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創意の雑貨のくしび(1)

 たなつ市にある、たなつ高校の第二校舎、三階の隅から二つ目。

 此処は資料準備室という名目で、鉄棚群のスペースが設けられているのだけど、放課後には郷土研究部部室としても許されている。


 私は、郷土研究部部長、大丸(おおまる)ムギから、昼休みの部室の占有権を約束されていたけど、『放課後に部室として』という建て前から昼休みに部員に専有権がある筈がなかった。

 不文律からも学校側や他生徒に一切の効力があるわけでは無いのは理解してたけど、少なくても部の関係者、ムギ、そして小豆 (ことう)エリモは厳守するべきルールだと私は思っていた。

 

 午前、嫌な予感を『囁かれ』て、昼食を早めに済ませていたのは正解だった。

 私は居た堪れない気持ちを殺しながら、まだ他よりも安全地帯だろう私のプライベートルームに拘っていた。


「何か無いのー?」

「話題的なモノ?」

「面白い話ならなんでもだよー」

「不思議な話じゃなくて、面白い?」


 何故か此処で弁当を頬張っているムギが、何時もの中学生並みの話の振り方をしてきたのだけど、何故か此処にいるエリモが、単行本片手に紅茶を飲みながらそう聞き返した。

 

 資料準備室はほぼ鉄棚が占拠してるような空間なんだけど、窓に近い方の安全スペースには四人分の作業が賄える長テーブルと、四脚のパイプ椅子があった。

 窓側の方の二人分のテーブルには、視界の邪魔になるくらいパソコン等の機器が置かれていて、其のパソコン越し、更にエリモの単行本を越え、ムギとエリモは会話を続ける。


「だって、『不思議』だけだと全然成果が上がらないもん」

「ムギが喜びそうな話題はなかなか豊富とはいかないからね」


 ムギは私の方に顔を向けた。

 エリモの薄い反応の代わりに、もっと何かしらの満足いくような返答をしろと言わんばかりの顔だ。


 ……知らないから。逆に私が聞きたいのは、何故アンタ達が此処に居て、約束を反故にしたのにも関わらず、平然とランチョンミーティングをしてるかってことだ。

 おかげで私は教科書とノートを開いて勉強をするフリを強いられている。


 ムギを相応な顔で睨みつけたのだけど、ムギ自体は一度、不思議なものを見たような目をしたあと頰を染めて微笑んだ。

 何を考えたんだろうか。嫌だな。悪寒しかしない。

 

「アンタの趣向なんて、賛同してないから……」


 私はそう静かに言って、プイッと横を向いた。

 話の腰を折ったんだから、普通の子ならこれで諦めてくれる筈だと横目で確認したけど、どうにも普通ではないムギは嬉しそうな顔をしていた。

 流石にエリモでも薄気味悪く感じたのか、ムギに苦い顔を向けて言った。


「ムギは何を(えつ)ってる?」

「マイちゃんって期待を裏切らない反応するなぁって」


 ムギは何故か自分が照れるように笑った。

 ふわりとしたボブパーマのムギは、相当可愛い容姿をしてるのだけど、このような笑い方をしたら尚更、可愛さが引き立つ。其れがまた超絶ムカつくんだけどね。

 私はムギの反応に対抗する形で話題に嫌々参加。


「……そもそも拘るようなテーマなの? 不可思議なんて。結果が出せないなら他のテーマに宜しくどうぞ」


 郷土研究部の研究テーマは『不思議』。高校生の部活でやるようなテーマでは無いのはわかってる。

 部長のムギが強行に提案、エリモが賛成してしまった為に始まってしまったから仕方がない。

 精神構造が子どものままのムギは兎も角、知性と人気と体力とついでに人操術にも長けてるエリモという人間が関わってしまうと、私には今の所、抗う手段がない。


 スッキリしたポニテを垂らしたエリモは、そんなことを考えていた私の顔を見て、何を察したのかニコッと微笑んだ。恐ろしい。


「不思議……。たなつまちの不可思議性なんて単語だけで情報収集してたって、限度はあるかな。そもそも怪しい、異様ことや物に不思議と言ってしまうのは、理解しようとする姿勢を辞めてしまうってことだしね」

