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創意の雑貨のくしび(2)

 エリモのパソコン操作を黙って見ていたムギは、不満そうに腕を組んでいた。


「こんなの本当に面白いの?」

「ムギは発明とか発見とか好きそうな気がしたけど?」

「何で自分の考えた物に、馬鹿みたいに書類つけて、自分が考えましたって主張しないといけないのか解んない」


 ムギなら『発明』で『特許』からの『利益』的な夢を見ると思ったけど、『特許』から『書類』で『面倒』が導き出されたらしい。


「特許申請が面倒だから発明が嫌いって、其れ何処か因果逆転してない?」


 ムギとエリモのやり取りは相変わらずチグハグ感はあるけど、エリモの方は其れを楽しんでる。ムギはまた其れを察したようだ。

 

「どうでもいいけど、アズキちゃんが喜ぶってことは、私にはツマンないということ。不思議にも関連性ないよ、そんなの」

 

 ムギのお子様ぶりが発揮されそう。否を唱えたら頑なに首を縦に振らない奴なのはここ最近でよくわかった。

 此のままでは特許申請の多さの調査は流れるな。


 確かにどうでも良いには良いけど、今回の件は私は考える所もありムギを諭すことにした。


「……けどもアイディアってさ、不意に頭に浮かぶときあるよね? 時と場所選ばずに」

「ん?」

「そういう閃きって『神様が降りてきた』とかって言わない? 」

「んー……」

「私さ、神とかオカルトって信じはしないけど、良いアイディアを出てくる時だけは、世界が一気に開かれた高揚感はある。ムギもそういうの無い?」

「……わかんない……」


 私の予想とは少し違い、今のところムギは私に合わせてこない。其処まで書類の匂いに拒絶してるのか。

 ならば、ムギが嫌がるだろう例えを用いるまで。


「ムギはさ、パソコンでプログラム作ったりで、創意の独特な高揚は知ってると思ったんだけどね。やっぱりアンタもエリモに近い淡白な子だったんだ」

「え? えええ……違うよ。私もマイちゃんと同じだよ。特にセキュリティの甘いところ発見して、欲しい情報確保したときとか、熱い高揚感はあるよ」


 ……おい。セキュリティって何を発見した? ムギと私の何が同じか解らないけど、危ない話と人間には関わらないから。


 私はエリモの顔をチラッと見る。エリモは微笑んでクレーム。


「何気に私は無感動と貶められてるよね?」


 エリモが慌ててないから事後処理終了な何かと信じることにして、話を続ける。


「…………ムギや私が知ってる、あの高揚する『不可思議』さは私としては部活のテーマには最も相応しいと思う。そう思わない?」

「……うん」

「良かった。ムギがエリモと共感な人だったら、一緒に図書館巡りでも頼もうと思ったけど」

「……うん、わかったから」


 消極的納得っぽいけど、仮にも部長という肩書きである以上、一度でも肯定した意味は大きい。方便を多様した甲斐はある。全部嘘とは言わないけど。

 私は過去に何か閃いて高揚感に至る体験も無ければ、アイディアの閃きが、神とか高次元由来とか全く考えてない。ムギにシンパシーなんて以ての外。

 発想とは、古い知識同士のケミカルから生まれるという説を私は支持していた。

『囁やかれ』を体験すれば、逆に幻想的なことは冷めた目で見れるんだと教えてやりたい。


 そんなことを考えていた私に、エリモの視線。


「才能、能力って英語ではギフトとも言うからね。当に天から送られたモノってことかな」


 エリモは私を見透かしたように言った。

 エリモなら此方の方便を見抜くのは判ってたし、私の趣旨を理解した上で邪魔しないのも判ってた。


「其れで結局、マイちゃんの説得でムギも納得した?」

「説得も納得もなくて、最初っから候補の一つだったんだけどね」

「了解。それではどうしようか」

「現物が存在するなら、先ずは現物を確認した方が良いんじゃない?」


 私はエリモに冷ややかな顔をして言った。

 エリモはムギと違う意味でも隙を見せては駄目だと考えているから。


「ネットでも紹介してるけど……雑貨店か百円ショップかな」


 ムギは私の顔を見て、何の事か聞いた気なようだけど、面倒なので相手にしなかった。




 部活時間は私達は学校を出て、其処まで離れていない雑貨店に歩いて向かうことになった。

 野外活動の時は、数理研究部の顧問と兼務で郷土研究部顧問をやっている稗田に報告し、場合によっては書類を提出したりする。今日は一応の報告だけだ。近所の雑貨店なんて買い出しに近い距離だし。


