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バレないように偵察

 SIDE:こい


「こんなに変な恰好してこなくてよかったんじゃないかな?」

「なに言ってるのよ。こういうのってバレないようにやるのが基本でしょ」

「基本って何の基本?」

「………基本って言ったら基本なのよ、黙って見守りなさい。隙ができ次第あたしたちもチラシをもらいに行くわよ」

「隙って……」


 お昼前、あたしとうたはコソコソと陰から、あいちゃんたちの様子を窺う。

 バレないようにとサングラスとマスクをしてるせいか、通りかかる人たちはみんなあたしたちを一瞥していく。

 昨日、あいちゃんが唐突に「あいねぇ、明日初めての経験するんだぁ」なんて言いだした時には目が飛び出しそうになった。

 よく聞いてみるとチラシ配りのお仕事の経験ということらしいと分かって、胸をなでおろしたものだった。

 で、少し心配になって様子を見に来てみたんだけど――


「それにしても、順調だね。おねえちゃんも顔は赤くなってるけど、ちゃんと配れてるみたいだし」

「そうね。あいちゃんもなんだか、今朝よりスッキリした顔になってる気がするわ」


 ふむ、のえさんはついでにあいちゃんの悩みも聴いてくれるようなことを言ってたから、もしかしたら解決までしてくれたのかもしれない。

 嬉しいような悲しいような……。


「ていうかさ、絶対のえさんこっちに気付いてるよね。さっきからちょくちょくこっち見てるし」

「そんなわけないわよ。あたしたちの変装は完璧だもの……まあ、せいぜい変な人がいるって程度に思われてるだけよ」

「あいちゃんはそれでいいの……?」


 のえさんを見るとたしかに、たまにこちらに視線を向けている時がある。

 こちらにっていうか、うたにって言った方が正しいかもしれない。

 のえさんの表情は笑顔ではあるものの、どこか邪悪な気配が感じられる笑顔だ。あの眼には言い知れない威圧感がある。


「ところでさ、変装と言えばあの衣装かわいいよね」

「さっきあいちゃんから送られてきたメッセージ曰く、ステージではあれ着るらしいわ」

「っていうことは、うたたちのも用意されてるんだね」

「そう思うと、楽しみね。あたしたちのは何色になるのかしら……と、そろそろ近くで様子を見るためにチラシをもらいに行きましょ」


 あたしが歩き出すと、「さすがにバレちゃうと思うんだけど……」なんて呟きながらも後からうたがついてくる。

 まさかこの完璧な変装がバレることなんんて万に一つもないだろう。

 もしもそんなことがあれば、今日からあいちゃんと別々にお風呂に入ってやっても構わな――


「あ、こいちゃん! 来てくれたんだねぇ」


 前言撤回。

 うん、多少の変装で、双子の妹に気付かないなんてことはあるはずないよね。


「あいちゃんがしっかりお仕事できてるみたいで安心したわ」

「あいはお姉ちゃんなんだから、こいちゃんが心配することないんだよ」


 正直なところ、双子だからあいちゃんのことを姉だと意識することってあんまりないんだけど、当の本人は昔から自分は姉だから、あたしよりもしっかりしてると思ってる節がある。

 でも他の人からは、性格のせいかあたしの方が姉だと思われることが多い。


「おはよー!」


 隣では、あいさつとともにうたがはなさんにギュッと抱きつく。


「ちょっと、人前で……恥ずかしいよ」

「そうよ、早く離れなさい」


 言うが早いか、首まで真っ赤になったはなさんから、すごい剣幕ののえさんがうたを引き剥がした。


「さっきから思ってたのだけど、どうしてあなたたちそんな怪しげな恰好してるのよ」

「あいちゃんが言うには、基本が―――」

「いや、あたしたちが来たとなったら、気が散っちゃうかなって思ったのよ」

「それで変装してきたのね。バレバレだけど……」

「まさかこんなにすぐバレるとは思わなかったわ」


 完璧だったはずなのにどうしてすぐにバレてしまったのか。

 まさかマスクとサングラスだけでは足りなかったというのか。


「お、こいちんにうーたんも来たんだ」

「それってあたしたちのことですか?」

「え? 嫌だった?」


 さっきまで少し離れたところに座っていたひかりさんがこっちに歩いてくる。

 ちなみに彼女はだてメガネをかけていて、それだけで正体を隠している。

 どう見てもあの天野ひかりなのに、誰にも気づかれていない。どうなってるんだこれは。


「べ、別にいいですけど……」

「うん、じゃあ決定ね。そろそろお昼休憩にするから、いったん控室に戻るよ」

「じゃあ、うたたちはお買い物して帰ろうか」

「えー、せっかくだから一緒にご飯食べようよぉ」

「関係ないのに控室に入るわけにはいかないでしょ」


 あいちゃんと一緒にご飯を食べたい気持ちはあるけど、今回はやむを得ない。


「大丈夫だよ。こんなこともあろうかとお弁当も6つ頼んであるし」

「え、それなら最初から5人でチラシ配りすればよかったんじゃ……」


 はなさんが首をかしげる。


「それは私もそう思ったんだけど、ここで全員が出ると発表の時の楽しみがー、って社長からの命令でね」


 さすがに一代で大企業を育てあげる天才(オーディション後に読んだ雑誌にそう書いてあった)は、しっかり考えがある上で物事を進めているようだ。

よろしくお願いします。

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