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嘘は部活の成立ち(3)

 私は急に無気力になり昼休みに入るや否や、お弁当も食べずに机に伏せっていた。思惑が成就されないことも少なくなかったが、何よりもエリモに対する感情を再認識させられての自己嫌悪に苛まれていた方が大きかったからだ。

 あいつはヘビだ。私はカエルだ。

 持ち直すのに十数分はかかったと思う。それからムギの席の方を見ると性急にお弁当を食べ終えようとしている姿が見えた。

 そっか、いつも部員勧誘の為に動いていたのかと納得した。


 私はゆっくり動き出し、ムギの席の横に立った。


「ねぇ、部員集まった?」

「……ん、ん、んー、どうだろう。感触が有るような無いような」

「無いってことね」

「ま、待って、まだ期間あるよね? ……無いのかな?」

「諦めないの?」

「絶対何とかする。アズキちゃんのコネクションとか何でも使って」


 そうじゃない。それに結局他人頼みか。


「私、人騒がしいところに居れなくて、静かな部活じゃないと駄目なのよ。あの準備室は本当は私が使いたいわけ」


 私はこの話をすると、何故かこの前の顔馴染みの微笑む顔を思い出してしまった。……何処かでトラウマだ。


「うんうん」

「だから私が使いたいの」


 呆けてる? 何故二度言わせる?


「ん? あ、じゃあ、新郷土研究部に入ってくれるってこと?」


 お前はぁ! ……やっぱりこの子とは関係は早目に切った方がいい。少しばかりは一緒の部活でも良いかとも思ったけど、その気が萎む。

 私はイラっとしてる自分を隠さないで、捲し立てた。


「私は新郷土研究部員になるつもりはないし、だいたい新規部は申請おりないもの」

「え? 何で?何で?」

「郷土研究部は廃部してない」

「え?え?」

「まだ三年生部員が残ってる、私の知り合いだから間違いないよ」

「え? えぇー……でも、でも…」

「私は嘘は言ってない。廃部を言及したのはあんただし、新郷土研究部は入らないと言っただけだから」

「ひどい!」

「ひどくない。嘘をついたのは、あんたがエリモに、エリモが私にだ。エリモはカモフラージュ部員だよ」

「えぇ?」


え、え、えといいかげん五月蝿い。


「直に言われたよ。エリモはスポーツ万能で、特にテニス部から期待されてるから、おかしいと思った」




 放課後。廊下に出るとグランドの方が見える。テニスコートは少し離れてはいるが、人の動きはわかる。


「ほら」「あれ」


 囁きが言いたかったのはエリモのことだ。エリモは上級生と混ざってコートでボールを追いかけラケットをふっていた。相手は例の先輩のようだ。

 ラリーが続いてるから、サマになってるなと思った。テニスについては詳しくなろうと思ったことはないけど。

 そのコートに向かって、ムギが走って行くのが見えた。

 多分言いつけか、文句の為にエリモに会いに行くのはわかった。

 私はため息を突き、廊下の窓を背にした。


 私は教室に戻り、机に頬杖をつく。幸運にも教室には誰もいない。


「皆、そろそろ部活決めをする頃か……」


と一人ごちってみたけど、良いことにはならなそう。


「都合の良い部活どっかに転がってないかな」


 転がる筈はない。知ってる。部室の為に高校リサーチも済ませていたのだ。

他の状況も知ってるし、新部結成なんて最悪のリスクは取る意味さえない。

 妥協してムギとの二人部活でムギ無視やっとけばいいのかとも思わないわけでもない。


「……あぁぁ、うまく行かない」


 次の日の一時限の休み時間。私が険しい顔して席で突っ伏す。

 人影が近づいてきたようなので顔を軽く上げ視線だけそちらに向けた。

 立っていたのはニコニコしているムギだった。


「何?」

「部活の件、折衷案持ってきたよ」

「……話して」

「マイちゃんの知り合いの三年生部員って、マイちゃんの従妹さんだってね。会ってきた。私でも部活存続は約束してくれたんで、部活の確保は出来てよかった」

「……あいつ、下級生の女の子好きだから」

「私は部活をどうしてもやるから、あとはマイちゃんの居場所確保ってことになるけど、やっぱり入部でどうかな? 」

「で、何処が折衷案になるの?」

「使う時間帯の折衷、お昼休みはマイちゃんメイン、放課後は私メイン」


 折衷って日本語としてどうかとも思ったけど、そんなことより、私は少し考えてみる。悪くはないような気もするけど。


「エリモが指示してるんだ?」

「え? 何で?」

「昨日の今日で段取り良すぎるし、あんたとの部活勧めたのはエリモ」

「んー、半分あってるかな?」

「どっちでもいいよ。残念だけど、それでも私の事情は汲めてない」

「えぇ、これでも駄目?」

「進学する時には課外活動歴も大事な要素になるのに、昼だけで完遂は無理だから。一年も棒にふるわけにはいかないのよ」

「そっか……」

「もういいよ、私は別で何処か考えるから」


「……じゃあね、アズキちゃんからの伝言ね」


 内心アズキという単語に私は思いっきり反応したが、それをムギには悟られないくらいに外面は微動だにしなかった。


「マイちゃんは聞こえること気にしちゃ駄目だって」

「……ど、どういう意味?」

「何だろうね。」


 鼓動の異変をムギに悟られなくてよかった。

 エリモは私の何を知っていると言うのか。エリモはどうしてそんなことがわかるのか。……それで頭がいっぱいになった。

 私は先日の顔馴染みの幻の件を考えてみたけど……接点などあるわけない。




 また次の日…… 部活ごときで私は何日、閉塞状態に陥ってるのだろう。

 計画が頓挫するなんて人生にはよくあること。臨機応変に対応出来るタイプだと私は私自身を評価していた。

 簡単に考えれば何処へなり入りこんで我慢でもすればいいだけ。ムギのいることになる郷土研究部だって。実質帰宅部な選択もありだった。

 それが出来ない。何故か出来ない。

 こだわり。環境に対する未練。執着心が私はこんなにも強いものだなと諭されてしまった。

 もしも心の中を覗くモノがあるとしたら、私の混線した闇みたいなモノが入り乱れる様を見せつけられて、嘔吐で胃の内容物を吐き散らすんじゃないか。


 そんな何の意味もなさない虚妄まで巡らせてしまった。


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