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「やっぱ、武器って言ったらあそこかな?」
店を出たところで、マリアはそう呟いた。
「そうね」
「あそこって?」
「前回行ったところだろ?」
「うん。《フェアリー・ソード》」
前回行った時の感想を話しながら5分ほど歩き、6人は《フェアリー・ソード》に到着した。
「いらっしゃいませ! ⋯⋯3週間ほど前にも来られた方ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「覚えていたのね」
「はい。お客様は命ですし、あそこまで買ってくださる方はそうそうおりませんから」
「⋯⋯それもそうね。今日はこの子の装備を一式見に来たのよ」
「この前はおられなかったお嬢さんですね。⋯⋯ただ体格を考えると、サイズが合うものは限られてしまいますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。条件はこの前と同じでお願い。武器は⋯⋯サイズが合いそうなやつを全部持ってきて」
「かしこまりました。⋯⋯そちらの方はよろしいのでしょうか?」
「ええ。気にしないで頂戴」
「それは失礼しました。少々お待ち下さい」
そう言うと店の奥の方に立ち去り、5分ほどで箱を2つ抱えて戻ってきた。
「お待たせいたしました。まず防具の方なのですが、皆様のものと比べて見劣りがしないものは在庫が1つしかありませんでした」
そう言って申し訳なさそうに、上の箱を開けた。
「まず鎧ですね。こちらはミスリル製で、一部は古龍の革を使用している、皆様と同じものです」
そう言って皆に見せた。
「ローブの方はこの相手のものとまったく同じとはいきませんでした」
申し訳なさそうに取り出されたのは、真っ白なローブだった。首元は紐ではなく、留金で止めるタイプで、銀色の鈍い光を放っていた。裾や袖口はさり気なくフリルになっており、生地全体は離れた場所から見ると、薄っすらとチェック模様が浮かび上がっていた。
「かわい~い!」
リオナは顔を輝かせた。
他の者──正確にはグレン以外──は一目で高級品とわかるその見た目に顔を引きつらせ、これを着て街を歩いたら誘拐されるのではないかと心配した。
「こちらは入荷したばかりでして、フェンリルの毛を染めずにそのまま織った布に、白龍の鱗を間に挟んであります。それにさらに希少な黄龍の毛でよった糸で刺繍することによって、着ている者に常時移動の補助と回復効果があります。防御力は皆様のものよりも若干上ですね」
「「「「「「⋯⋯」」」」」」
予想以上に規格外な性能に、誰も声が出なかった。
「鎧が大金貨25枚、ローブが35枚になりますが、いかがでしょう? ブーツも皆様と同じものを用意してあります」
「お願いするわ」
マリア、アルフォード、アーティスも当然のように頷いており、グレンも平然としていた。リオナだけが口を大きく開けて固まっていた。
「次に武器ですが⋯⋯」
店員はそう言って下の箱を開けた。
「剣や、槍などの長物は身長的にやはりサイズが合わないですし、弓もボウガンなどでないと取り回しが効かないと思います。ですからやはりどうしても短剣などの小型のものになってしまいますね。ただ、ドリアン氏が昔半分遊びで作った品なのですが、こんなものが御座いまして」
そう言って取り出されたのは、子供サイズの白銀色だが、どこからどう見ても死神の鎌──デスサイズだった。柄の部分に、薄紫の蔓薔薇が巻き付いているのが可愛らしく、それがより一層禍々しさを醸し出していた。
「本体はミスリルを使用しております。蔓薔薇はヒヒイロカネとオリハルコンの合金です。それでこれが一番大事なことなのですが、ドリアン氏曰く、この鎌は使用者の成長と共に成長していくと、ごめんなさい。よくわからないですよね?」
「ええ、でもなんとなく言いたいことはわかった気がするわ」
「こちら、通常なら大金貨20枚はするんですが、何分売れ残りの品ですので、大金貨15枚に値引きさせて頂きますね」
「ありがとう」
「いえ、合計で大金貨84枚になります」
「あっ、やっぱりブーツはもう1足欲しいのだけれど、あるかしら?」
「1足でしたら御座いますよ。少々お待ち下さい」
店員は1分もしないうちに戻ってきた。
「こちらですね。それでは合計で大金貨93枚になります」
エリザベートは黙ってギルドカードを出した。
「はい、確かに。ありがとうございました! 武器の手入れもやっておりますので、ご入用の際はお立ち寄り下さい。皆様でしたら割引いたしますよ」
「フフフ、ありがとう。必要な時はそうさせて頂くわ」
エリザベートは朗らかに笑った。
「なぁ、なんで2足もブーツを買ったんだ?」
会計が終わったところでグレンが不思議そうに訊いた。
「あら、あなたの分よ。それとも要らなかったのかしら? いくら防具が要らないとは言っても、靴はすぐ痛むでしょ? 特にあなたの場合は」
そう言って買ったばかりのブーツを片方差し出した。
グレンはそれを嬉しそうに受け取って、いそいそと履き替え始めた。
「ほら、リオも着てみなさい」
リオナも名前を呼ばれてやっと意識が現実に戻ってきた。
「う、うん」
リオナはそれの値段を考えないようにした。
装備一式を付け終わったリオナは、どれもこれも白く、髪の色が淡いことも合わさって、どこか儚気に見えた。そして自分の身長と変わらないデスサイズを持った姿がいやに似合っていた。
「このかまいやに軽いね。これだったら私でも十分振れるよ」
「まぁ、ミスリル製だからな。なんだったら明日の朝、腕試しも兼ねてGランクのランクアップ試験を受けてみるか?」
「うん!」
リオナは瞳を輝かせた。
次回は明日の18時です。




