて見せる。
「そ、そんなこと言わなくていいわよ……」
隣に座ってるこいちゃんは、少し恥ずかしそうだ。
「えー、いいじゃん」
あいが口を尖らせるのと同時にガチャッと扉が開いて、中からさっきのおじさんが顔を出した。
「火美こいさん、入ってください」
時間通り更新できず申し訳ないです。次回は普通に17日の午前6時更新です。
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