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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第六章 王都への帰路
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幕間11 思い出話

「そう言えばユニコーンってけっこうめずらしいよね」


 王都へ帰る道すがら、ふとリオナがそう呟いた。


「う~ん、そうなんだけどあまり実感がないんだよね」

「えっ、なんで?」

「出会いが出会いだったから」


 マリアはそう言って話し始めた。


◇◆◇


 あれはまだ私たちが冒険者になったばっかりのこと。今もなったばっかりじゃないかって言われたらその通りなんだけど、あれは本当になったばっかり、確か1週間かそこらだったかな?あの日私たちはDランクのオークの討伐依頼を受けたの。

 依頼のランクが低いと思ったかもしれないけど、私たちは実力はともかくまだGランクだったから受けられるギリギリのランクだったんだ。


「確かオークってお肉の買取価格が結構高かったよね?」

「そうだな。ランクのわりに肉が美味しかったはずだ。王都の料理店で使われている肉も大半がオークだったと思うぞ」

「へぇ~」


 アルからその話を訊いて私は今日は火属性の魔術はさけようって決めたんだ。普段ゴブリンなら火攻めにしちゃうけどね。大した値段にもならないし⋯⋯。


 話がそれたね。今も魔物を探すのには苦労しているけど、あの頃は今ほど使えるの魔術も少なかったし、かなり苦労したんだ。オークの集落を見つけるのに1時間半もかかっちゃったんだから。さらにオークを全部倒しきるのに10分。解体にも1時間以上かかっちゃった。今じゃ考えられないよね?今だったら全部で1時間もあれば余裕で終わるんじゃないかな。


 おっと、また話がそれちゃったね。

 その時だよどこからか悲鳴が聞こえてきたのは。


「えっ? 今の聞こえた?」

「ええ、あっちの方から聞こえてきたわ。急ぎましょう」


 聞こえてきた方に1分ぐらい走ったら、そこには襲われかかっているユニコーンの群れとなぜそこにいたのかわからないけどサイクロプスさんがいたの。あの時ほど焦ったのはグレンと初めて会った時ぐらいかな。


「まずい! 『火よ、炎の矢となりて敵を穿て、《ファイアアロー》!』」


 今思えばなんであの時《ファイアアロー》を使ったのか謎なんだよね。それだけテンパっていたのかな? サイクロプスのような大きな魔物相手には《ファイアストーム》を使った方が良いんだけどね。

 何はともあれ私の放った炎の矢はサイクロプスにやすやすと避けられてしまった。


「え~、除けないでよ!」


 私は文句を言いながらサイクロプスの死角に回った。視界の端にアーティスが矢をつがえているのが映った。


「『火よ、炎の海となれ! 《ファイアストーム》!』」


 今度も除けられちゃったけど、そこへアーティスの矢が飛んできて見事額の目に命中した。


ギャァァァ!


