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嘘は部活の成立ち(1)

 昨日の今日で調子が良くなるとは考えてないけど、どうやら今朝は囁きには遭遇しなかったよう。

ようせい……という言葉は印象にあるけど、気にしたら、また再発というハゲのスパイラル。




 昨日で体育館での部活紹介も終わったので、一年生には部活見学の為の自由時間が与えられた。

 志望部活が決定してるなら帰宅も可能になっている。しかし無精者と未来志向者は、未決のまま帰宅の途につく。

 私の所属するクラスの半分はどうやら帰宅組。


 私も帰り支度をして、如何にも帰る素ぶりの『(てい)』で数分やり過ごす。

 あと暫しでクラスメートが捌けた頃、「気が変わって学校側の本旨に従う」という『(てい)』で動き出すことになる。

 一連の行動は自然体でないといけない。


 教室を見渡すと、いくつかの机には荷物が置いたまま。名目通り、部活巡りをする子も何人かはいるのだろう。関心。

 教室に残った生徒の数、帰宅した生徒の数、荷物の置かれた数から考えて、今が動き出す頃合いかな。

 私は帰り仕度と共に私の目的地へ出立する。


 教室から廊下を出たタイミング。ちょうど隣の教室から、テニス部のユニフォームを着てラケットを持った女生徒。その女生徒は顏だけ後ろに向いて喋りかけている。


「良かった、こんな有料株が売れてなくて。意外とこの高校に来たのも知られてないんじゃないの?」


 ……そのすぐ後ろに連なってきた奴が問題だった。


「先輩、今日は約束だから見に行くだけですよ」


小豆エリモは単行本を片手に読みながら、先輩に微笑み応えていた。


「エリモを外に連れていったら他の部の連中にも目をつけられるかなぁ。何か変装してかなぁい?」

「それはヤですから」


 この鉢合わせは不幸なのかもしれないけど、小豆エリモが運動部の行きそうなのが知れたのは幸運なのだろう。

 向こうの視線がこっちに向かなかったのも不幸中の幸いなのだろう。


 渡り廊下を通って、別棟になる第二校舎へ。

 第二校舎の入って直ぐは数学室があって、数理研究部に興味がある男子生徒が数人、廊下で張り出しされた数式を見ていた。扉の中、数学室では黒縁めがねの教師がまた何やら黒板を埋めていた。

 部室の部員らしき生徒は、それを見たりパソコンを見たりでせわしなく視線をかえていた。

私は数学室の光景と男子生徒を避けて隣室の方へと足を運ぶ。


『資料準備室』の表札。目的地。そこは第二校舎の二階奥の一個手前に位置する辺境。その廊下側の窓は丁度、学校内一の大木に隠れている。

 資料準備室は外観から見ても、間取りは狭いのは明らか。

 ここが部室も兼ねているというのは、気づかないで卒業する人もいるそうだ。

 どうせ誰も居ない部屋と見当つけていたけど、まぁ、初入室では問題あるだろうと体裁を整えた。

 コンコンッとノック。暫し待つ。反応は無い。やはり無駄な作法だな。

 私は無遠慮に扉を開ける。断っておくけど、無遠慮だからと言っても荒っぽく扉を開けたわけじゃないから。


「あっ…」


 あっじゃない。私はわきまえノック後入室した。お前は返事をしなかった。


 資料準備室の中は、天井から固定された大きな鉄棚が壁三面ににあって、そこにぎっしりと厚い本が並んでいる。大地震が来たらその厚い凶器群にタコ殴りにあって死んでしまいそうな空間だけど、一応その凶器は雪崩らないように工夫されてるらしい。

 さらに安全地帯として窓側の一角だけ開けていて万が一にも凶器が頭を打ち付けないようになっていた。

 そこの安全地帯に会議用の長テーブルとパイプ椅子が設置してあるのだが、そこに生徒が一人。

 胸中は『そこに人影らしいものが蠢いていた』と解釈したけど、実際は『かわいい生き物がそこにいた』。


「あっ」とか、わざとらしい驚嘆を示したのは、資料準備室の中にいたかわいい生き物の方。同じクラスのふわボブパーマ。小さな可愛い顔がこちらに振り返っている。

 ボブパーマの小さい身体はノートパソコンをやっとな感じで持っていて、会議テーブルいっぱいを使って設置しようとしていた模様。もうプリンターやらカメラやらが机上一面にスタンばってるし。


 私は可愛いものを愛でるより、意地悪して追い込む性向という自覚あり。だからボブパーマを冷めた目で睨むのも躊躇無し。

 そして、不思議ちゃんもかわいい生き物ではあったなと思い出す。

 私は顔を曇らす。不快感ましましで表情に乗せたけど、


「やった、入部希望?」


と、返ってきた。

 この子は察せない。一言で十分理解出来た。察せない。

 私は色々悪い予感がよぎる。正直、話が噛み合わない会話も抵抗があった。

 そして、不思議ちゃんも察せなかったなと思い出す。


「……ねえ、この時間ここは『元』郷土研究部の部室って知ってて居るの?」

「もちろん、ここは郷土研究部室、私は新生郷土研究部初部員」


 ちょっと先に来たことで主導権をとったつもりでいるんだろうな。アホ。

 目がキラキラしてアルファ症候群のソレが見て取れた。


「新ってことは、廃部になったから立て直そうってわけ?」

「そうだよ」

「確かに昨日の部活紹介で盛り立てろみたいなこと言ってたけど」

「うん、だからここ終わったら今から勧誘してみようかなと」

 ボブパーマは微笑み、続けて言った。

「ねえ一緒に勧誘行かない?」


 馴れ馴れしいけど私はお前の名前さえまだ知らないぞ。お前も私の何なりを知らないだろ?


「部活申請は何人必要か知ってる?」

「これから調べるつもりだよ」


 私は腕を組んでボブパーマを見据え威圧した。そして手のひらを広げ、ダブルミーニングである『パー』をボブパーマに突きつける。


「五人」

「え?」

「郷土研究部を新たに開始するなら、あなた以外にあと四人必要ってこと」


 ボブパーマは言葉に詰まっているようだ。


「ついでに言うと私は新生の郷土研究部に入るつもりはないけどね。ここが空き部屋になる可能性があると聞いて先輩に下見と確保を言われてるだけだから」


 ボブパーマは呆然としている。これは何とかなるかもしれないと、私は追い討ちをかけておくことにした。


「新郷土研究部なんて本当に考えるの?他の学校では聞かれない不人気部。人集めは難しいと思うよ」

「えぇー」

「他の部への入部考えたら?」

「え、ヤダよぉー」

「部活本決定までに人を集められるつもり?」

「うぅん……でも……んんん……わかった」


 ボブパーマは諦めたようで、ガックリ肩を落とした。

 自分のナップ類だけ持ってここから立ち去ろうとしたので、そこへ私は声をかける。


「ねえ、パソコン、片付けて行って」

「明日まで待って」


 さっきの機嫌は何処へやら、捨て台詞のようにふてぶてしく言った。自分の都合でコロッコロ変化するガキそのものだ。


 私はフゥとため息をついて緊張を解き、パイプ椅子に座った。

 瞬間、私の口角はつり上がりそうになったけど何とか耐えきった。誰もいない時こそクールでいたい。

 私は嘘をついた。極めて安易なところで。けれど核心で。

 どうなるかと思ったけど、思いの外何とかなったよう。

 片付けを「明日」と言っていた不安要素もあるけど、これで諦めてくれると期待している。

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