6
(これって本当かなぁ)
それが手紙を読んだマリアの感想だった。
そもそも普通の貴族が王族が関わって来た時点で情報を得られるわけがないのだがその異常さには気がついていない。
「嘘にしろ真実にしろ私にできることってないよね⋯⋯」
呟いてみると自分の無力ぶりが思い知らされた。
「痛っ!」
足先に激痛が走り足元を見やるとティファニーがいた。そしてさっさと返事をよこせとばかりに羽をバタバタさせた。
「あっ! ごめんなさい」
マリアは慌てて返事を書き始めた。
『まさか鳥が手紙を運んで来るとは思わなかったわ。それにこの内容って本当なの?ちょっと信じられないわ』
短い手紙だが文字を書き慣れていないマリアはこれだけ書くのに普通の人の3倍程の時間がかかった。
「じゃあお願いね」
ティファニーに手紙を差し出すと、ティファニーはそれを掴むや否や部屋から飛び出して行った。
◇◆◇
その頃アルフォードは寮の部屋で一人悩んでいた。
人払いは済ませており、使用人たちは一人もいない。
(一体どうすれば⋯⋯。まさか第二王子が出てくるなんて完全に想定外だ)
第二王子が絡んでいることはまず間違いないだろう。情報が恐ろしいぐらい集まらなかったのだから。それに情報を集めた者の腕は確かだ。それぐらいは今までの経験からわかっている。
もともとマリアがこの手の騒動に巻き込まれることはわかっていた。だが流石に第二王子の登場は予想外だった。
「弱み、だろうな」
アルフォードは次の方針を決定した。
控えていた諜報員に指示をする。この諜報員のことはアルフォードに仕えている使用人たちは知らない。
窓から出て行った諜報員を見送ると、使用人たちを呼びつけ、同様の支持をした。情報は多いに越したことはない。
部屋に他に誰もいなくなるとアルフォードは一息吐いた。
そこへティファニーがマリアからの手紙を運んできた。
短い手紙を読むと暗かった顔が少し明るくなった。
「本当はこんな手は好きじゃないんだけどね⋯⋯」
つい本音が出てしまった。
アルフォードは頭を振ると気を取り直してペンを持った。マリアの質問に答えなければならない。
◇◆◇
ティファニーを送り出してからマリアは考えにふけっていた。
そこにティファニーが再び手紙を手(?)に入ってきた。
「早かったわね」
さっそく手紙を開く。
『君からの質問の答えだが、答えはYesだ。これは確かな筋からの情報だ。信用して良いだろう。出所はまだ言えないけどね。この件が終わったら教えてあげようとは思っている』
「そう簡単には教えられないってことか⋯⋯。まぁしょうがないよね」
マリアは内容に一人納得すると時計を見た。もう12時を回っている。今日は校舎内にある食堂が開くと聞いていた。そして13時で閉まってしまうことも。
マリアは慌てて食堂に移動した。
食堂に着くと誰も人がいなかった。時間を過ぎてしまったのかと慌てて時計を見るがまだ12時半だ。
「あれ?」
わけがわからず途方に暮れていると、食堂の奥の厨房から人が出てきた。
「おや、食事かい?」
「はい!」
「悪いけど今日は人が少ないからA定食しかないんだよ。大丈夫かい?」
「はい」
この場合、人数が少ないのは食堂のスタッフの人数ではなく、生徒や教師の人数だろう。
マリアが適当な席に座って少し待つと魚介類が中心のA定食が出てきた。
「あんたも災難だねぇ」
誰かから聞いたのだろう。
「⋯⋯はい」
「元気をお出し。少なくとも食堂の者たちは皆、あんたのことを応援しているからね! 何かあったら相談に来ても良いよ」
貴族相手に相当煮え湯を飲まされたのだろう。
食事自体はとても美味しかった。流石学費が目が飛び出すほど高いことはある。
マリアが一つ気になったのは他に人が誰も来なかったことだ。
帰るときにさっきのおばちゃんに聞いたら部屋で食べているんだろうと言われた。部屋に設備があるらしい。
寮への帰り道、のんびりと歩いていたら向こう側から学園長が歩いて来た。てっきり誰とも会わないと思っていたから以外だ。
「おお、マリアじゃないか。丁度良かった。さっき職員会議が終わって13時半から授業をすることが決まったからのぅ。朝の教室まで来てくれ」
「わかりました」
来ない方が悪いということだろう。本人の自己責任というやつだ。
学園長は、今日来ている教師は変わり者の貴族か平民の出の者しかいないからのぅ、と笑っていた。
マリアは部屋に戻ると荷物を準備して教室に向かった。
マリアが教室に着くとアルフォードはすでに来ていた。会釈だけして席についた。
「これで今日来ている1年生は揃ったな? まず始めに自己紹介をして貰う。じゃあそっちの男の方から」
マリアは少し疑問に思った。
「先生は自己紹介をしないんですか?」
マリアが疑問に感じたことをアルフォードが聞いてくれた。
「そうだそうだ、忘れていた。私はパトリオット・リードという。1年間魔術の理論を教える。実践は他に先生がいるからな。ああ、後1年S組の担任もする。⋯⋯クラス分けは他の奴らが来てからになる。何か質問は?」
マリアとアルフォードは黙って首を横に振った。
「無いみたいだな。じゃあ改めて自己紹介を頼む」
パトリオットに促されてアルフォードが立った。
「はい。僕はアルフォード・エルダーといいます。一応師匠はサフィリア様です」
アルフォードは言い終わると堂々と席に座った。
「じゃあ次」
「は、はい!」
少し声が裏返ってしまった。
マリアは深呼吸して自分を落ち着かせた。
アルフォードの視線が自分を励ましているように感じられた。
「私はマリアです。師匠はローザ⋯⋯様です。一応基礎は一通り習っています。よろしくお願いいたします」
マリアはローザの名前を言う時に様を慌てて付けた。
「二人ともよろしくな。⋯⋯多分二人とも聞いた話じゃSクラスになると思うぞ」
最後にサラリとかなり重要なことを言って授業は始まった。
「最初の授業だし、本当の基礎から始めるぞ。魔術にはいくつかの種類があるのは知っているな? アルフォード、言ってみろ」
「火、風、水、木の四つの元素魔術と光、闇、無の三種類、計七種類です」
どうやらパトリオットはある程度生徒に答えさせる形式で授業を進めるようだ。⋯⋯ただ人数が少ないからかもしれないが。
「その通りだ。正確にはまだあるが特殊すぎて使う人がいないから今回は良いだろう。マリア、元素魔術について説明してみろ」
「は、はい。元素魔術は先ほど言っていた通り、火、風、水、木の四種類があり、一般にイメージされる魔術のほとんどがこれにあたります。二つ以上の魔術を組み合わせて複合魔術として使うのが一般的です」
「その通りだ。付け足すこともない。お前本当に十歳児か?」
まるで同年代の人を相手にしているようだとパトリオットは驚いていた。
「マリアが言った通り元素魔術が魔術といってもいい。暫くは元素魔術の単一魔術をやる」
次回以降の連絡をしたところでチャイムが鳴った。この学園、なぜか授業の終わりだけチャイムが鳴るのだ。




