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「ん~、しょうがないし適当な依頼受けるか」
マリアはそう言いながらBランク依頼とAランク依頼を見比べ始めた。見る項目は場所。マリアは依頼で行った場所で偶然Aランクの依頼にあった魔物に遭遇し、しょうがなく倒してくるつもりだった。
「よし、これにしよう」
選んだのはBランクのアルラウネの討伐。ただしその最低討伐数は10となっており、なかなかの鬼畜設定だった。
「すいません。受注お願いします」
「⋯⋯これはBランクの依頼だけど1人で大丈夫?」
「同じBランクのオーガキングなら倒したことがありますから大丈夫です」
「⋯⋯そう。無茶はしないでね」
「わかってます。いざとなったら守りに徹して全力で逃げますから」
手続きが終わるとマリアは早速目的地の徒歩で半日ほどの森に向かう。一応幻想の森という大層な名前がついているが、近くの森に比べて魔物が若干強いということ以外には特にこれといって違いはなかった。
王都の門を出ると早速移動用のユニコーンを呼び出す。
「⋯⋯今日は久しぶりにあの子にしようかな? 『出でよ、わが友雪風、《召喚》』」
呼び出されたのは長旅の間に乗っていたユニコーンよりも一回り小さなユニコーンだった。
「雪風、久しぶりだね」
「ブルッ! ブルル⁉ 《久しぶりじゃないよ! なんで皆は呼んでも僕は呼んでくれないのさ⁉》」
雪風は大層ご立腹だった。
「ごめんごめん。でもまだ雪風は長時間人を乗せて走るのは難しいでしょう?」
「ブルルゥ《それはそうだけどさ⋯⋯》」
雪風は納得はしたがまだ不服そうだった。
「今日は大した距離でもないから雪風を呼んだんだよ? あまり文句を言うなら帰して代わりのヒトを呼んじゃうよ」
「ブルッ! ブルブルル《文句言わないから! お願いだから帰さないで》」
雪風は必死だった。文句は言ったものの、外の世界を見ることはマリアたちに呼ばれた時にしかできない。帰されるということはそれができなくなるということで⋯⋯。少なくとも好奇心が旺盛な雪風にとって、死刑宣告に等しかった。
「じゃあ幻想の森まで乗せてくれる?」
「ブルッ! 《もちろん!》」
雪風を呼び出した場所は王都の目と鼻の先だった。そのため門の兵士からは姿だけでなく声も聞かれていた。ただ雪風は鳴き声しか聞こえず、マリアは少しばかしおかしな人間になっていた。
◇◆◇
それからおよそ1時間後、マリアは幻想の森の入口にいた。
「ここが幻想の森か。⋯⋯なんか普通の森だね」
それがマリアが幻想の森を見て最初に言った言葉だった。
「ブルル《それは人間がつけただけで、普通の森だっておじじが言ってたよ》」
「⋯⋯そうなんだ」
ちょっとがっかりしながらも、雪風に礼を言って送還した。
「⋯⋯とりあえずアルラウネを探すか」
気を取り直して森に再び向き直る。
「ん~、使えるかな? 『汝は地であり、空である。何人も汝を阻むことは叶わず。我に彼の者らの場所を指し示せ、《レーダー》』」
マリアから魔力が放射状に放出される。ただその濃度はとても均等とは言えず、それでは正確な距離まではわからない。
「⋯⋯まだ難しいか」
それでも距離はともかく方角はわかった。
「あっちに丁度それっぽいのが10体いるね。正解だと良いんだけど⋯⋯」
マリアは慎重に歩を進めた。
歩くこと10分ちょっと、その途中でもC、Dランクの魔物が襲い掛かってきたが難なく撃退し、とりあえずそのままアイテムポーチに突っ込んでいた。
「多分この辺だと思うんだけど⋯⋯」
いくら正確な距離がわからないとは言っても、ある程度予想はつく。
「あっ、あれかな?」
森の中の少し開けた場所、そこには通常よりも一回り以上大きな花の蕾が10個ほど並んでいた。
アルラウネ自体の戦闘能力自体はそこまで高くない。だがBランクという高ランクに属するのはひとえにその擬態の巧妙さにあった。
「⋯⋯こうして見るとホント、少し大きな花の蕾にしか見えない」
マリアも、この辺りにいるのがわかっていなければ素通りしていたかもしれない。
「⋯⋯とりあえず先手必勝ってことで、『火よ、炎の渦とかせ、《ファイアー・トルネード》』」
普段から料理に魔術を多用するマリア。中でも一番使用頻度が高い火属性は今ではマリアの得意技になっていた。他の属性で安定して使用できるのが精々初級、どうにか使えるかもしれないレベルの中級までなのに対し、火属性は中級は安定して使え、上級も完璧とまでは行かずとも、5割以上の確率で実践に耐えうるレベルで使用できると言えばわかりやすいかもしれない。
そんなマリアが使った火属性の中級魔術は見事なまでのコントロールがされ、周りの木々に一切燃え移らせることがなくアルラウネだけを襲った。
グギャァァッ!
苦悶の声を上げながらアルラウネは燃え上がった。
「消火はちゃんとしなくちゃね。『《ウォーターボール》』」
森に燃え移る前に火を消す。流石にマリアにも延焼は防げない。
完全に火が消えると、そこには焼け焦げ動かないアルラウネが残されていた。
「ん~、ちょっと火力が強かったかな?」
マリアは反省しながらアルラウネに近づいていった。




