合否
SIDE:はな
301号室からのえちゃんと叔父さん、それからひかりさんが3人そろって出てきた。のえちゃんが元の椅子に座り直して、残った二人は私たちの前に立つ。
私たちオーディション受験者はそろって背を伸ばした。
「じゃあ、みんなこれ、今日の結果と今後のことが書いてあるから、帰ったら開けてね」
名前を確認しながら叔父さんがそれぞれにA4サイズの茶封筒を手渡していく。
301号室には印刷機なんてなかったから、前もって用意しておいたもので間違いないだろう。
最初から絶対受かるとは言われてたけど、まさかこんなに早くに結果をもらえることのになるとは……。
「今日はお疲れさま。気を付けて帰ってね」
ひかりさんがニコッと笑顔を浮かべたのを見て、まず火美姉妹が、
「「ありがとうございましたぁ!」」
と元気に頭を下げて、人気のない廊下を出口とは反対の方向に歩いていった。あっちになにがあるんだろうか……。
みんなそろって首を傾げたものの、すぐに気を取り直したひかりさんが、
「はななんごめんね。このあと打ち合わせするみたいだから、ゆっくり話すのはまた今度ね」
なんて耳打ちしてくれた。
「うた達はこのあと、はなちゃんの家に行くんだったね」
「うん」
「さっきも言ったけど、気を付けて帰ってね。うたは行儀よくするんだぞ」
私とのえちゃんが「はい」と短く返事するのに対して、うたちゃんは「……わかってるってば」と、少し恥ずかしそうに言った。
(友達の前で親に何か言われるのってなんか恥ずかしいんだよね……)
なんて考えながら、手を振ってくれたひかりさんに小さく手を振り返す私たちは、人気のない廊下を出口の方に振り返ろうとしたところで、
「間違えちゃったねぇ……」
「そ、そういうこともあるわよ」
似すぎていて、同じ人間が二人いるようにすら見える火美姉妹がこっちに戻ってくる。
サイドテールが左側の子がリンゴのように赤面しながら、もう片方の子の手を引いている。
「前を歩いてる子が妹のこいちゃんで、後ろの子がお姉ちゃんのあいちゃんだよ」
さっきまで彼女たちと話していたのであろう、うたちゃんがどっちがどっちだか教えてくれるけど、次に会った時には見分けがつかなくなってそうだ。
(ていうか、二人そろって道を間違えるって……)
みんな思うところは同じだったらしく、微笑で彼女たちの後姿を見送ってから流れで解散するという形になった。
面接は午前中だったから、昼食を帰り道のマックで買ってきた私たちは私の部屋でそれぞれ食事を始めた。
「ふたりはオーディションで何を質問された?」
何とはなしに私が振った話題は面接のことだ。
テストの後に周りの人の結果が気になるように、自分以外の面接がどうだったのかは気になってしまう。
まあ、私の場合は、今までクラスにのえちゃん以外の親しい人はいなかったから、他の人に点数を聞くなんてことはできなかったけど。
「私はひかりさんとちょっとお話して、歌ったくらいかな?」
「うたは志望理由? とアイドルになって何がしたいのかっていうのも聞かれたよ」
「ああ、何がしたいのかは私も聞かれたわ」
「じゃあ、みんな大体同じ事を聞かれてるんだね」
多分、志望動機とアイドルになったら何がしたいのかを聞いて軽く会話をすることで、目標とか性格なんかを把握しようとしてたのかな?
全員合格だってことは前もって伝えられてたわけだしね。
「ところで、雷戸さんは全員合格できるとは言ってたけど、ちゃんと全員合格できてるのかしら」
のえちゃんは横目でうたちゃんを見る。
「ど、どうしてうたの方を見るんですかぁ」
うたちゃんはすっかり竦んでしまって、弱々しく私の服の袖を握ってくる。その手は小刻みに震えてさえいる。
面接の前ですらあんなに余裕だったのに、のえちゃんにちょっと目をつけられただけで、うたちゃんがこんなになってしまうのは昔からだ。
……いや、ちょっと前までは、まるで蛇に睨まれた蛙のように震えることすらままならなかった分、今の方がずいぶんマシになったのかな?
「あら、歌もろくに歌えなかったのに、合格してるなんてことがあり得るのかしらね」
なぜかさっきまでよりも威圧的になったのえちゃんも、うたちゃんとは反対の私のすぐ隣に移動してきて手を繋いでくる。
「だ、大丈夫ですもん。ちゃんと合格してるです!」
エビのように腰が引けているものの、珍しくのえちゃんに口答えしているうたちゃんは、すぐ近くにあったカバンからさっき貰った封筒を取り出してきて、ベリッと勢いよく開封した。
「じゃあ、私も開けるわ」
のえちゃんもカバンから取り出した封筒を、ペリペリときれいに開封した。
なんとなく私も開封した方がいい雰囲気だったので、ちょっと遠くにあったカバンを取りに行こうと立ち上がったところで、一番最初に封を切ったうたちゃんが声を上げる。
「よかったー、ちゃんと合格してるよぉ!」
合格通知を片手に万歳までしている。
私もペリペリとゆっくり封筒を開けて、中の一番手前の紙を取り出す。
「せーので見ようね」
のえちゃんが横からそう言うので、私は用紙を裏にしたまま両手で広げて持つ。
「「せーのっ」」
案の定、二人の紙には同じ文面が書いてあって、一番大きく太く書いてある文字『合格』も例に漏れず同じだった。
「3人とも合格できてよかったね!」
私の発言に対しても、
「うん!」
と素直な返事を返してくてれるうたちゃんと、
「……そうだね」
とちょっと不満そうな表情を浮かべるのえちゃんがいた。
のえちゃんは私とは正反対で、誰とでも仲良くできて、クラスでも学級委員なんてやってるから信頼も厚いのに、どうしてうたちゃんにだけはいつもこうなのか。
(それを苦笑いで流すことしかできない私も悪いのかもしれないけど……)
この先が思いやられます。
まとめるならばここまでが第一章といったところでしょうか。
勝手ながら次回の更新の方一週間ほど空けさせていただきます。申し訳ありません。
次回の更新は2月1日を予定しております。
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