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春は雑多な囁き(2)

続きです。

よろしくお願いします。

 昼休み。昼食はクラス中で距離感があり各自の席で食べる子がほとんどのよう。

 少しは話し声があるけど、中学辺りの友人とともに教室から出て行った子も多いんで落ち着いてる。本来なら私も教室からはなれたかったけどタイミングを逸した感はある。

 教室環境がこの程度に末長くここがこんな場であったなら、高校入学前にリサーチする必要もなかったんだろうけど。多分明日か明後日中にはコロニーが出来て騒がしくなってくる。

 私は小さいお弁当の包みを開け、昼食をとり始める。


 何度かダイエット的繊維物を口にしたあと、私は箸を止めて視線を四つ斜め前の席に送った。

 それが気になったのは、ガッツリなチキン足を口に押し込んでる子が不思議な光景だったから。けして私の粗食と比べて羨ましかったわけではない。

 その子は可愛い容姿、小柄な身体とフワフワしたボブパーマな髪。キョロキョロとクラスを物色してるように見回していた。腕を振り上げた拍子に食べ終わったタッパを床に転がしたようで慌てて拾っている。

 私は悪寒が走る。こういう子と目があったりしたら懐かれそう。それは御免被る。私は視線を向けていた素ぶりを見せず、残りの弁当を食べ続けた。


 お弁当の中身が残りわずかになった頃、ガタガタと椅子を乱暴に扱って顔なじみは私の前の席に逆向きに座った。相変わらずニヤついている。


「……私の弁当の中身や咀嚼なんか眺めて楽しい?」

「昼くらいは一緒にと思ったけど、笹越がそれを許さないから見るだけにしとく」

「注視された方が嫌がられるとか考えないんだ?」

「問題無いと思う」

「食事をまじまじ見られる以上に羞恥プレイって何があるってのよ」


 私はそんなことを自問してたけど、結局は顔馴染みの言ってる通り弁当をどんどん口に入れてる自分に気付いた。羞恥心が意外に欠如してるのを自覚。


「笹越は見られるよりも、音とか声とか気になるタイプだよね」

「両方よ」


 そう私が言って、顔と視線を少し教室にいる周りの生徒に向けた。他の生徒は私を気にしている様子は無さそう。


「……いや、まぁ、今は周りもまだ余裕無いから、気にする人もいないよ」

「あんたは知った人間を監視でもする癖があるのかな」

「特別なヒトだけだよ」


 これを言われて私は少し混乱した。じゃぁ、まぁ、一つの可能性として聞いてみる。


「……気にするって私に好意があるってこと?」


 またニヤニヤしてるな、こいつ。ニヤついているというより照れてると言われればそう見えなくもないけど。


「そうだよ、高校生になったら積極的に行くのも普通だよ」


 あっさりだ。確かに積極的だね。私が何も言えないでいると、


「積極すぎ?」


 驚嘆の色を隠せないまま私は口にした言葉は、


「……少し考えさせて」


 今日は昼食が済むとまた一年は全員体育館に舞い戻る。朝よりは寒くないから構わない。鉄錆色した緞帳もとりあえずお腹には影響無い。

 その緞帳に囲われたステージの脇に「部活紹介」と書かれためくり台。それがめくられて次々にステージ上で部活の紹介。

 それを眺める一年は、朝と同じように並んで皆床に座ってリラックスしてる。

パフォーマンスネタを考えている部活には笑いも起こる。二年生の司会の進行がどうも上手いようで。


 けれど、私の気分は、そんな場内の演目鑑賞している状態ではなかった。一つにはざわつくこの催しが億劫であったこと。もう一つに、先ほどの保留したことについて思いを巡らせていたから。

 そもそも私にこの紹介イベントは些細な意味をも持たない。

 高校選びした時に、部活についても丹念にリサーチしてあった。


 部活紹介は運動部、文化部が混在して、順序にあまり脈絡が無いよう。集中してない私でもふと疑問に思ったけど、引きずって気にするほどでは無かった。


「えーと、次は郷土研究部…、この部は二年生が居なくて、三年生の部員はボイコットのようですね」


と司会者は言う。私はこの一寸だけは雑念を捨て、司会の言動に耳を立てた。郷土研究部という単語に反応したというのは今の所秘密である。


「文化部は消滅するところも二、三ありますけど、もしも盛り立てたい方が一年生の中にいるのでしたら、活動は継続することもあるでしょう」


 少しざわつく。これは仕方ない。予想はしてた。


「郷土研究部なんてあったんだね」

「誰も入らないよ」


という声は、一年生の座ってる方から聞こえてきた。私は瞬間ほくそ笑むけどすぐに表情を消す。


「だめ」「だよ」


と、ざわめきの中から聞こえてきた。あぁ、やはり囁きはある。

 私は忘却していたことを思い出す。こういうときは周りを確認しておいた方が良かった。顔馴染みの件から、どうもルーティンワークが出来ていなかった。


 めくり台は剣道部になっていた。ステージの上では防具を着た人間が竹刀を持って立っている。


「はじめ」


 合図にけたたましい掛け声とともにステージのすぐ下では二人の剣道部員の模擬戦が始めらた。周りの鑑賞者の目は皆、模擬戦に向けられていた。

 気がついたときはそんな状況。他人の視線が私に向けられていたなら、人の顔が警戒色に変化する過程を見られたと思う。


「せん」「が」「ひか」「れる」


 私が目にしたのは、模擬戦の一人のすっぽ抜けで回転した竹刀。その向こうに腕だけで素振ってる間抜けな剣道部員。

 あぁ、人が臨戦態勢になると風景がスローで色が褪せるとは聞いていたけど、まさか私の初体験は竹刀になるなんて。

 あ、線だと思ったのは竹刀のシルエット。竹刀が顔前にきたとき線の影が出来ていたのまで感じたけど、そんなのは1秒も満たない。そんななかでもとっさに顔を背けて頭を向けたのは、自分なりに自顔を守るほどの価値を見出していたのだなとあとで感心した。


 バチン!と音がした。すぐ近くで。




 私が保健室経由で遅れて教室に戻ると、帰り支度をしていた子がチラホラしかいなかった。

 他の子はもう殆どは帰ったようだ。

 

「大丈夫?」


 顔馴染みが私の前の席に陣取っていた。私は無言で自分の席に座った。

 顔馴染みは横目で私以外の最後の一人が出ていくのを確認した。そして私の前髪を人差し指と中指を使って上げた。


「顔に傷はないけども」

「冷却材でちょっとデコを冷やしただけよ」

「頭揺らされると後で気分悪くなることもあるから気をつけて」

「それは好意からくる心配?」


 私はニコッと微笑むふりをする。


「それもかなりあるね。でも知人として当然の心配だよ」


 顔馴染みはニヤりと笑った。微笑みへの意趣返しのつもりか。

 私は教室の時計を見る。そして、窓の外を見てからかしこまった。


「……ねぇ、私の話を聞いて」

「いいけど、どんな話?」

「どんな話でも」

「まぁ、いいよ」

「多分、興味持てるような話じゃないけど」

「んー、構わない、笹越と話が出来る可能性にかけて待ってたんだし」

「そう。なら……」


 私は顔馴染みの目を直視した。


ありがとうございました。

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