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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第六章 王都への帰路
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「こんにちは~!」

「アイテムポーチ、できていますか~⁉」


 マリアとアルフォードの声が店内に響いた。


「おや、誰かと思ったらお前たちかい。アイテムポーチならできてるよ。今持ってくるから待っていな」


 そう言ってフェジーは奥に引っ込むと、すぐに小ぶりな箱を持って戻ってきた。


「これが頼まれていたアイテムポーチだよ。そこの2人の分も作るのかい?」

「話が早くて助かります。お金はあるのでお願いします」

「完成は1週間後だよ。これらとデザインは共通にするのかい?」

「はい。細かいところは本人の希望を聞いてください」

「わかったよ。2人ともこっちに来な」


 リオナとグレンはフェジーに引き擦られていった。


「⋯⋯じゃあ私たちはできたやつの確認と、中身の入れ替えをしましょうか?」

「そうだね」

「ああ」

「⋯⋯ああ」


 エリザベートが何事もなかったかのように言った。アーティスはそれがどこか釈然としないようだった。


「⋯⋯今思えば全くの偶然だけど、こんなに私たちにピッタリなモチーフってないよね?」

「そうね」


 箱から出されたアイテムポーチには全て蔓薔薇に囲まれた龍が刺繍されていた。アイテムポーチ自体の色は汚れが目立たないという理由で漆黒になっていた。


「え~と、青薔薇に銀色の龍が私で、赤薔薇に銀色の龍がエリザだったよね?」

「そうよ。緑の薔薇に茶色の龍がアルで、青薔薇に金色の龍がアーティスね」


 いちいち名前が呼ぶには長すぎるという理由で、エイセルの屋敷に滞在していたのを機に、エリザベートもアルフォードをアルと呼ぶようになっていた。

 ちなみにこの刺繍、それぞれの瞳の色が薔薇の色で、龍の色が髪の色になっており、パッと見てわかりやすくなっている。

 葉と蔓の色が萌葱色、アルフォードの薔薇の花の色が鶸萌黄となっており、色が被ることを避けつつ、落ち着いた色合いになっている。また、マリアとエリザベートの銀色の龍も、正確にはマリアが卯の花色、エリザベートが桜色となっており、若干色味が違う。また、バラの色もマリアが鮮やかな夏の空のような青、アーティスが淡い水色となっている。アルフォードの茶色の龍も胡桃色で、見辛いということもない。

 また、それ以外の縫い合わせている糸も、龍か薔薇の色と同系色の色になっている辺りに、並みならぬこだわりが見える。


「機能性を考えたら、形なんてほとんどパターンなんてないけど、糸の色って多いからね」

「選ぶだけで大変よね」

「リオなんか紫系の色ばっかりだから選ぶの大変じゃないかな?」

「グレンは縫い糸を選ぶのが大変そうね」

「気長に待つか」


 その後、グレンが10分ほどで決めたが、縫い糸が派手すぎるとエリザベートに却下されたり、リオナが同系色ばかりのため、選ぶのに苦労したりしたため、店を出るのはお昼を回る頃になっていた。

