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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第六章 王都への帰路
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幕間10 国王の頑張り

 それはマリアたちが王都を旅立った日に遡る。


 その日はいつものように朝早くから政務をこなしていた。そこへ宰相が駆け込んできた。


「大変です!」

「どうしたのだ? そんなに慌てて⋯⋯」

「先ほどアル様から連絡が御座いまして⋯⋯」

「あいつは今日から王都から出ているはずだぞ?」


 国王は首を捻った。


「それが⋯⋯南門で通行料を取られたと⋯⋯」

「なんだと⁉ 通行料など取っていないはずだ」

「どうやら南門の兵士全体で甘い蜜を啜っているようで⋯⋯」


 国王は数秒間考えた末、結論を降した。


「エルマン、自分の目で確かめに行く。留守を頼む」

「お待ち下さい。それでしたら私もご一緒します」

「⋯⋯わかった」


 2人は手早くお忍びの準備を始めた。イメージは少し裕福な行商人だ。


「これで尻尾を出してくれると良いが⋯⋯」

「また仕事が増えますね⋯⋯」


 現在の貴族社会において、優秀な者で一定以上の身分を持っている者は少ない。そのしわ寄せが来ているのがこの2人だった。

 普段だったらある程度はアルフォード──アルデヒドに頼むのだが、今日からしばらくは王都にはいない。


「せめてこういった確認だけでも他の者に任せられれば良いんですけど⋯⋯」

「そうもいかないからな」


 支度が終わると2人は密かに城を抜けだした。


◇◆◇


「⋯⋯黒だな」

「ですね」


 お金を出すのを渋るとある貴族家の名を出してきた。


「エルマン、南門の兵士たちの名簿を押さえておけ。私は先ほどの話の裏取りをしてくる」

「かしこまりました」


 国王は行く場所を告げずに執務室から出ていった。


「⋯⋯リンリーはいるか?」


 国王は城の片隅の隠し部屋に入ると、虚空に呼びかけた。


「⋯⋯お呼びでしょうか?」


 すると何もない空間から侍女のお仕着せに身を包んだ中年の女性が現れた。茶髪に茶色の目と、特に目立つ特徴はない。


「⋯⋯レオポルド男爵家を洗え。どんな手を使っても構わん。できるだけ早急に頼む」

「かしこまりました」


 短く返答すると、再び姿を消した。


 彼女はリンリー・エルダー。エルダー男爵の妻であり、王家諜報部のトップだった。⋯⋯ついでにアルフォードの母親ということにもなっている。


「⋯⋯ベルジュラック公爵家、今日こそは尻尾を掴んでやる」


 エルマンからもいつまで一族で要職を占めていると、遠回しに役職を譲るように言われたと報告を受けていた。⋯⋯なんで役職が回ってこないのかわかっていない愚か者とも。


「親子3代の悲願、必ずや私の代で叶えて見せる」


 国王はそう声に出し、誓った。


◇◆◇


 3日後、情報が一通り集まった。


「サンドライト様、レオポルド男爵家を調べましたが、あの家との直接的な繋がりは発見できませんでした。こちらがその情報を纏めたものです」

「⋯⋯ご苦労だった」


 渡された書類に目を通せば、最後の備考欄に直接的な繋がりは認められなかったが、間接的にしろ、何らかの繋がりがある確率が高いと書かれていた。


「わかっているのに証拠がなく捕らえられんのは歯痒いな」

「あの一族は狡猾ですから」

「⋯⋯出入りの商人、使用人の身内を含めて徹底的にもう一度洗え」


 それが徒労に終わることは想像に固くなかった。だがそれでも諦め切れなかった。


「⋯⋯かしこまりました。レオポルド男爵家、ベルジュラック公爵家双方からもう一度徹底的に洗います」


 リンリーもその気持ちは痛いほどにわかった。だからこそ否とは言えなかった。


「⋯⋯頼む」


◇◆◇


 その2日後、国王は宰相と共に南門に公式に(・・・)視察に向かった。


「これはこれは国王様に宰相様。このような薄汚い場所にわざわざ来られるとは⋯⋯」


 南門の兵士長は揉み手をしながら擦り寄ってきた。


「今日ここに来たのはな、冒険者からこの門で通行料を取っているという訴えがきたからだ」


 これはあながち嘘ではない。マリアたちが冒険者もしているのは紛れもない事実なのだから⋯⋯。


「⋯⋯そのような事実は一切ございません」

「私も杞憂だと思いたい。ついては帳簿を見せてもらえるか?」


 お願いの形を取ってはいるが、これは命令だった。


「は、はい! すぐに持ってこさせます」


 リンリーたち諜報部の調べで、裏帳簿が存在することは調べがついていた。ただ運ばれてきたのは表向きの帳簿。国王はそれを改めもせずに宰相に渡した。


「これは⋯⋯」


 宰相は次々とページを繰っていき、あるところでその手を止めた。


「どうしたのだ?」


 何を発見したのかは諜報部の頑張りですでにわかっていた。だからこれは兵士長たちに見せるための茶番だった。


「この年の欄を見て下さい」

「? 特に問題はないようだが?」

「いえ、この年は帝国との戦で門の兵士の数が大幅に減りました。それに合わせ一部の項目は予算を削って戦費に回したはずです。それなのにこの年の予算は例年と遜色がない⋯⋯」

「⋯⋯ないはずの金がある、か。この分だとその他の年も怪しいな。裏帳簿の類もあるかもしれん。おい、探せ」


 最後の言葉は連れてきた近衛騎士に向けたもの。

 裏帳簿が発見されるまでさほど時間はかからなかった。


 この日、南門の兵士の大多数は捕らえられ、他の門の兵士たちはその穴埋めのために移動が相次いだ。

 時を同じくしてレオポルド男爵、レオポルド男爵夫人とその長男、および次男も犯罪援助の疑いで捕らえられ、数日後に家督は三男に譲られることとなった。

おまけ話


かなり悪どい貴族が多いが、家督を継ぐ長男、そのスペアの次男に比べ、三男以降は真面目な人物や温厚な人物が多い。その事実に国王は日夜頭を悩ませている。

城の文官や騎士はそういった三男四男で構成されているため、仕事が滞ることはないが、実家の横槍が入ることが多いため、さほど重要な仕事は頼めない(情報漏洩の観点から)。

国王は密かに貴族の家督は王家のように領民の投票で決めるよう法の改正を狙っているが、実現は遠いい。

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