続・自己紹介
SIDE.のえ
自己紹介、いよいよ私の番が回ってきた。大したことじゃないけど、何を言おうかはあらかた考えてきた。
「風華のえです。歳ははなちゃんと同じで、はなちゃんほど上手くはないけど、ダンスと歌にはそれなりに自信があります。アイドルとしての目標は、はなちゃんの目標である、『SHINE』をも上回るアイドルになるというのを達成させてげることです。以上」
私が一気に言い終えると拍手が起こった。
このくらいで拍手が起こってしまう、ここまでの自己紹介のクオリティーの低さ。もしかしてアイドルとしてマズいのでは?
ていうか私の自己紹介もそういう意味ではあまりよくないのかもしれない。
「な、何か質問はありますか?」
「歌とダンスが得意って言ってたけど、経験はどれくらいですか?」
こいさんは妙に私のことをマジマジと見てくる。
「敬語じゃなくていいよ。2年前にやめちゃったんだけど、それまでは小学生の1年生の時からずっとやってたよ」
「ふむ、じゃあはなさんは?」
今度は私じゃなくてはなちゃんの方に視線を向け直す。
「へ、私? 私はのえちゃんと一緒に始めて、今もまだ続けてるよ。教室はもう今月いっぱいで辞めちゃうつもりだけど……」
おお、なんということでしょう。
はなちゃんが私たち以外の人と、普通に話せているではありませんか。私は感動のあまり溢れ出しそうになった涙を、ハンカチで拭きながら着席した。
「次、こいちゃ―――」
「あたしの番ね!」
ひかりさんの指示をさえぎってこいさんは立ち上がる。
「火美こいです。あたしもダンスと歌はすごく得意で、経験者の二人に負けないくらいに上手い自信はあります」
「言ってくれるじゃないの……」
私たちが踊るのを見たわけでもないのにこの自信。でも私はともかくとして、はなちゃんにはまず敵わないだろうな。
ああ見えてはなちゃんは、神童なんて呼ぶ人もいるくらいの実力者だし。
性格のせいでコンクールとかには出たことないんだけどね。
「歳は当然あいちゃ……姉と一緒で、今年から中2になりました。よろしくお願いします」
「あのねあのね、こんな真面目そうに見えてね、実はアニメとか好きなんだよぉ」
ビシッと決まったこいさんの自己紹介をぶち壊すように、あいさんがそう付け加える。
なんでわざわざこのタイミングでそんなことを暴露したのか。
「ちょ、ちょちょっと。そんなこと言わなくていいの!」
こいさんは首まで真っ赤になって、あわあわしながらあいさんに怒る。双子で見た目は似てるのに、ここまで性格が違うものなんだ……。
「どんなアニメ観るの?」
食いついたのはうただけど、私の記憶が正しければうたはアニメとかあんまり観るタイプではない。
「そ、そんなの―――」
「最近は夕方にやってるアイドルのやつにハマってるんだよね。お買い物でデパートに行くと真っ先にゲームコーナーに飛んで行くんだから……ステージ何とかってやつだっけ?」
恥ずかしい(と思っているのであろう)自分の趣味を晒されてしまい、こいさんは崩れるように椅子に座って、うつむいてしまった。
デパートのゲームっていったら、小さい女の子向けのアーケードゲームか……。
自分のキャラクターをかわいい衣装に着せ替えたりできるやつで、最近はアニメも放送している。意外にかわいい趣味してるんだなあ。
それにしてもそれってたしか――
「それ、うちで作ってるやつだよ、『ステージ・キュート』でしょ?」
ひかりさんは楽しそうにこいさんに尋ねる。
前に雷戸さんがカードをくれたことがあったから私は知っている『ステージ・キュート』だが、その制作会社がこの『ライツ』なのだ。
「え! そうなんですか?」
こいさんはうつむいていた顔を、赤べこよろしく勢いよく振り上げた。
「うん、知らなかった? すぐ隣に住んでるのにね」
「じゃあ、これからは無料で……」
「それはちょっと無理かな」
「ですよねぇ……」
残念そうにしているものの、なんだか嬉しそうだ。
「じゃあ、最後に私ね。天野ひかりです。年齢は内緒だけど―――」
「16歳ですよね! ラジオで歳をとらないって言ってましたから」
はなちゃんが瞳を輝かせる。確かにひかりさんは全く成長してないんじゃないかってくらい可愛らしい容姿をしてるけど、人間だし当然歳はとる。
ていうか、見た目はどうあれ、少なくとも現代の日本人は一年に一度、数字を重ねることになっている。
(でも、まあ、未だにサンタさんやら妖精なんかを本気で信じてるはなちゃんなら、ひかりさんが永遠に16歳なのを信じてるのもさもありなんか……)
みんなが色々察した様子で、はなちゃんに暖かい眼差しを向ける中で、ひかりさんだけは鋭い槍で心臓を突かれたような顔をしている。
「ごめんなさい……。あれは嘘なんです。許してください」
それは心からの懺悔だった。
どうやら彼女の中では、永遠の16歳設定は完全に黒歴史になっているらしい。
「え、そうだったんで―――もごもご」
「はなちゃん、その話はまたあとでにしようね」
私はひかりさんの心の傷を無意識に抉ろうとするはなちゃんの口を抑えて、耳元で小さくそう言ってあげた。これでひかりさんの精神の危機を少しだけ救えたかもしれない。
「どうぞ、続けてください」
「う、うん。では気を取り直して……」
ひかりさんは咳払いして、再び話し始めた。
「今日からあなたたち『アスピラシオン』のマネージャー兼コーチをさせてもらうことになったの、よろしくね。なかなか個性的なメンバーで正直ちょっと不安になった反面、なんだか『SHINE』を結成したばかりの時を思い出させる雰囲気が、この『アスピラシオン』にはある」
個性的なメンバーか……。
私が全員を見るように首を回すと、みんなして似たような行動をしていて、それぞれの顔からつい笑みがこぼれる。
「絶対にいいグループになれるよ。それは、元国民的アイドルの私が保証してあげる。これから一緒にがんばっていこうね」
「「「「はい!」」」」
なんだかひかりさんにそう言われると、本当にそうなんじゃないかと思えてしまうから不思議だ。
このメンバーなら『SHINE』超えるなんて造作もないことなんじゃないだろうか……なんて、まだこの子たちのこと全然知らないのにね。
「あ、そうそう、リーダーは一番しっかりしてそうなのえっちに任せた。あと、これからちょっと実力テストっぽいのするから、正面の更衣室で練習着に着替えて、この隣の第3ホールに集合ね」
今日の予定に書いてあったからテストには誰も驚かないけど、まさか私がリーダーに選ばれるとは思わなかった。まあ、メンバーを見れば当然かもしれないけど……。
恥ずかしがりやのはなちゃんに、何もかもが幼いうた。それから、ふわふわしてるあいさんに、真面目風のこいさん。
こんなメンバーで、本当にアイドルなんてやっていけるのだろうか?
私には不安を通り越して、この『アスピラシオン』の行く先が楽しみにすら感じられた。
こいあい姉妹好きです。こいちゃんはれんちゃんにしようかかなり迷った記憶があります。




