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アスピラシオン!

 SIDE:はな


「これが我が社の新プロジェクト。なんとあの『SHINE』の元リーダー、天野ひかりが育てたアイドルグループです。お願いします!」


 叔父さんの声を聴いて、予定通り私たちはステージに出る。

 お客さん達の歓迎の声で会場はドッと沸いた。


(ま、まさかここまで歓迎されるとは……)


 モニターで見るよりも多く見えるお客さんを前に、私の胸は恥ずかしい気持ちでみるみるいっぱいになっていく。


(――でも不思議と堂々としていられる)


 普段の私なら間違いなく顔を覆ってしゃがみこんでしまっていたことだろう。でも今は自分の脚でステージを踏みしめていられる。笑顔のままでいられている。

 これならここから始まる自己紹介を兼ねたフリートークもなんとかなりそうかも。


『こんばんは、私たち今日『ライツ』からアイドルとしてデビューさせていただく『アスピラシオン』です。ぜひ覚えて帰ってくださいね!』


 のえちゃんもキラキラとしたとびっきりの笑顔を浮かべていて、チラッと横を見るとみんな同じ顔をしてる。


『私はリーダーの風華のえです。『アスピラシオン』は個性的なメンバーが集まってるのでまとめるのも大変なのですが、みんな一生懸命やってますのでどうか、よろしくお願いします』


 のえちゃんが名乗るのに合わせて、ピコンという効果音とともに何もない彼女の頭上にゲームのHN(ハンドルネーム)のように【のえ】と表示される。


『ちょっと紹介がひどいんじゃないかしら? まさかその個性的の中にあたしは含まれてないわよね』

『えぇ、こいちゃんが一番個性的だってぇ。あいは火美あいっていいます。そこのちょっとツンツンした子は火美こいっていってぇ、あいの双子の妹なんです』

『ちょっと、あいちゃん。あたしのことまで紹介してくれなくれなくていいから』


 なんか受けてる。

 いつも通りグダグダな会話が繰り広げられてるだけなのに……。

 そんなことを考えていると、彼女たちの頭上にもそれぞれ【こい】、【あい】と表示される。


『端っこ同士で言い合ってるけど、まだセンターのおねえちゃんが一言もしゃべれてないんだけど……』

『あら、はなちゃんの心配してるけど、あなたもまだ紹介が済んでないじゃない』

『あ、いいよ。うたちゃん先に自己紹介しちゃって。ひゃわっ』


 マイクを通してないつもりだったのに、思いがけずスピーカーから自分の声がしてびっくりした……ていうか今の「ひゃわっ」まで入っちゃったよね。


『ほら、はなちゃん。うつむいてちゃダメだよ』

『そうよ、しっかり顔あげなさい』

『ご、ごめんなさい』


 そうだ、今はステージに立ってるんだから、しっかりしてないと。


『で、どうしたのよ。急に驚いたような声あげて』

『い、いや。まさかマイクが音拾っちゃうと思ってなくて』

『あぁ、そうだよね、このマイクびっくりするくらい音拾っちゃうよね。それはともかく、じゃあうたが先に自己紹介しちゃうね』

『うん』


 うたちゃんも私と同じこと思ってたみたい。

 このマイクがいいやつだからかもしれないけど、まさかマイクがここまで音を拾ってしまうものだったとは。


『うたは雷戸うたです』


 うたちゃんが自己紹介して例のごとく彼女の頭上に【うた】と表示されたところで、客席が少しざわついた。

 雷戸って苗字は珍しいから、社長の親族だってことに気付いた人が何人かいるのかもしれない。


『うたはみんなと楽しくできたらなぁって思ってます。えーと、みんなっていうのはこの『アスピラシオン』のことだけじゃなくて、お客さん達や世界中のみんなってことで……世界中のみんなが『アスピラシオン』です!』

