エピローグ
エリモとサシで話した数日後の放課後、私は隣の教室に訪れた。
虚構でもある程度には納得出来ていた私だけど、落ち着く程に経つと、新たな疑問点は湧いてしまうのが論理思考の悲しい性質。
風流とか風情では完結出来ないから、話題を蒸し返そうと思っていた。
エリモは場を提供するかのように一人の教室で文庫本を読んでいた。
私は開口一番にムギを気にしなくて大丈夫なのか聞いてみたけど、生徒指導室のチカラが消えたお陰で、ムギは人間の本分から逸脱しないから問題ないと返された。
生徒指導室のチカラの残滓が人間のムギの暴走に大きく影響していたので、消滅した現在は四六時中見てなくても良くなったらしい。
更に教室に一人で読書していられる不思議さも指摘する。
自称神様なんだから、いつものように自然に人が集まってこないのか? と。
エリモは笑って応えた。
『人払い』其れこそ神秘のチカラを使ってるとかナントカ。
人が集ってくるのが自然なら、人を寄せ付けないようにする方に念じれば良いそう。
そう言えば図書館で不自然に机が空いていたこともあったのが思い起こされた。
市長のことも再度聞いてみるけど、其れは忘れてる素振りを見せた。
私達みたいな三つ巴のセットは『たなつまち』には珍しいモノでもないと語った。
妖精事件で妖精が憑いた生徒も私と同様で魔女になったらしい。過去にも妖精、魔女、人間の三つ巴セットはそれなりに居るんだと言う。
例えば、特許好きな雨蘭サスケさんは私よりも高位の魔女になるのだと。
市長については、あまりに高位だと認識もされないチカラを持ってるとか尤もらしいことを言った。
エリモの存在が精霊だの神様だの言っても、結局学生レベルだってのこと。
私が前見た夢の白いおじさんは、市長の姿が見えたんじゃなく多分、市長のチカラの具現化じゃないかとエリモは言った。
言われて見れば、不思議ちゃんも曖昧な時は白く見えたしね。
市長の三つ巴のセットな妖精は、やはり夢で見た西から飛んできた光ってたアレかな?
『西信仰』に結びついてるのなら、とんでもないチカラのある妖精なのかもしれない。
すると、待て、市長や西信仰の妖精の三つ巴セットになるような『人間』も居ることになるけど?
「其んな規模の三つ巴セットなら、人間の部分に相当するのは『たなつまち』住人全員じゃないかな? たなつまち住人が西好きってのも説明出来るよ」
と、エリモは本から目を離さずに言った。
「アンタの謎のコネなら、時間かければそういう存在にも辿り着くことが出来るんじゃないの?」
「マイちゃんは買い被り過ぎ、私個人のチカラなんて本から知識を得て、魔女を導いて、そして人払いするくらい。私の知り合いの殆どはお姉ちゃんの知り合いなの」
エリモには私でもよく知ってる出来た姉がいる。
此れはまた別の話なので今回は控えとく。
不意に私はちょっと入学すぐの朝礼の1シーンを思い出した。
「……エリモのチカラで思い出したんだけど、アンタ、朝礼の時に何かやってない? 特に校長の挨拶とか」
エリモは目を本から私に移し、多分今迄で最も優しく微笑む。
「あらら、やっぱりマイちゃんってよく見てるんだ?」
……何この反応? 何処かでまだ欺瞞があるのか?
詐称、虚構、虚言、ダウト。
やっぱりコイツは信用ならない。
そもそも全部が仕掛けられたまやかしなのかもしれないけど。
エリモだけは逢魔が時に消しておくべきかもしれない。
「マイちゃーん、マイちゃーん」
廊下から騒ぐ声が聞こえてきた。
そしてソイツは教室まで入ってくると、そのまま私達の所までやって来た。
外でも学校でも人の名前を大声で宣伝しないで欲しい。
「二人して部活も来ないで何やってるの、もう」
手に紙の入ったクリアファイルを持った、フワリとしたボブカットの小さい可愛いムギが私に詰め寄る。
私は可愛くてウザい子は無性に虐めたくなるんだけど?
「妖精事件の総括よ……」
「総括ってより補填かな」
「もう、二人で勝手にやるって、私は許さないって言ったよね?」
ムギは何故か私にだけ可愛く怒り迫った。
エリモに言いなよ。人払いしてまで優雅に本読んでたんだから。
「私は稗田のところに寄るつもりだったからどうせ遅れるつもりよ?」
「部活のことなら稗田先生のところはもう行ってきた」
「へぇ、珍しい。やっと部長職に目覚めたの?」
「部活の活動理念にあたって、行動しやすいようにシンボルマーク考えたから、稗田先生に見て貰ってたの」
ムギは抱えてたクリアファイルを裏返しにして私とエリモに見せつけるように出した。顔は得意満面だ。
「TANATSU HIGH SCHOOL KYO KEN CLUB」とロゴとイラスト……
其れは歯を剥き出しにした如何にもな狂犬。
「これ……狂犬? 本気?」
流石のエリモも顔が引きつる。
「シンボルが目立てば、『不思議』な情報もより集まってくると思うんだ。マイちゃんと私、そしてオマケのアズキちゃんで盛り上げて行こうね!」
ムギはけしてふざけてるワケじゃない。此れを真面目に学校中どころか『たなたまち』中に拡散するつもりだ。子どもの悪戯どころの騒ぎじゃない。
この時の私の顔は、最苦の虫を噛み潰したように歪んだことだろう。
「いや、マジ止めて。エリモ話が違うじゃない、ムギ暴走してるじゃん!」
(了)




