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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第六章 王都への帰路
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 王都を離れてから3か月が経過した。行き先は特に決めていなかったが、スノーウェル男爵領が住みやすいと聞きブルメルの街の片隅でなけなしの貯金をはたいて小さな店を始めた。ローズマリー様にはできるだけ嘘は吐きたくなかった。


「いらっしゃいませ!」


 お客さんは少ないけど着実に増えていた。

 その日は少し仕立てが良い服を着た見るからに貴族のお忍びだとわかる金髪の背が高い男と、肥え太った赤髪の男が来店した。


「⋯⋯貴様がフェジーか?」

「? はい。確かに私の名前はフェジーですがそれがどう⋯⋯きゃっ⁉」


 頷いた瞬間赤髪の男に手を掴みあげられた。


「何をするんですか⁉」

「兎の獣人でフェジーという名、それにマジックアイテム屋、間違いないな」

「ああ、兄さん」


 私の抗議も聞かずに勝手に話が進んでいく。


「放して!」


 振り払おうとしたが無駄だった。そのまま力まかせに店の外に引っ張り出された。

 近所の人たちが何事かとこちらを遠巻きに見ているのが視界に移った。


「放してって言ってるでしょうが⁉ 何の理由があってこんな⋯⋯」

「黙れ」


 それほど大きかったわけでもないのに冷ややかな声が辺りに響き渡った。


「貴様のやったことはわかっている」

「? ⋯⋯やったこと?」


 心当たりがまったくと言って良いほどなかった。いや、確かに王城では色々とあったが⋯⋯。


「元宮廷錬金術師フェジー。貴様には国庫の金を盗んだ嫌疑がかけられている。いや、目撃証言、不自然な時期に辞めたことから嫌疑ではなく事実だな」


 ひそひそ声が全て私の悪口を言っているような気がした。


「っ⁉ 私はそんなことはしてない!」

「黙れと言ったはずだ。証拠はあるんだ。それが真実かどうかは司法官殿が判断されることだ」


 まるで私が罰せられることが決まっているような口ぶりが、その司法官もグルなのだと私に悟らせるには十分だった。


「⋯⋯あいつらか⋯⋯」


 私の頭には先輩たち、いや元先輩たちの顔が浮かんでいた。どうせあいつらが確実に私を殺すために企てたことだろう。横領は重罪。死刑はほぼ確実だ。それぐらい話し始めたばかりの子どもだって知っている。