「うるさいのよ!」


 そこへエリザが走りこんできて杖を無造作に振って吹っ飛ばした。どうやら顎に当たったみたいで微妙に上に浮いていた。

 サイクロプスは倒れて動く気配がなかった。


「倒したってことで良いのかな?」


 隣を見れば何もすることがなかったアルが肩を落としていた。


「⋯⋯ああ、そうじゃないか?」


 私はそんな返事よりもユニコーンたちの方が気になっていた。


「でもなんで逃げなかったのかな?ユニコーンって足が速いんでしょ?」


 ユニコーンの足ならサイクロプスぐらいなら楽々と逃げられたはず。

 ユニコーンたちは最初はこちらを警戒していたようだったけど、こちらに害意がないのが伝わったのか一番立派なのが近づいてきた。


「ブルルル《我らを助けて頂いたこと、感謝する》」


 二重音声って言うのかな?耳には鳴き声なんだけど同時に頭に声が響いた。


「えっ? あっ、そっか」


 ちょっと戸惑っちゃったけどすぐにその理由がわかった。


「ユニコーンって幻獣だもんね。私幻獣とは初めて会ったよ」


 皆も頷いていた。


「ブルル《むやみやたらと姿を現すものではないからな》」

「? じゃあなんで逃げなかったのか訊いても良い?」


 一番気になっていたことを訊いてみた。


「ブルル、ブルルル《逃げなかったのではない。逃げられなかったのだ》」

「えっ? なんで? サイクロプスぐらいなら余裕で逃げられるでしょう?」

「ブルル、ブル、ブルル《本来ならばそうだ。だが怪我をした仲間がいる。仲間を見捨てることはできん》」


 確かユニコーンは同族意識がすっごく高かったはず。召喚契約の友人になるという条件もそれに基づいたものだった気がする。


「怪我⁉ 回復系の魔術なら少しは使えるから、もし良かったら見せてもらえる?」

「ブルッ⁉ ブルルル、ブル《治せるのか⁉ こちらからもお願いする。診てやってくれ》」


 急かされるようにそのユニコーンの後をついて行くと、後ろ足が傷ついた、周りより一回り小さいユニコーンが寝かされていた。

 私が近づくと怯えたように後退ろうとした。まぁ足を怪我しているから無理だったけどね。


「怪我を診るから動かないでね」


 できるだけ優しそうに声をかけた。それが良かったのか、周りのユニコーンたちが警戒していなかったからなのかわからないけど、若干緊張が和らいだのがわかった。


「『《診察メディカルイグザミネーション》』」


 傷口に手をかざして唱えれば、怪我の詳しい状態が頭に入ってきた。

 骨にひび、傷が化膿。思ったより状態は悪かった。


「エリザ! 手伝って!」


 正直に私の腕じゃかなり時間がかかる。エリザに治療を手伝ってもらうしかなかった。


「私は骨を先に治すから、エリザは傷の消毒をお願い」

「わかったわ」


 私は傷を癒すのに比べ、消毒系統が大の苦手だった。普通は逆みたいだけどね。エリザもこれには不思議がっていた。


「消毒するわ。少し痛いかもしれないけど我慢してね」


 エリザが声をかけるのを聞きながらも、私は自分の仕事を進める。


「『光よ、彼の者の傷を癒やせ、《ヒール》』」


 この時気をつけなければいけないのは、治すのは骨だけにすること。間違って傷口まで塞いでしまっても意味がない。やり直しだ。


 5分ほどでひびは治った。


「エリザ、どう?」

「もう終わるわ。⋯⋯これで雑菌は全て殺せたはずよ」

「わかった。ありがとう。『光よ、彼の者の傷を癒せ、《ヒール》』」


 骨を治すことに比べればとても楽だ。みるみるうちに傷は塞がった。


「一応念のため、『《診察メディカルイグザミネーション》』⋯⋯うん、大丈夫だね」


 一応確認したけど問題はなかった。

 立つように促すと、ユニコーンは恐る恐る立ち上がった。


「ブルル! ブル《痛くない! ありがとう、お姉ちゃんたち》」

「ウフフ、どういたしまして」


 体の大きさから予想はしていたけれど、実際に話してみると想像以上に幼い子どもだったみたい。


「ブルル、ブル、ブルルル《我が一族の者を治療してくださったこと、深く感謝する。例と言ってはなんだが、お主たちを我らの友と認め召喚契約を結ぼう。いつでも好きな時に呼び出すが良い》」


◇◆◇


「その後はユニコーンたちと契約して今に至るってところかな? まぁこの話には続きがあるんだけどね⋯⋯」

「えっ⁉ どんな⁉」


 リオナは目を輝かせた。


「⋯⋯ちょっとその子どものユニコーンに想像以上に懐かれて名前をつけることになっただけだよ」

「⋯⋯ちょっとで済ます話じゃないよ。⋯⋯それでどんな名前?」


 リオナは少し遠い目をしたが、それでも好奇心は抑えきれなかった。


「真っ白な体と、足がとても速いから《雪風》って名前をつけたんだ」


 そう言ってマリアは微笑んだ。

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