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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第七章 それぞれの過ごす日々
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バシュッ!


 マリアが一番近くのアルラウネまで後数歩という距離まで近づいたところで、アルラウネから蔓が飛び出した。


「えっ? 嘘⁉」


 マリアは慌てて後ろに跳ぶことで蔓を避けた。

 先ほどまでマリアがいた辺りの土がえぐられていた。


「えっ? なんで?」


 これはマリアが悪かった。森への延焼を心配したあまりに、全部のアルラウネに当たった時点で《ファイアー・トルネード》を解除してしまっていた。それでは中級魔術でも、戦闘能力は低いといっても仮にもBランクのアルラウネには致命傷とまではいかなかった。すぐに《ウォーターボール》で火を消してしまったことも大きい。

 他のアルラウネたちも起き上がりマリアを円状に取り囲み、マリアに向かって蔓で攻撃しだした。


「えっ、ちょっ、きゃっ、おっと」


 流石のマリアも回避に専念せざるをえなかった。

 時にしゃがみ、時に体を逸らし避けていくが、ちっともその場から移動ができない。あまりの猛攻に魔術を使う余裕はなかった。


「ああ、もう!」


 それでも回避しながら短剣を取り出すと、蔓を切り払い始めた。


(⋯⋯こういう時エリザだったらあっさり倒していたんだろうなぁ)


 マリアは友人の少女との違いに自分が情けなくなった。

 無論どちらかというと物理に特化しており、属性上の問題から攻撃系の魔術が苦手なエリザベートと、普段から結構物理で戦っているため忘れがちだが、どちらかといえば遠距離からの魔術攻撃が得意なマリアでは比較にならないのだが⋯⋯。


 若干落ち込みつつも、マリアのその動きには一切の変化がなかった。


「ってい!」


 回避は必要最低限にとどめ、できる限り蔓を切り払い進んでいき、とりあえず一番最初に攻撃してきたアルラウネの首筋を切りつけ、倒すことに成功する。


「後9体⋯⋯」


 このアルラウネたち、連携がうまかった。最初の攻撃で瀕死とまではいかずとも、それなり以上の重傷を負っているはずなのだが、それを補ってあまりあるぐらいだった。


「なんで数を減らしたのに楽にならないの~⁉」


 数が減ればその穴を綺麗に埋めてきた。


「簡単に終わると思ったのに!」


 マリアは涙目になりながら、1体ずつ的確に倒していった。最後の1体が地に伏したのは、それからおよそ20分近く後のことだった。


「もう絶対アルラウネの討伐は受けない⋯⋯。頼まれても誰がやるもか⋯⋯」


 今回のことでアルラウネは軽くマリアのトラウマになっていた。


「よし、時間ももったいないし、解体するか⋯⋯」


 気を取り直すとマリアは倒したアルラウネに向き直ると解体を始めた。


「えっと、討伐証明部位は⋯⋯あっ、これか」


 アルラウネの討伐証明部位。それは頭の花だった。


「後は魔石と蔓⋯⋯だけどこれは難しいかな?」


 どれもこれも手のひら程度の長さしかなかった。一応その中に僅かにあった腕の長さぐらいのものを拾いしまう。


「⋯⋯次は火はやめて風にでもするか」


 今回の反省も怠らない。


「よし! じゃあAランクの魔物探しに行こう!」


 だが一瞬で気持ちを切り替えると、スキップでもしそうな感じの軽い足取りで歩き始め──。


「きゃっ⁉」


 転んだ。


「っもう! 何な⋯⋯」


 慌てて足元を見れば──。


「えっ?」


 可愛らしい手のひらサイズの生き物が足に引っ付いていた。よく見れば人型をしており、足元近くまである翠の髪を白い──それこそ純白と呼んでも差し障りないほど白いスズランに似た花が飾っている。ちっこい体は何でできているのか知れないつややかな薄い青と緑が混ざったような色のふわふわのワンピースを着ていた。


「オマエ、イク、ダメ。ワタシ、ツレル、イク」


 妙にたどたどしかったが、その声は鈴を転がしたように綺麗だった。


「えっ? ⋯⋯連れていけってこと?」

「ソウ、オマエ、ワタシ、ツレル、イク」


 マリアは首を傾げつつもそれを持ち上げて頭に乗せた。


「オマエ、イイ、ニンゲン。アイツ、ワタシ、ツカマエル、シタ」

「あいつ?」

「ソウ、アイツ」


 どこからか植物の蔓が伸びてきてアルラウネたちを指した。


「アルラウネ?」

「ニンゲン、ソウ、ヨブ、サレル、キク、シタ」


 どうやら肯定のようだと納得した。


「でもなんで? ⋯⋯あっ、その前にあなたは一体何?魔物、なんだよね?」

「ソウ。シュゾク、ワカル、ナイ。ニンゲン、ワタシ、ヘンイシュ、イウ、シタ」

「ヘンイシュ? ⋯⋯へんいしゅ⋯⋯変異種⁉」


 変異種とはその名の通り、その種族にない特徴を持って生まれてくる生物全般のことだ。


「ソウ。アイツ、ワタシ、ヨワイ、イウ、シタ」

「あいつ? ⋯⋯アルラウネのこと?」

「ソウ。ニンゲン、ワタシ、キショウ、イウ、シタ。ツカマエル、イウ、シタ」

「えっと、あなたはもしかしてアルラウネの変異種?」

「チガウ! ワタシ、アイツ、ナカマ、チガウ。アイツ、ワタシ、ツカマエル、シタ」

「⋯⋯そう」


 それは弱いから守ろうとしたのではないかという言葉をマリアは必死に飲み込んだ。

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