うたの歌声
SIDE:うた
「えへへ、パパと面接なんて緊張しちゃうね……。って、うわっ! おねえちゃんの部屋のポスターの人だ!」
うたはパパだけだと思って部屋に入ったから、もう一人きれいなお姉さんがいて心臓が止まるかと思った。しかも見たことある人だし。
たしか『SHINE』ってアイドルグループの天野ひかりさんって言ってたかな?
「は、初めまして。お父様にはいつもお世話になってます」
なんか丁寧にあいさつされちゃったし……。
「い、いえ。こちらこそ……です?」
「天野君、そんなにかしこまらなくていい。普通に接してやってくれ」
パパが天野さんにひとことそう言うと、天野さんはふぅーと息を大きく吐いてから、
「え、えーと……まずどうしてアイドルになろうと思ったのか、志望動機を聞かせえ貰ってもいいかな?」
と質問してくる。もしかして天野さんってちょっと変な人なのかな?
「うーん、人が集まらなかったてパパが困ってたのと、おねえちゃんがやりたいって言ってたからです」
うたのセリフの前半で、なんでか天野さんは申し訳なさそうな顔になって、パパのことを横目で見て小さくなってしまう。誰にだかはわからないけど小さい声で、「うぅ、ごめんなさい」なんて謝っちゃってるし。
「あとは、身体を動かすのが好きだから、ダンスなんかも楽しそうだなぁ、なんて思ったのも理由のひとつかな……です」
敬語って普段全然使わないから難しいかも……。
もう中学生なんだからしっかり使えるようにしないとなぁ、なんてぼんやり考えてたうたに、今やっと立ち直った感じの天野さんは質問を重ねる。
「な、なるほど……。じゃあダンスは経験者なのかな?」
「いいえ、体育でしかやったことないです」
うたが首を振ると、天野さんは何やらテーブルの紙に書き込んでから、
「成績はよかったのかな?」
「はい、クラスではいっちばん上手だって褒められました!」
ふふん、体育に関しては、うたは無敵なのだ!
パパもそれを知ってるから、うたの言ったことに、「うんうん」とうれしそうにうなずいている。
「なるほどね、ありがとう。じゃあ、今度は歌ってもらおうと思うんだけど大丈夫かな?」
歌もすっごく大好きだ、名前もうただしね。パパはなぜかこのタイミングで苦笑いしてるけど……。
天野さんが丁寧に渡してくれた歌詞カードは、『かがやき』って歌だ。この歌はおねえちゃんに勧められて、聴いたことがあるから知ってる。
「歌える! ……です」
「じゃあ、歌ってみよっか」
天野さんがそう言ったのを合図に、パパが持ってるリモコンをいじって音楽を流す。それに合わせてうたは大きく息を吸って、吐いて、また吸って―――
「かがやk―――」
「あ、ありがとう。もういいよ」
「?」
ピタッと音楽も止まった。せっかく気持ちよく歌い出したのに、早急に止められてしまった。歌詞カードを見ても間違ってることはなかったと思うんだけどなぁ。
パパだけじゃなく天野さんまで苦笑いしてるし……。
「ち、ちなみに音楽の成績はどうだったのかな?」
「えーと、ユニークな歌声だねっていつも褒められてます!」
うたは大きく胸を張って見せる。
そういえば、ついこの間あった中学最初の音楽の授業では、クラスのみんながうたの歌声に聴き入ってた。それだけ魅力があるのかもしれない。
「うたちゃんはまずボイストレーニングを中心にやらないとですね……」
天野さんは、小声でパパに言っている。やっぱり長所は伸ばしていくべきだってことなのかもしれない。
「……そうだね。何とかしてやってくれ」
パパの表情から笑いは消えて、深刻な問題を抱えているような、何かを心配してるような顔になっている。何か問題でもあったのかな?
「じゃあ、これが最後の質問になるんだけど、うたさんはアイドルになったら何がしたいかな?」
「何がしたいか? うーん考えたことなかったかもです。………なってから考える―――じゃあダメ……ですか?」
ちょっと考えてみて何も思いつかなかったから、結局うたが出した答えはそれだった。でもそれが、うたなりに考えた結果だ。
「おい……何かないの―――」
「いいよ、大丈夫。私も最初はそうだったから」
パパは何か言いたそうだったけど、天野さんはニコッと微笑んだ。
なるほど、アイドルってこういう存在なんだ。暖かいなにかで包み込むような不思議な感じ―――例えるならこたつ……とか?
うたもアイドルになったらこんな風になれるのかな?
「じゃあ、これでおしまい、お疲れさまでした。外で待っててね」
「はーい」
うたが部屋から出ると、心配そうな目と、バカにするような目が向けられる。おねえちゃんとのえさんだ。
「「歌はちゃんと歌えたの?」」
同じ言葉でも、ほんのちょっとニュアンスが違うだけで、ここまで違った印象を受けるものなんだね……。
「なんでだかわからないけど、最初のところしか歌わせてもらえなかったよ……」
「ま、まあ、これから一緒にがんばろうね」
「いまだに自覚がないのね」
今度は二人とも、そろってうたに憐れみの目を向けてくる。そんな目を向けられる覚えはないんだけどなぁと、うたが首をかしげたところで、パパが部屋から出てきた。
そして呼ばれる前に立ち上がっていたのえさんを連れて、また部屋に戻っていった。
最近忙しくて確認をし忘れることも多く、投稿できてないということが良くあります。申し訳ありません。




