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アスピラシオン! 作者:赤実はる
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始まり


 ―――あの日のことは今でも覚えている。
 当時幼かった私の目に映っていたのは、暗い中で無数にきらめくカラフルな星々と、その中心で一番強い輝きを放つ太陽だった。
 私たちが観たのは、叔父さんに連れて行ってもらったアイドルグループ『SHINE』のライブだった。無数にきらめく星々というのはお客さん達のサイリウム、太陽というのは中心で歌って踊る『SHINE(シャイン)』の3人だ。
 叔父さんの会社がスポンサーかなにかだということで、会場の上にある特別観覧席で観させてもらったその時の光景は、星や太陽に比喩するのに十分すぎるくらいの輝きを放っていた。

『みんなー、今日のライブは楽しんでくれたかな?』

 スピーカー越しに聞こえる澄んだ声。『SHINE』のリーダー、天野 ひかりは息を切らしながらも、楽しそうに呼びかけてくる。
 そして、今度はそれに応えるようにお客さん達がドッと歓声を上げる。会場全体が激しく震える感覚すら覚える。

『そう、楽しんでもらえたならよかったわ』
『では、今日最後の曲いきます!』

 ひかりの他のメンバー2人も楽しそうにそう言うと、曲が流れ始める。この日最大の盛り上がりを見せたその曲中、『SHINE』の美しい歌声と踊りはもちろんのこと、お客さん達のコールなども相まって、老若男女が入っている会場に一体感が生まれたように感じられた。
 すごい、かっこいい、かわいい、美しい、楽しい、うれしい、もっと観ていたい。
 私の胸にはいろんな感情がこみあげてきて、とにかくいっぱいだった。

「……はな、アイドルになりたい」

 感極まった私の口からは、誰に言うでもなくそんな言葉がついて出た。

「じゃあ、あたしもはなちゃんと一緒にアイドルになるね」

 私の横でガラスの壁に張り付いてライブを観ていた彼女もまた、楽しそうに笑っていた。私の親友、のえちゃんだ。

「一緒になろうね!」
「うん」

 私たちの幼い約束、それが全ての始まりで原点だった。
 その小学1年生の夏、暑い日の日本武道館で私は『SHINE』に憧れて、アイドルを目指そうと決意した。
 それから私たちはアイドルを目指して、ダンスと歌を習い始めた。
 それが楽しくて楽しくて、学年が上がるごとに少しずつ厳しくなっていく練習も苦痛に感じることはなかった。
 私たちは二人とも同じ年代の子たちよりも上達が早くて、すぐに上のクラスに上がったりしてたから、基本的に周りで一緒に練習してるのは自分たちよりも年上の人たちだった。


 あのライブ以来、私はずっと『SHINE』のファンで、ライブに毎回行ったり、CDを買いそろえたりするのはもちろんのこと、握手会などのイベントなんかには多少遠くても絶対に出向くようにしていた。
 ただ『SHINE』のイベント券の倍率の高いこと……。手に入らなかった時には叔父さんに頼んで、特別に用意してもらったこともあった。……これは秘密だけどね。
 その甲斐あって、私は『SHINE』のメンバー、特にひかりさんには顔や名前なんかを覚えてもらっていた。
 いや、その甲斐あってというより、初めて握手会に行った時の、ある事件で覚えてもらえたと言った方が正しいだろうか。
 あの日のことも忘れられない。……たぶん一生。
 長い列を並んできて、やっとひかりさんとご対面できた私のひとことめ。

「い、い、いつも応援してます……」
「ありがとう!」

 目の前にいるひかりさんは、緊張で何が何だかわからなくなってしまっている私に優しく声を掛けてくれた。
 握手会とは言っても今回のは特別なもので、一人につき持ち時間が1分程度与えられていたのだけど、

「…………」

 さっきまでたくさん考えていた、話したいことやアイドルを目指すにあたって聞いておきたいことなんかは全部頭から吹っ飛んでしまい、私は固まってしまった。
 たぶん緊張のあまり顔は真っ赤になっていたことだろう。

「えっとー、お昼とか何食べたかな?」

 今にして思うと、あれはひかりさんが気を使って話題を作ってくれていたんだと思う。

「あの、その、マックで……」
「マックかぁ、美味しいよね」
「は、はい……」

 その時の私はそこで思った。こんなこと話してる場合じゃない、なにかアイドルについて聞かないと……と。
 今にして思えばそれがいけなかった。
 いや、聞かなきゃいけないと考えたところまでよかったんだけど、それで焦ってしまったのがいけなかった。
 テンパった私がそこでとった行動は―――

「あの……えっと……う、歌います! 〜〜〜♪」

 なんであの時、私は唐突に歌い出したのか自分でもわからない。しかも選曲が『SHINE』の代表曲である『かがやき』。
 握手会で、しかも本人の前で大声で歌うとか、もうあり得ない……。
 思い出しただけで赤面してしまうレベルだ。
 ひかりさんは、「上手いね!」と褒めてくれたけど、私はすぐにスタッフさんによって強制退場させられてしまった。
 幸い当時は小学生だったから、特にお咎めなしで許してもらえたけど。
 それ以来、私は『SHINE』のメンバーから『歌う子』と呼ばれるようになったのだった。
 私が訊きたかった、「アイドルになるにはどうしたらいいですか?」という質問。結局ひかりさんにできたのは数年後のイベントになってからだった。

「うーん、定番だけど努力することと、しっかり夢を持つことと、運……かな? あとは勇気とか」


 『SHINE』がたくさんのファンに惜しまれながらも解散したのは一昨年おととし、私が中学1年生の時だった。
この作品はずいぶん前に(途中まで)書いていた作品なのですが、ずっとしまっておくのはもったいないのでところどころ直しながら掲載させていただきます。
二日に一話のペースで投稿していく予定です。
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