 以前もそうだったが私が先行して歩き、何故かムギが並んで私に話かけ、エリモが単行本を読みながら後ろに連なる。


「何で、雑貨屋さんに行くの?」


 ムギは何の目的か私に顔を迫らせて聞いてきた。


「百円ショップより近いから」

「そんなこと聞いてないよ?」


 ムギと馴れ合いたくない私は、相変わらず冷淡に接した。昼とは違う。

 私の代わりに本を読みながらのエリモが説明した。


「個人の発明って殆どが主婦層だそうだから、発明品の殆どが日常用途な物なの」

「雑貨屋さんって発明品を取り扱ってるってこと?」

「だいたい雑貨って新旧の発明品だからね。大半は特許失効してるだろうけど」




 雑貨店に着く。

 この雑貨店は、たなつ市のメイン通りから一本裏通りになる商業区画、ショッピングセンターやホームセンターなどが並ぶ通りの一画にあった。

 たなつ市は地方中規模都市なので、このような店はコンビニの数倍くらいの敷地で、駐車スペースも十数台分なんて雑貨店も珍しくない。

 白塗りの鉄筋コンクリート風な店はたなつ市では特に珍しいモノではないのだけど、店名のところが緑のネオンになっている。 

 チェーン店ではなく地元の店。立地から同級生も其れなりに出没する店なので、私はあまり来ることはない。そもそも静かな店でもないと積極的に来ようということはない。

 ムギは良く来ているようでこう言った。

 

「此処のお店はファンシー系とか時期によって色々企画してるみたいだけど、結局、掘り出し物の方が人気みたい。雑貨店マニアの私に何でも聞いて」


 私はふーん程度に聞き流し、ムギに顔さえ向けなかった。

 発明と雑貨が結びつかない自称雑貨マニアなんて奴に用はない。

 

 店内は雑貨店らしく、雑貨でひしめき合ってる他、中央のディスプレイ展示にも工夫を凝らしていた。今回のテーマはヴィンテージ雑貨セールらしい。錆びたトタンと、此処でもネオンを使ってデコレーション。そして煉瓦模様の台やヴィンテージ雑貨というふれ込みのレトロチックな雑貨が多数。

 よーく見ると、単に古そうなガラス食器もあるような気もするけど。


「……ゆれるよ……」


 その声は唐突に私の耳元で聞こえた。

 最初はムギが気持ち悪いことを言ってきたとも思った。


「……何?」


 ふり向いて、ふざけたムギを威嚇してやろうと睨みつけた。

 ……けれど、ふり向いた先には誰も居ない。ムギは入り口に置いてあった虫網を弄っていた。


 ……囁き。


 所在不明な声。発生源が特定出来ない声。

 普通の人なら、あり得ない「声」は幻聴と言うのだろう。けれど私にはこの囁きが必ず後で予感染みたモノに変質するのを知っていた。幻聴と仮定するには重過ぎる。

 私は此れが何の因果で起こる現象かは知らない。

 知らないけれど、此れが不愉快、そして可能ならば縁を断ち切りたいモノなのは確かな事だった。

 

 私は店内の状況や変化に神経を研ぎ澄ませ、必要以上に警戒した。

 勿論、こんなアホみたいなことを誰かに悟られたくもないから、店内を散策してるようには装った。

 遠い過去からこんなことに悩まされていた私は誰にも話せないスキルだけは上がっていた。

 何だか店内のディスプレイが歪んで見えた気がした。


「あ、いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ、こんにちは」


 二人の店員の連なった挨拶に私は多少、反応してしまった。 

 店員の一人は棚で大量な雑貨を並べかえていて。一人はレジカウンタで領収書を書いている。


「マグネットイレイザーはありますか?」


 素早くこの店から出たくなった私は、すぐに棚整理をしているエプロンの女性店員に近づき尋ねた。


「それでしたら、ちょうど郷土雑貨コーナーにありますよ」

「では、カットアンドペーストっていうハサミも其方なんですね?」


 手を休め店員が私に応対してくれたときに、いつの間にか後ろに居たエリモがそう言った。

 私もそうだけど、エリモも当然たなつ市で特許申請された雑貨を調べていたようだ。


「はい」


 エプロン店員は微笑んだ。

神様が降りて来ない……

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