 支払いを済ませると、1週間後にまた来ることを約束して店を出た。


「もうお昼だけど、どこで食べる?」

「この前来た時は食事は宿で済ませていたからな」

「私、美味しければ何でも良いわ皆に任せる」

「僕も特にこだわりはないかな」

「料理自体をほとんど知らないから訊かれても困るあえて言うならまだ食べたことがないやつが良い」

「私は、あまりコッテリしていなければ別に何でもいいよ」

「となると何だ?」

「う~ん、コッテリじゃなくて、適度にお腹に溜まって、グレンがまだ食べていないもの⋯⋯何がある? ニボは季節外れだから置いてないだろうし⋯⋯」


 頭を悩ませながら商業区の飲食店が並ぶ区画にやって来た。


「プジって何?」


 リオナが看板の一つに目を止めて尋ねた。


「パンの上に色んな具が乗った料理だよ。ただ、ものによってはコッテリしてるかな。プッティと呼ぶこともあるね」

「へぇ~、グレンは食べたことあるの?」

「ないぞ」

「じゃあ私、プジが食べたい!」


 リオナが目を輝かせながらそう主張した。


「私は別に良いよ。皆は?」

「私も良いわ」

「別に良いぞ」

「僕もだ」

「プジかぁ。楽しみだな!」


 1名気の早いのがいたが、反対意見は出なかった。


「じゃあ遅くなると混んじゃうし、とりあえず入りましょう」


 意見が纏まったところで6人は『プジの専門店《白雪食堂》』と書かれた店に入っていった。


「いらっしゃいませ! 6名様ですね?」

「ああ」

「一番奥のテーブルが6人掛けのテーブルになっております。テーブルの上にメニューが置いてありますので、注文が決まりましたらお声をおかけください」


 言われたテーブルにつくと、早速メニューを広げた。


「へぇ~、いがいと種類があるんだね」

「そうね。⋯⋯私はこの季節野菜のプジにしようかしら」

「晩春野菜のプジと初夏野菜のプジのの種類があるってかかれているけど、どっちにするの?よかったら私と半分こしない?」

「それは良いわね」


 エリザベートとリオナが季節野菜のプジに決定した隣では、マリアがメニューと睨めっこしていた。


「う~ん、シンプルにタミタとアヌアン、パトパのプジにするか、この変わり種のルンガのプジにするか⋯⋯迷うなぁ~」


 結局10分以上悩み、その頃には他の皆が決め終わっていた。


「決めた! ここはスタンダードにタミタとアヌアン、パトパのプジにする!」

「やっと決めたか」

「もう、私おなかすいたよ」

「ご、ごめん」


 ちなみに決めた理由が近くの席に座っていた女性がルンガのプジを口に運んで微妙な顔をしていたからだったりするが、マリアが何も言わなかったことと、他の者が気がつかなかったため、この理由が明らかになるようなことはなかった。


「お待たせいたしました」


 注文をしてから約10分後、プジが運ばれてきた。


「『お肉たっぷり、オーク肉のプジ』のお客様」

「グレンだね」

「熱いのでお気をつけください。『お魚尽くし、季節の魚のプジ』のお客様」

「あっ、僕です」


 アーティスが手を上げた。


「『日替わりプジ』のお客様」

「ああ、僕だ」

「本日の日替わりはカーンとアヌアン、オーク肉となっております」


 他の3人の分も運ばれてきたところで早速食べ始めた。


「美味し~い」

「生地がもちもちしていて噛みごたえがあるわね」

「私はこのタミタソースが気に入ったなぁ」

「アーティス、一切れくれ」

「あっ! 人のを勝手に食べるんじゃない!」

「そうだぞ、グレン。アーティスに謝れ」

「⋯⋯ごめんなさい」


 粗方食べ終わったところで、明日からの予定を話し合うことになった。


「今日はこの街に滞在して、ヨルの森は明日からで良いか?」

「勿論よ。それにリオの装備も用意しなきゃいけないしね。流石にこの格好のままじゃ連れていけないでしょ?」

「それもそうだね。じゃあヨルの森は明日の朝から?」

「そうなるな」

「ヨルの森って、Cランク以上の魔物がゴロゴロいるんでしょ? そんなところに行ってだいじょうぶなの?みんなだってEランクなんでしょ?」


 リオナは1人だけ不安そうだった。


「大丈夫よ。私たち、これでも登録したその日にGランクに上がってるし、その時に全員試験官を倒しているのよ」


 エリザベートが安心させるように言った。


「えっ? 試験官ってBランク以上の冒険者さんなんだよね?」

「ちょっとエリザ。私は倒してないよ」

「えっ?」

「あら、そうだっけ?」

「そうだよ。私は重傷を負うところだったところを咄嗟に助けただけ」

「⋯⋯」

「その話はその辺に⋯⋯」


 リオナは唖然とし、アーティスは居心地が悪そうにしていた。


「そう言えばそうだったわね。確かあの時は⋯⋯」

「だからもうその話は掘り起こさないでくれ!」

「⋯⋯」


 リオナはアーティスのその言葉で、朧気ながら何があったのかを悟った。


「その辺にしておいてやれ、リオナが可哀そうなものを見る目でアーティスを見ているぞ」


 アルフォードが仲裁に入り、この話は終わった。


「は~い。⋯⋯リオ、安心はできたでしょ?」

「ま、まぁ、別の意味でちょっと⋯⋯不安になったことはあるけど⋯⋯安心したと言えばしたかな?」


 リオナは歯切れが悪く答えながら、横目で落ち込んでいるアーティスを見た。


「どこからどう見ても5歳児に哀れな目で見られるなんて⋯⋯」


 いつもなら5歳児と言われれば怒るリオナも、今はそっとしておこうと心に決めた。

次回は明日の18時です。

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