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「「「「「「いただきます!」」」」」」
森の中に声が響き渡った。
今日のメニューは野菜スープと事前に買っておいたパン、それにアイテムポーチの中に入っていたオーク肉のセトーク(ステーキ)だった。パンはマリアこだわりのふわふわパンだった。
「マリアちゃん、このパン柔らかくておいしいよ」
「エヘヘ、ありがとう。前にパン屋のおじさんに作り方を教わったことがあるの。喜んでもらえて嬉しいよ。大量に作り置きしてあるから好きなだけ食べてね」
「⋯⋯パン屋のおじさんに作り方を教えてもらったって、普通そんなことできないんだけど⋯⋯」
リオナが呆れ顔でマリアを見た。
「うん、そうらしいね。私の場合は前にローザさん関係で色々あってその関係で⋯⋯」
マリアは言葉を濁した。
「いろいろって、私その内容が気になる。それとローザさんってだれ?」
「え~、でも聞いても面白くないと思うよ?あっ、ローザさんは私の魔術の師匠だよ」
「私も聞きたいわ。何があったのか」
「エリザまで~⁉」
マリアは少し考えた後、渋々と言った。
「もう、しょうがないなぁ。大まかなことだけだよ?」
「それでいいから!」
リオナが光の速さで答えた。
マリアがエリザベートの方を見ると無言で頷いた。
さっきまで他の話をしていた男3人も話をやめ、マリアを見ていた。
コホン
マリアは咳払いすると話し始めた。
「私が学園に入学する前、今から半年ぐらい前かな? パン屋のおじさんが仕事中に大火傷を負っちゃって、奥さんがローザさんのところにポーションを買いに来たの」
「ローザさんって、ポーションを売ってるの?」
「正確にはポーションもだね。本業は魔道具屋さんだって前に言ってた気がする。私もポーションを作るお手伝いをしていたから、低級ポーションぐらいだったら材料があれば作れるよ」
「本当に⁉ マリアちゃんすごい!」
リオナが目を丸くした。
「ありがとう。意外と簡単だから今度教えてあげるね」
「うん!」
「話が逸れているわよ」
「あっ、ごめん。話を戻すね。パン屋のおじさんの怪我は酷くて、中級ポーションが何本も必要だったの。リオも大凡の値段ぐらいは知っているでしょ?」
「うん、確か1本で大銀貨1枚はするって聞いたことがある」
「ポーションって高いんだよね。流石に一般家庭のパン屋さんにはその金額が払えるほど貯金がなくて、代案としてローザさんが足りない分のお金は、私にパン作りを仕込めば無しにしてやるって言ったの」
「あ~、だからかぁ。それならあまりいいたくないよね」
リオナは納得の色を浮かべた。
「「「「?」」」」
「言っとくけど大銀貨って、一般家庭の1か月分の生活費だからね?それほどお金に余裕がないの」
マリアは一般常識が無い4人に嘆息しながら説明してやった。
「そういえば話は変わるけど、この森に入って他の人を見た?」
「そういえば⋯⋯」
「見ていないわね」
皆顔を見合わせた。
「さっき作っている時に気になったんだけど、やっぱり見ていないよね。思ったんだけど、私たちがこの前来たときに遭遇したオーガさんたちと何か関係があるのかな?」
「オーガにさん付けはするな。⋯⋯そうだな、かなり大きな群れだったから、生態系に何か変化があったのかもしれないな。群れの縄張り争いとかな」
「⋯⋯オーガが出たと聞いたから、冒険者がこの森に来ることを敬遠したのかもしれないわ。正直言ってこの魔物の数は異常だし⋯⋯」
「冒険者に会わなかったことと魔物の数はそれで説明できるな」
「でもギルドでその手の話は聞かなかったよね?」
「そうだな⋯⋯」
「カウンターのおねぇさん、ずいぶんと親切にしてくれたし、いい忘れはないよね」
6人は顔を見合わせて考え込んだ。いや、1人だけマイペースに食事を続けていた。
