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ほんの少しの勇気

 SIDE:はな


 叔父さんがご機嫌に話し出した新作ゲームの話は長々と続いた。専門的なことはよくわからなかったけど、簡単にまとめると、新作ゲーム『MIRAI』はバーチャルの世界に入ったような感覚で遊べるというものらしい。ものに触れることもできるし、寒さや暑さ、食べたものの味なんかもわかるとか(さすがに空腹は満たせないらしいけど)。

 そして『MIRAI』にはゲームソフトなどの概念はなくて、サービスとして色々なゲームが最初からできるそうだ。イメージは来場者が好きなアトラクションに行ける遊園地。

 『MIRAI』内では基本的に誰もが好きなことをできて、逆にアトラクションを作ってしまうなんてこともできるようになっているらしい。

 そしてここからが本題なわけだけど、今回募集するアイドルとしての活動は宣伝などに加えて、『MIRAI』の中でのマスコット的な役割もあるらしい。そして、もちろん普通のアイドルのようにライブなども『MIRAI』の内外ともにやらせてもらえるということだ。

 改めて「どうだろう?」と叔父さんは私たちを勧誘する。

 私は配布会の時のひかりさんの言葉を思い出していた。アイドルになるのに必要なこと――


『うーん、定番だけど努力することと、しっかり夢を持つことと、運……かな? あとは勇気とか』


 努力は今までいっぱいしてきたと思う。

 夢だって、私はずっとアイドルになりたいと思い続けてきた。

 運っていうのは、今まで何の事だかわからなかったけど、アイドルになるためのチャンスを今、叔父さんが持ってきてくれた。これは運が良かったと言う他にないと思う。

 最後……勇気、私に欠陥してたのはこれだった。自覚もしてる。

 これがなかったから、今までオーディションを受験することすらできなかった。

 でも今なら叔父さんに、「やりたい」とひとこと言うだけでいいんだ。エントリーシートを出し行く必要もない。

 運が必要っていうのはつまりこういうことでもあったんだと思う。


「あの……私、やりたいです」


 私が言うと、叔父さんの表情がパッと明るくなる。その顔をうたちゃんに向ける。


「はなちゃんがやるなら、うたもやるってことでいいな」

「うん、約束だからね」


 うたちゃんもやるということらしい。

 募集人数は5人で、2人は応募して来てくれたっていうから、私とうたちゃんが加わって4人。

 そうなると、当然のえちゃんに3人分の視線が集まる。


「……私も、やりたいです」


 視線が向いたからとかそういう理由ではなく、強い意志を持って決めたのだろう。それは瞳の色を見ればわかる。

 私に気を使ってくれていたからか言ってはくれなかったけど、のえちゃんがアイドルを諦めるって言い出してからも、やっぱり諦めきれてないのは目に見えて明らかだったしね。

「ありがとう。助かったよ……」

 叔父さんはお礼とともに、私たち3人それぞれに白い封筒を手渡してきた。


「その中には、さっき説明したような『MIRAI』関係のこととかが書かれた資料と、受験票が入ってる。資料はまだ発表してないことがほとんどだから口外はしないでくれると助かる」

「オーディションは来週だっけ?」

「そうだ。倍率はちょうど1倍だから、よっぽどのことがない限りは落ちたりはしないけど、一応面接はあるからね。急で悪いけど、うたが言った通り来週の日曜日だ」

「「はい」」


 了承の意味を込めて私たちはそろって頷く。

 その後、叔父さんはお母さんと話し始めたから、私たちは私の部屋に移動した。

 あいかわらず、のえちゃんはうたちゃんのことを無視し続けてて、流れる空気は決していいものとは言えないけど、まあこれはいつも通りだ。


「……あと二人の子ってどんな子たちだろうね」

「いい子だといいけどね」


 私がなんとはなしに聞くと、のえちゃんがなぜかうたちゃんをにらみながら言う。うたちゃんは「ひっ」なんて声を上げて怖がってるし……。


「それにしても、意外にもあっさりと、はなちゃんの夢は叶っちゃいそうね……」


 のえちゃんは感動のあまりか、目に涙を溜めている。自分も一緒にアイドルになれて、小さい頃の約束も達成できるわけだから無理もない。私もうれしい。


「そうだよね。それにしても、うたちゃんは別にアイドル目指してるとかそういうわけじゃ無かったよね?」

「うん、そうだけどパパが困ってるし、おねえちゃんも一緒ならね!」


 またのえちゃんはギロリとうたちゃんをにらむ。さっきの感動の表情はどこへやらだ。

 これから一緒にアイドルをやっていくのに、この調子で本当に大丈夫なんだろうか?

 ていうか、二人とは昔から仲がいいから大丈夫だけど、私は新しく入る二人とちゃんと話せるだろうか?

 学校でも話せる友達って、3年生なのにのえちゃんしかいないし……。


「いざやるとなると、色々不安になるね……」

「そんなに心配することないよ。私も一緒だから、ね」

「そうだよ、おねえちゃんダンスだって歌だって上手なんだから!」



 しばらくすると、うたちゃんは叔父さんとともに帰宅し、残ったのえちゃんと私はもう何度見たかわからない『SHINE』の解散ライブのブルーレイを見始めた。やはり彼女たちのライブは画面越しでも素晴らしく、見とれてしまう。

 私も彼女たちと同じスタートラインにやっと立てそうだ。今まで『SHINE』は憧れの存在で夢でしかなかったけど、これからはもっと身近なもの――目標だ。

 彼女たちのようなみんなを笑顔にできるようなアイドルになりたい、それを叶えるチャンスを手に入れたんだ。


「私たちもこんな風になれるといいね」


 のえちゃんも私と似たようなことを考えていたらしく、テレビに顔を向けながらも静かに言う。


「……がんばろうね」

流れが大きく変わる7話です。

これまで10時に更新していたのですが、これからは6時に更新させていただきます。よろしくお願いします。


更新報告等twitterでさせていただいております。

https://twitter.com/haru_akami


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