「そんなに不可思議な事象を探したいなら、郷土研究部なんだから郷土資料から漁ってくるべきよ、ムギとエリモが」

「もう、マイちゃん、アズキちゃんを煽る方向に持ってこうとするのは辞めて! それだけは本気で怒るよ」


 小豆エリモのことをアズキちゃんと呼ぶ何の捻りもないムギは、また図書館の悪夢が繰り返されるかと、全否定的にプルプルと首を横に振った。


「部室を図書館の一角に設けるとか夢みたいだけど、残念ながら、議事録や年史以外、書籍になってるものは粗方目を通しちゃったからなぁ」


 今度は、エリモの方が持ってる単行本を口に当て、光悦に浸ってるようだ。

 郷土資料を調べ始めて、そんなに日が経ってない気がしたけど気のせいだったか?

 図書館嫌いなムギは小動物のように小刻みに震えていた。ムギに言わせると図書館じゃなくエリモとの図書館作業が嫌いだということだけど。


「まぁ、たなつ市の他の資料はネットでも閲覧可能だから、ムギのパソコンで調査や抽出も出来るんだけどね。ムギ調べないの?」

「データ要件は、この前、不思議って言ってるつぶやきの多さとかで決着ついたじゃん」

「アプローチを逆にするの。ネットにあるデータで何かの異常性から、たなつ市の不思議を見出すとか」

「……何だかめんどくさそう」

「なら図書館かな?」

「断る」


 エリモに脅迫まがいに言われ、ムギは嫌そうに徐にパソコンのキーボードを打ち始めた。

 いやゆっくりなのはホンの一分だけ、異様な勢いで加速し操作してる。……集中が半端無い……何をやり始めたのか?

 私も理数系である以上、ムギがパソコンで何をどうやってるのかは正直興味あるのだけど、仲間意識と勘違いしたムギから懐かれてしまうと厄介なので、知らんぷりするかのように横を向いた。……チラリ。


 ムギはパソコンを回転させ、画面にウィンドウが増殖する相対グラフっぽいモノを見せた。

 時々、画面に「不思議発見」とか文字が出てくる。趣旨は間違ってはいないけど某テレビ番組みたいなネーミングはやめてくれないかな。


「……其れは何? アンタ、また怪しいことやってるの?」

「ううん。ネットに転がってる色々なデータベースから、多種多様な物の全国合計を総人口で割って、たなつ市のモノと比較して突出率を見てるの。ちょっと、待って」


 ムギはまた、キーボードをカタカタと入力。帳票形のデータベースを表示させた。

 ……数分で何か出してきた。……まぁ、日頃プログラムか何か弄ってるらしいから、そういうの改良すれば、直ぐに作るのも簡単なんだろう。

 エリモも本を閉じ、画面の中を喜んで確認している。


「突出率って? 上の外れ値じゃないの? たなつ市の特産品や、企業の専有なんかの値もあるかな。黒豆芝ちゃん可愛い率ってものもあるよ。主観的な物が混じってるね」

「先入観無くして、データの収集するって、結果こっちの思い通りにならないというジレンマ」


 ムギは算出結果にあまり満足してないようだけど、パソコンを扱う手際だけには感心していた私も、画面を注視していた。そして思わず口にする。


「……特許申請、数倍とか……」

「あ、ホント。でも、その手の特許を確保する企業があるから、個人申請に限ったらどうだろう?」


 エリモはデータベースウインドウを小さくして、ネットでたなつ市の個人特許のニュースを調べた。ニュースの記事に「発明の国たなつまち」というものを発見。更に記事内容を目で追いかける。


「あ、当たりかな。たなつ市の個人の特許申請率は相当に高いんだって」



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