「サッサと認めればもしかしたら死罪は免れるかもしれないぞ」


 気色が悪い笑いがその言葉が嘘だと雄弁に物語っていた。


「犯したわけでもない罪を認めるわけないじゃない。あなたたち馬鹿なの?」


 だからこそそんな反抗的な言葉が口から出てきた。


「っ⁉ 貴様! 侮辱するのか!?」

「侮辱? 私は事実を言ったまでよ」


 その言葉に金髪の男がどこからか取り出した剣を抜き放ち、切りかかってきた。

 私は思わず目をギュッと瞑った。


キィン


 金属がぶつかり合う特有の高く澄んだ音が響き渡った。想像していた痛みは一切ない。

 恐る恐る目を開けた私の目にまず飛び込んできたのは長いピンク色の髪だった。


「えっ?」


 身の丈ほどもある銀色の杖を持ったその人物は、私がよく知っている人だった。


「⋯⋯何をしているのかしら?」


 尋ねた言葉は冷ややかで、けれどそれでいてどこか温かみがあった。


「小娘には関係がない! そこをどけ!」

「そ、そうだ!」


 男たちはその人物が誰だかわからないようだった。


「⋯⋯小娘?」


 紡がれた言葉は感情が一切感じられなかった。


「関係がない? 笑わせないで、レオン・ベルジュラック、それにアーノルド・ベルジュラック」

「っ⁉ 貴様! 我らを呼び捨てにするとは不敬だぞ!」

「⋯⋯不敬? どの口がそう言うのかしら? 教えてくださる?」


 そう言って彼女は微笑んだ。


「姫様! 我らを置いて勝手に出歩かれては困ります!」


 そこへそんな叫び声と共に走ってきたのは初老の中年男性だった。


「ごめんなさいね、モーリス。でも彼女が、フェジーがピンチだったものだからつい⋯⋯」


 そう、私を助けてくださったのはローズマリー様だった。

 対照的にベルジュラック兄弟はこれでもかというほどに青ざめていた。


「⋯⋯モーリス・クールセル近衛騎士長? それに姫様?まさかローズマリー王女?」

「う、嘘だよね? 兄さん」


 再度ローズマリー様がベルジュラック兄弟に向けた目は冷ややかだった。


「⋯⋯王族である私に刃を向けた挙句に先ほどの暴言。とても見過ごせるものではないわ」

「そ、そんな。ご慈悲を⋯⋯」


 ローズマリー様に近づこうとしたレオンをモーリスさんは鞘に入ったままの剣で薙ぎ払った。そしてそのまま気絶させると、どこからか取り出した縄で縛り始めた。


「⋯⋯ごめんなさいね」


 そんな様子を横目で見ながら、ローズマリー様は頭を下げられた。


「手紙、読んだわ。まさかあんなことになるとは思わなくて⋯⋯。ああ、あなたの横領の疑いはすでに晴れているから安心して。真犯人がわかったから⋯⋯あなたのお陰よ?」


 ローズマリー様はそう言って微笑まれた。


「⋯⋯やっぱり犯人は先輩たちですか?」

「ええ。お陰で宮廷錬金術師は軒並み捕まって工房は閉鎖。このままだと宮廷錬金術師という役職もなくなりそうよ」


 そう言って肩を竦めた。


「⋯⋯ねぇフェジー、あなたが良ければ戻ってこない?あんなことがあった後に訊くのはなんだと思うのだけれど⋯⋯」

「⋯⋯そうですね。私、城勤めは向いていないことはよくわかったので辞めておきます。こっちの方が性にあっているので⋯⋯」

「⋯⋯そう」


 ローズマリー様はそれ以上何も言わなかった。


 それから1月後、ローズマリー様が出奔したという噂が流れた。

 それが真実だということもすぐにわかった。王国騎士が総出でローズマリー様を捜索していたからだ。ちょっと世直ししてくると書かれた書置きが部屋に残されていたらしい。

 それ以来私はローズマリー様とはお会いしていない。


◇◆◇


「「「「「「⋯⋯」」」」」」


 フェジーの話が終わっても誰も何も言わなかった。


「時たま名前を聞くから生きてはいると思うんだけどね。今頃どこで何をされていることやら⋯⋯。このマジックテントに使っている技術の大半はその時王女様から受け取った宮廷錬金術師たちの研究書のものだ。⋯⋯腕は良かったのに馬鹿なことをしたものだよ。つくづくそう感じたよ」


 フェジーは暗い顔で溜息を吐いた。


「⋯⋯フェジーさんが人嫌いなのはそれがあったからですか?」

「⋯⋯そうだねぇ、正確に言えば嫌いなのは自分に都合の悪いことを人に押しつけるような人間は元々好きじゃなかった。だが一部の貴族が嫌いになったのはあの時だよ」


 マリアは今の話を聞いて納得した。それと同時に既視感があった。


(なんか前に似たような話を聞いたことがあったような⋯⋯。誰の話だっけ?)


 マリアは必死で記憶を探った。


(えっと、あれは⋯⋯)


 マリアの頭に残っているその手の思い出の大半は母、エレナのものか師匠であるローザのもの、そして僅かなウーノとルアンの話。


「あっ」


 マリアはほんの小さな声で呟いた。


「どうしたんだ?」


 隣にいたグレンにはその声はしっかり届いていた。


「うん、前に似た話を聞いたことを思い出して⋯⋯」

「似た話?どんな話だ?」


「前にローザに後悔したことはあるのかって訊いたことがあるの。1年ぐらい前かな。なんでそんなことを訊いたのか思い出せないけど」

「ローザってだれ?」

「私の師匠。とは言っても短い間だけだったけどね⋯⋯。あの時ローザは後悔したことは若い頃に1度だけだけどあるって言ってたの。何よりも大切な友人だと思っていたはずなのに、その人を守るつもりでかえって傷つけてしまったって。何があったのかは話してくれなかったけど、今の話を聞いていたらその王女様みたいだなって」


 マリアはそう言ってフェジーを見た。


「⋯⋯そうだね。世の中は思ったよりも狭いのかもしれないね」

「えっ?」

「王女様の愛称はローザだからね」

「えっ、えっ?」

「もしかしたらお前さんの師匠がローズマリー様なのかもしれないよ。⋯⋯住んでる場所を教えてくれるかい?」


 フェジーは微笑むとマリアにローザの住んでいる場所を尋ねた。


「良いですけどローザが住んでいるというか、ローザの店って、場所がわかり辛いですよ? 王都の端なんですけど⋯⋯」

「なぁに、頑張って探すよ」


 マリアはフェジーに簡単な地図を書いてあげた。

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