「グレンはどう思う?」
マリアは会話に全く参加していないグレンに話を振った。
「僕に訊くな。その手の話はよくわからない」
「⋯⋯そうだったね」
グレンは一言だけ答えると、再び食べ始めた。
「う~ん、考えていてもしょうがないし、明日一度街に戻る?リオのランクも上げたいし、簡単な依頼も受けてこない?」
「⋯⋯そうだな。前半は賛成だが後半は難しいと思うぞ」
「えっ? なんで?」
「よく考えてみろ。この森はCランク以上の魔物しかいないんだぞ。低ランク向けの依頼があると思うか?」
「⋯⋯まずないわね」
エリザベートがマリアの代わりに答えた。
アルフォードは満足気に頷いた。
「昨日依頼を確認した時についでに見たら、Dランク以下は全て街中かヘザー平原になっていたぞ」
「⋯⋯まさか全部確認したの?」
「当然だろ? どこに思わぬ情報が紛れ込んでいるのかわからないからな」
「⋯⋯なんだろう。納得はしたけどマネはしたくない」
「それは同感だわ」
「私も」
「⋯⋯」
居心地の悪い沈黙が訪れた。
「あ~、明日は街に戻るで良いんだな?」
その沈黙を打ち破ったのはグレンだった。全員心の中でグレンにお礼を言った。
「「ああ」」
「ええ」
「「うん」」
返事が揃った。
結局明日はギルドに行って、それからのことはその時に考えることとなった。
◇◆◇
翌日の昼、6人はブルメルの街に戻ってきていた。
街までの移動はスピード重視で、途中で倒した魔物は解体せずアイテムポーチに放り込んである。なぜ最初にこの方法を思いつかなかったんだと、皆首を傾げていた。今まで容量に重量制限があったから、その発想には至らなかったのだろう。
「ど、どうしたんです? 1日で戻ってくるなんて⋯⋯」
ギルドに入ってきた6人を見て受付嬢は困惑の声を出した。
「少し気になることがあってな。ヨルの森に関して何かギルドに情報が入っていないか?」
「⋯⋯ヨルの森⋯⋯ですか? ⋯⋯そういえば最近ヨルの森の依頼達成率が低下していたような⋯⋯」
受付嬢は考え込みながら答えた。
「ですがそれが何に関係するんです? 依頼を受けていったのも、Dランクの冒険者ばかりですし⋯⋯」
受付嬢の目線は胡乱気なものに変わった。
「いや、それが聞けただけで十分だ。悪いがギルドマスターに合わせてもらえるか?」
「⋯⋯用件は何でしょう?」
「ヨルの森について話したいことがあると言ってくれ」
「⋯⋯わかりました。ですが必ずしも会えるとは限りませんからね」
念押しを忘れずにすると、奥に引っ込んでいった。
「⋯⋯大丈夫かしら?」
エリザベートはその後ろ姿を見ながら心配そうに言った。
「大丈夫だろう。あの人なら悪いようにはしない筈だ。ダメだったらダメだったでこちらの裏ワザを使えば良いだけだ」
「裏ワザって?」
マリアが不思議そうにアルフォードを見ると、アルフォードは笑いながら言った。
「よく考えてみろ。ここは何領だ?」
「⋯⋯何領って、スノーウェル男爵領⋯⋯裏ワザってエリザ?」
アルフォードはその答えにニヤリと笑った。
「正解だ。まぁ正確にはエリザベートが持っている紋章付きの指輪だがな」
「⋯⋯紋章付きの指輪って、確か皆が持っている家の家紋付きの指輪だよね。重要な手紙の封をする時とかに使う」
「そうだな。僕は2種類持っているけど」
「確か複製は重罪だっけ?」
「重罪ってことは打ち首とか?」
リオナが平然とした顔で会話に参加してきた。
「ま、まぁそうだな。そこで問題だ。スノーウェル男爵家の紋章が入った手紙を持ってきたらどうなると思う?」
「どうなるって、無視はできないから読むとは思うよ」
「立場的に考えて、スノーウェル男爵家の紋章なら一度は見たことがあるんじゃない?」
思い思いに自分の意見を言う2人だった。
次回は明日の12時です。




