大丈夫、じゃないかも……。
SIDE:あい
かなりの焦りを感じずにはいられなかった。
半月前の初めてのミーティングの日に受けたテスト。
結果はダンスに関して言えば、あいだけがみんなについていけないような状態だった。明らかに劣っているのだ。
歌はうたちゃんがダメダメだったんだけど、この半月ですごい勢いで成長していて、もはや最初とは比べものにならないレベルまできていて、みんなで歌っていてもいい意味でちゃんと音が合うようになった。
でもあいはというと、家でもこいちゃんに協力してもらったりして頑張ってはいるんだけど、なかなか上手に踊ることができずにいる。
あの日に告げられたのは、6月の中旬に『最新ゲーム機『MIRAI』発売直前イベント』にて、あいたち『アスピラシオン』を発表するということで、それまでに一曲マスターしてほしいとのことだったんだけど……。
残された時間はあと一ヶ月くらいしかなくて、あいのせいで完成しないんじゃないかと不安で不安でしかたない。
「あいちゃん、そんな深刻そうな顔してどうしちゃったの? ……なにか悩み事?」
「ううん……なんでもないよ」
あいたちは中学のセーラー服のまま、家の前を通り越して『ライツ』のビルまで歩いてきていた。最近の放課後は毎日練習があるから、学校から直接くるのが習慣になっている。
「でも、なにか悩んでる時の顔してるわよ」
「なんでもないったら、なんでもないのー。ほらきっともうみんな集まってるよ!」
あいは努めて笑顔を作るようにして、小走りできれいなガラスの自動ドアを通った。
「なんでもないならいいんだけど……なにかあったらあたしに相談してね」
もう顔も覚えられているから、入社証を首に掛けることを忘れていてもすんなりとロビーを通してもらえた。
「入社証を掛けてください! 社内では走らないでください!」なんて声を背中に聞きながら、あいたちは階段を駆け下りた。
その勢いのまま更衣室の扉を開けると、きれいなブレザーを身につけた3人が着替え始めようとしているところだった。
「こんにちは。あいさん、こいさん」
まずあいたちに気づいて会釈してくれたのはのえさんだ。
「「こんにちはー」」
「はなちゃんも、うたちゃんも、今日もがんばろうねぇ」
「うん」
「がんばろー!」
一通りいつも通りの挨拶をし終えると、あいもスカートのホックに手をかける。
こいちゃんもあいの横に並んで、あいとおそろいのTシャツに着替えた。
「今日もおそろいなんだね」
「お洋服は基本あいちゃんに任せてるんだけど、いつもおそろいで買ってくるのよ」
「だってイマドキは、普通の人でも双子コーデしてるのに、本物がしてなかったら変じゃない?」
あいが同意を求めたのにみんなが首をかしげたけど、そんなことお構いなしであいは一番乗りで第3ホールへ一番へ向かった。
「あいちゃんもう来てたんだね。はななんたちはまだ着替え中かな?」
「こんにちはぁ、たぶんもうすぐ来ると思います」
ひかりさんは普段、隣のB101号室で一人でお仕事してるんだけど(基本的にはいつ訪ねても寝てる)、誰かが来るとこの市民会館くらいの大きさの第3ホールに移動してくるのだ。
ちなみに彼女の定位置は端に置いてあるピアノで、あいたちが着替えている間に弾いて待ってるなんてこともある。
今日はなにやらパソコンで動画を見てたみたいだけど――
「あいちゃんはね、どんどん良くなってるんだけど、遅れた振り付けを早送りみたいに取り戻そうとするから、どうしても動きが不自然になっちゃうんだよねぇ。でもまあ、あと一ヶ月あれば余裕で何とかなるよ。歌は何にも問題なさそうだし、振り付けもしっかり覚えてくれたしね」
「……がんばりますね」
その時、ちょうど扉が開いて、みんなが入ってくる。
「よし、じゃあ各々準備運動とストレッチしたら、さっそく動きを合わせてみようか」
ひかりさんの指示が出るまでもなく動き始めていたあいたちは各自、手首足首をほぐしたり、アキレス腱を伸ばしたりと至って普通の準備運動をしてから、二人一組になってストレッチをする。
でも『アスピラシオン』は5人グループだから、いつも1人余りがでるわけで……
「じゃあ、うたちゃんは私とやろうか」
最初、うたちゃんは哀しそうにしてたけど、これも毎日だとさすがに慣れたようで、何事もないように、「はい」とひかりさんの方へと走っていく。
これはちょっと言いにくいんだけど、正直こういう時に余るのは性格的に考えてはなさんだと思ってた……。
「押すわよ」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
グイーとこいちゃんに押されながらの前屈は、この間よりもさらにできるようになっている。
「うん、だいぶ柔らかくなったわね」
「……毎日の柔軟の甲斐はあったかな」
「ていうか身体は柔らかくなったけど、やっぱり最近のあいちゃん元気ないよ……」
双子の間での隠し事は難しい。
あいもこいちゃんの元気がなかったらすぐに気づくし。
でもだからってもし、あいがみんなの足を引っ張っちゃうかもしれないことを悩んでるって話しちゃったら、気を使わせてあいに合わせさせてしまうことになるかもしれない。
それこそチームの足を引っ張ってしまうことに他ならないから、
「こいちゃんは心配しすぎだってば」
あいはみんなに心配をかけまいといつも通りの笑顔を作った。
この悩みはあいがもっと頑張ればいいんだからね。
――今日のレッスンでも、やっぱりあいだけは上手に踊ることはできなかった。
よろしくお願いします。




