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少しだけ自信がついたかな

 SIDE:はな


「そういえば、あいこのイベントについて実は全然知らないんだけど、ゲームの発表とかってマスコミの方に向けてやるものじゃないの? チラシなんて配ってるけど一般の方も入れるのかな?」

「うーん、そういう場合は多いんだけどね、『ライツ』は新作ゲームとかの発表の度に結構大きい会場を借りてイベントをやってるの。もうマスコミの分の応募は締め切ってるんだけど、一般から応募を受け付けるのは来週からなんだ」


 のえちゃんは人差し指を立てて、あいさんにその辺の解説をしてあげている。でも、


「こんなの配っても、一瞬でチケット完売しちゃうんだから意味ないじゃん」


 抗議の意味も込めて私は頬を膨らませる。


「もう、まだそんなつんけんして……」

「だってのえちゃんはスカート長いのに、私だけこんなに短いなんておかしいよ」

「えー、はなさんのよりあいのがもっと短いよぉ?」

「そうよ、ひかりさんがデザインしたらしいし、しっかりそれぞれに似合う衣装になってると思うわよ。それにはなちゃんのだって、膝上十センチくらいでそんなに私のと変わらないよ」


 のえちゃんはいつも制服のスカートを折って履いてるから、感覚がマヒしてるんだ。

 私はデフォルトで膝丈なのに……。

 ちなみに火美姉妹の学校のセーラー服のスカートは、折るのは校則違反になるらしいけど、そもそもがかなり短い。私にはあれを履いて街を歩くなんてとてもじゃないけどできない。


「でもさ、最近のアイドルの中ではすごく長いと思うけどなぁ」

「た、たしかに……」

「そうね、『SHINE』の衣装は一番長い時でも、はなちゃんのよりも短かったと思うわよ」

「そうだけど……」


 清々しいほどに正論で返す言葉もない。しかもかわいい衣装であることは確かだ。

 黒いノースリーブのジャケットの下に水色を基調としたワンピース(のえちゃんは黄緑、あいちゃんは桃色)。スカートはフリルで程よく飾られていて、ジャケットの大きな襟と胸元のリボンがそれぞれのカラーになっているのが印象的なデザインになっている。

 私とてこれをかわいいと思わないわけじゃない。

 でもやっぱり自分が着るのと、人が着てるのを見るのとではわけが違う。


「大丈夫だって。すごぉくかわいいよ」

「でもやっぱり恥ずかしいって言うか……」


 のえちゃん以外から直接かわいいなんて言われたのはいつ以来だっただろうか。なんだか照れちゃうな……。


「似合ってるからそんなに心配することないよ」


 なぜか私の照れた様子を見て焦ったように、のえちゃんもそう言ってくれる。


「って、もうこんな時間じゃない。ほら急ぐわよ」


 さらに重ねてそう言うと、のえちゃんは私の手を引っ張る。


「ちょちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が―――」

「えー、もうおしゃべりの時間終わり?」

「ほら二人とも、のんきなこと言ってないで早く行くわよ」

「あ、待って待って。せっかくの初めてのお仕事だから記念に写真撮っとこうよ」


 あいちゃんがそそくさと、ロッカーにしまっておいたハンドバッグからスマホを取り出してくる。

 「まあ、そのくらいなら」とのえちゃんも止まってくれて、3人でギュッと集合するとあいちゃんはスマホの内カメラでパシャッと撮影してくれた。



『話題のゲーム機『MIRAI』がベールを脱ぐ』


 なんて大きく書かれたキャッチフレーズがよく目立つチラシの束を3人で分けて配ってるんだけど、私のものだけなかなか減らない。

 のえちゃんのとあいちゃんのはかなり順調に減ってることからもわかるけど、お客さんが全然いないとかそういうのではなくて、単純になかなか私がお客さんに話しかけられないでいるからだ。

 少し離れたところのベンチに座って、ずっと私たちの様子を見ているひかりさんに助けを求めるべく視線を向けるも、彼女は「がんばれ!」とでも言うかのようにガッツポーズを向けてくるだけだった。


「ほら、はなちゃん。こうやって渡すだけだから」


 のえちゃんは私の耳元でそう囁くと、「よろしくお願いします」なんて通りかかったお姉さんにあっけなくチラシを渡した。


「ほら、はなちゃんも!」

「ちょ、急に押さな―――」


 押されて私が飛び出してしまったのは、強面のお兄さんの目の前だった。見上げる私の顔にキッと鋭い眼を向けられる。


「そ、その……」

「………」


 のえちゃんは「やらかしたぁ」って顔で、あいさんは状況がつかめてない様子だけど、二人とも心配そうにお兄さんと私を交互に見る。


「よ、よかったら来てください!」


 とっさにチラシを一枚差し出すと、彼の顔は一変。厳つい顔はそのままだけど、表情は花畑を走り回る少女のように柔らかくなった。


「おお、『ライツ』の新作ゲーム機だろ。楽しみにしてるよ」

「あ、ああありがとうごじゃいましゅ……」

「お嬢ちゃんたちはずいぶん可愛い恰好してるみたいだけど、アルバイト?」


 あれ? この人、見た目とは裏腹にすごくいい人なのかもしれない。声も口調も優しそうだし。


「あ、いえ、アルバイトではなく、『アスピラ―――もご」

「そ、それはまだ言っちゃダメなやつだよ」


 のえちゃんがうしろから私の口を手で抑える。そうだった、発表前だから情報はあんまり漏らさないようにって言われてたのをすっかり忘れてた。


「会場に来れば全部わかるのでぇ、ぜひ来てくださいねぇ!」

「おう、じゃあチケット取れたら行かせてもらうよ」


 最終的にはお兄さんは満面の笑顔を浮かべて、手まで振ってくれ、てなんていうか中身と見た目とのギャップがすごい人だった……。


「ふう、いろんな意味でヒヤヒヤしちゃったよ。それにしてもはなちゃんやっと1枚減らせたね」

「おー、おめでとぉ」

「あ、ありがと」


 なんていうか渡してみると、思っていたよりも簡単でなんてことないかもしれない。知らない人でしかも少しだけだったけど、お話しできたのもなんだかんだで楽しかった。


(なんだ、意外と簡単かも)


 やってみると意外とどうってことない。恥ずかしくなくなったわけではないけど、これくらいなら私にでもできそうだ。


「よ、よろしくお願いします」


 2枚目を渡すのはさっきまでよりもずっとハードルが低く感じられた。

 さっきのあいちゃんの悩みの話じゃないけど、私が難しいと思ってることなんて実際には大したことがないのかもしれない。なんだか少し自信がついた気がする。

よろしくお願いします。

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