『いや、意味わからないわよ。途中まではよかったのにどうして最後そうなったのよ』

『えぇ、あいはいいと思うけどなぁ。みんなが『アスピラシオン』って素敵じゃない?』

『……私も好きかも』


 私は同意を示すために小さく手を挙げる。


『はなちゃんが好きなら、私もいいと思うわ』

『なんでよ。いや、のえさんの『はなちゃんが好きなら』ってどういうことよ』

『あはは、こいちゃんのえさんのモノマネ上手だね』


 うたちゃんの大爆笑につられて、客席からも笑いが起こった。


(そんなに似てるようには思わなかったけど……)

『はぁ、私はそんなにアニメ声じゃないわよ』


 のえちゃんはやれやれとため息をついて「まあ、いいわ」と上手くマイクを通さずに独りごちて続ける。


『じゃあ、最後ははなちゃんの番ね。自己紹介』

『あ、そうだね。水涼はなです。えっとぉ……』


私が名乗ると頭上で『ピコン』と効果音が鳴った。おそらく【はな】と表示されたのだろう。


(……あれ、自己紹介って何を言えばいいの?)


 今までまともに自己紹介をしてこなかった私が、助けを求めて隣ののえちゃんを見ると、何を勘違いしたのか「がんばって」とガッツポーズを見せつける。

 いや、いつもとは違って緊張で言葉が出ないとかではないんだけど……。


『好きな食べ物はカレーで、嫌いな食べ物はナスです』

『はなさん、他に何か言うことなかったの……?』


 呆れたようにあいさんが言ってくる。


『え、ダメ……かな?』

『いや、ダメではないけど、何か他に言うことが―――』


 その時、のえちゃんが舞台袖の叔父さんと軽くアイコンタクトを交わして、


『ごめんね、二人とも。時間も押しちゃってるみたいなので、そろそろ自己紹介の時間は終わりにしますね』


 のえちゃんがそう言うと、予想外にも『えー』なんて心底残念そうな声を、お客さんとあいちゃんが上げた。

 それだけ今のトークを楽しんでくれていたのだろう。アドリブで、しかも普段とそう変わらないことをグダグダと話してただけなのに……これでよかったのかな?


『では最後に、聴いてください。私たちのデビュー曲、『アスピラシオン』の『Aspiration』です!』


 打ち合わせ通りのえちゃんが話を進めると、メンバーの中で一番ダンスも歌も上手いからとセンターになった私が今度はマイクを通さず「いくよ!」と声を掛ける。同時に音楽も流れ始めた。


 ちゃんときれいに踊れるかな?

 ちゃんと間違えずに歌えるかな?

 密かに抱いていた不安。

 でも入りのソロパートで顔を上げるとそんな気持ちは全部吹き飛んだ。代わりに私の中に入ってくる感情は楽しいとかうれしいとかそういうもの。いつもダンスや歌の練習をしてる時に感じるのと似た感じだけど、今の方がずっと大きい。

 短いソロパートが終わって、次ののえちゃんが歌い始めた時に気付いたんだけど、さっきまであった恥ずかしさなんていうのは一切なくなっていた。

 それに気持ちだけじゃない。私も含めてみんな練習の時よりずっと上手に踊れてるし、歌えてる。


(ステージってこんなに楽しいものなんだ……)


 全員合わせてもそれほど長くないソロパート後も当然、みんな息ピッタリで完璧だった。

 練習の時にも完璧だったって思ったことは何度もあったけど、そんなのは全然比にならないくらい、ここまで呼吸が合ってることって今までには一度もなかった。

 最高の気分だ。

 アイドルになりたいって小さいころからの夢が叶った。まだまだ『SHINE』には届かないけど、確かに近づいたんだって実感できる。

 きっとみんなとなら――『アスピラシオン』の五人ならもっともっと高いところを目指していける! 大きな志がある限りどこまでも!

完結です。ありがとうございました。

過去の自分が書いていたのがもう一話分くらいなのですが、そこまで行くときれいに終わることができそうになかったのでここで完結とさせていただきます。続きを書くことも考えてはいましたが、とりあえずはここで終わりにします。

不定期更新ではありますが、『じゅんぱくぶーけ』という連載もしておりますのでそちらの方よろしくお願いします。

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