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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第六章 王都への帰路
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「きゃ~! 完全にこのことを忘れてた~!」


 遥か上空でエリザベートの叫び声が響いていた。

 他の者たちはもうその叫び声を無視していた。


「グレン、後どれぐらいで着きそうだ?」

《ん~、30分ってところかな?》

「了解だ。街から徒歩で1時間ぐらいの所に降りてくれ」

《わかった》

「じゃあ着くまでの間にこれからの予定を決めるか」

「そうだね。でもグレンに乗って移動するのはブルメルまでが限界だよね。街も多いし」

「そうだな。それで相談なんだが、あまり早く帰っても怪しまれるし、ヨルの森辺りでしばらく時間を潰さないか?」

「良いと思うよ。あのマジックテントを買うためにもお金は欲しかったし」

「そのためにはやっぱり一度フェジーさんのところによる必要があるね」

「この前は容量がギリギリだったもんね。リオはずっと黙ってるけどどう思う?」

「どう思うって、話が半分理解できない。ヨルの森って何? マジックテントっていくらぐらいするの? フェジーさんってだれ?」

「あ~、説明していなかったね。ヨルの森っていうのは狼系の魔物が一杯いるスノーウェル男爵領の森。推奨ランクC以上だね。Bランクも普通に出るし。エイセルからは馬車で10日ぐらいだね。マジックテントは普通大金貨10枚もあれば十分買えるけど、私たちが買おうと思っているのは白金貨5枚のやつ。でも2、3日ヨルの森で魔物を狩れば十分稼げる筈だよ。フェジーさんっていうのはブルメルのマジックアイテム屋さんで、アイテムポーチを頼んでいたの」

「⋯⋯とりあえず理解はしたけど、単位がおかしくない? 金貨とか大金貨とかじゃなくて白金貨なの? 私の聞きまちがいじゃないよね?それに2、3日で稼げるって、絶対おかしいでしょ」

「え~、でもこの間通った時はその時の分だけで白金貨15枚以上行ったよ。ねぇ?」


 マリアは2人に同意を求めた。


「ああ。あの時は驚いたな」

「朝起きたら魔物の山ができていたもんな」

「Aランクも混じっていたしな」

「良い稼ぎにはなったよな」


 2人は溜息交じりに同意した。


「⋯⋯どんな状況よ、それ」


 会話を聞いただけではリオナにはなぜ朝起きたら魔物の山ができているのかが想像もつかなかった。


「えっ? そのままの意味だよ」


 困惑しているリオナとそれどころではないエリザベートを置いて、本日の予定は3人の手で決定された。


 それから約1時間後、6人はブルメルの街の門に辿り着いていた。


「馬車で10日のきょりが2時間って、絶対におかしい」


 リオナは本日何度目かわからない溜息を吐いていた。


「冒険者だな? ギルドカードを見せてもらえるか?」


 衛兵に言われ、6人はギルドカードを取り出した。


「Hランクが1人にEランクが5人だな? 嬢ちゃんその歳でEランクになるなんて凄いな」

「えへへ、ありがとう」


 ギルドカードを返してもらうと、その足で冒険者ギルドに向かった。


「一応依頼は確認しておきたいもんね」


 6人がギルドに足を踏み入れると騒めきが起こった。


『おい、あいつら噂の奴らじゃねぇか?』

『聞いていた人数と違うけど、間違いないわよ』

『なんであんな子どもがここに来るんだ?来るところを完全に間違えているだろ』

『お前知らねぇのか? あの小さな銀髪の子だよ。例のオーガキングを持ち込んだ奴』

『嘘だろ? 都市伝説の類じゃねぇのかよ!』

『俺、あれは眉唾物の噂だと思ってた⋯⋯』


「ほ、本日はどのような御用でしょう?」


 慌てたように受付嬢の1人が飛んできた。


「あ~、気にしないでくれ。今回はただ依頼を見に来ただけで、素材の持ち込みはない。依頼も気に入ったものがなければ受けない」

「そ、そうですか⋯⋯」


 受付嬢は予想が外れたようで、すごすごとカウンターに戻っていった。


「オーガキングって確かAランクじゃなかった?」


 リオナが周りから聞こえてくる噂話に、呆気にとられた様子でマリアに訊いた。


「そうだよ。他の魔物と違ってAランクだけあって強敵だったね」

「⋯⋯えっと、みんなで倒したんだよね?」


 リオナは救いを求めるような眼差しでマリアを見た。


「違うよ。私一人でだよ。皆はオーガさんたちの相手をしていたし、その頃はまだグレンもいなかったしね」

「⋯⋯今聞いたことは幻聴だと思いたい」


 リオナは頭を押さえた。


「でも皆これぐらいはできるよ?」

「Eランクじゃなかったっけ?」

「そうだよ~」

「普通Eランクの冒険者はオーガキングだけじゃなくて、普通のオーガも倒せないんだけど⋯⋯」


 リオナは自分の常識では計り知れないものがあることを学んだのだった。


 特にめぼしい依頼もなく、6人はギルドを出てマジックアイテム屋《白兎》に向かった。


「楽しみだね、新しいアイテムポーチ」

「最短で半月と言っていたから、もうできているだろうな」


 マリアとアルフォードは楽し気だった。


「⋯⋯さんこうまでに効くけど、今持っているのって何級なの?」


 リオナが恐る恐る訊いた。


「5級だよ」


 その返事を聞いてリオナはホッとした。


「じゃあこれから受け取りに行くのって4級?それとも3級?」

「えっ? 1級だよ。この前行った時は在庫がないって言われたんだよね~」

「その代わりデザインに自由がきいたけどね」

「⋯⋯」


 リオナは自分の聞き間違いだと思いたかった。だが、今までの話からして、聞き間違いではないことは薄々察していた。所詮ただの現実逃避だった。


「あっ、そうだ。グレンとリオの分も作らなくちゃね」

「そうだな。テントと合わせて10枚強ってところか?」

「そうね。アイテムポーチの分だけだったら頑張れば一日で稼げるでしょうし、2つだったら1週間あればできるんじゃないかしら?」


 リオナはエリザベートとアルフォードが言っていることが嘘だと思いたかった。何が10枚だとハッキリと言ってはいないが、マジックテントだけで白金貨5枚だったのだから、白金貨で10枚だということは明白だった。


「ねぇ、今いくら持ってる? 足りるんだったらついでに注文しちゃおう」

「そうだな。⋯⋯大金貨で234枚だ」

「私は127枚」

「僕は243枚」

「私が持ってるのが232枚だよ」

「僕は147枚だよ」


 マリアの提案で所持金を確認すると、白金貨9枚以上あった。


「マジックテントまでは変えないが、2人分のアイテムポーチは十分買えるな」

「マジックテントも後200枚ってところね」


 エイセルの街にいた間、手分けして受けられる依頼を全部受けて個別で荒稼ぎしていた5人だった。エイセルのギルド職員はあまりの素材の多さに1週間の間恐ろしく忙しかったことは言うまでもない。

 エイセルの街を1週間程で出たのも、受けられる依頼がなくなったからだった。ランクアップ試験を受けようという案も出たが、目立つのはできるだけ避けたいと、王都のギルドで受けることにしていた。それだけの金額を短期間で稼いでいるのだから、既に手遅れなぐらい目立っているが、ここ最近大金を受け取ることが多く、金銭感覚が麻痺しているのか、そのことには気がついていない。


「⋯⋯絶対に単位がおかしい」


 リオナは諦めを覚えた。

次回は13日の12時です。

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