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リオナを含め、3人も執務室までついてきた。
(グレンがいませんように)
エリザベートは祈りながらドアをノックした。
「どうぞ」
中からレインの声が返ってきた。
ドアを開けるとそこにはエリザベートの願いに反して、グレン、マリア、アルフォード、レイン、そしてアーティスの5人がいた。
(なんで全員揃っているのよ!)
エリザベートは叫び出したい気持ちを必死で抑えた。
「意外に早く戻ってきましたね」
「⋯⋯色々あったのよ」
レインに返答するその声には、疲れが滲み出ていた。
「そちらの方々はその色々に関係する方ですか?」
「ええ」
「おや、その子は最近うちに来た子ではありませんか?」
レインがエリザベートの足元にいたリオナに気がついた。
「リオナです」
リオナは緊張でガチガチだった。
「フフ、そんなにかしこまらなくて良いですよ。もっと気楽にして下さい。あの子たちみたいにね」
レインが指したところではマリアとグレンがソファーに座ってお菓子をのんびりと食べていた。
「いや、あれは寛ぎすぎだろ⋯⋯?」
アーティスが突っ込んだが、誰も聞いていなかった。
「あなたも一緒に食べてきなさい」
「いいの⁉」
リオナが瞳を輝かせて2人の方に駆けていった。
「それでは結果を聞きましょうか」
「はい。結論から言えば性犯罪者は街から全て駆逐できた筈です。ただ⋯⋯」
エリザベートはそこで後ろの2人をチラリと見た。
「ただ、それを行ったのは私ではなく、リースさんとリアリスさんのお二人です」
「⋯⋯そうですか。ありがとうございます。これで窃盗事件の方に人が回せます」
レインは何か言いたそうにしていた。
「結局のところ、何の成果も報告すらできなかったのは僕だけか⋯⋯」
「アーティスは他のことで役に立っただろ。そう悲観するな」
「⋯⋯何があったのか後で教えてもらえる?」
「ああ。アーティスのやつは色々面白いぞ」
「楽しみにしておくわ」
ずっと張り詰めた空気を纏っていたエリザベートもようやく笑顔になった。
リースは笑顔で喋っているマリアたち3人を見て微笑んでいた。
「リオナもちょっと大人びたところがあるけど、こうして見ると歳相応の子どもにしか見えないわね」
「本当に⋯⋯」
アーティスはその言葉を聞いて内心で苦笑いしていた。
(それを言ったらマリアとグレンもそうなんだけどね⋯⋯)
結局エリザベートが心配していたようなグレンの正体が露見するようなことはなかった。
レインはリースたちを噂で聞いていたようで、今度機会があったら指名依頼を出すと約束した。
◇◆◇
1週間後、マリアたちはエイセルの街を出るため、門に向かって歩いていた。
「まって!」
あと少しで街の入口というところで、5人は呼び止められた。
「どうしたの?」
振り返るとそこにはリオナとリース、リアリスの3人がいた。
「あ、あの⋯⋯私、魔術学園に行きたいの。連れていってください!」
リオナはそう言うと勢いよく頭を下げた。
「リースさんたちとも話したんだけど、行ってむだにはならないと思うし。そりゃあ貴族ばっかのところはちょっとこわいけど、それでもエリザお姉ちゃんのような人もいるってわかったし」
若干舌足らずな声で必死に理由を捲し立てた。
「護衛が必要なら私たちも王都までなら一緒に行くわ」
リースもそう言い添えた。
「リオが自分で考えた結果ならそんなに必死にならなくても歓迎するわ」
エリザベートはクスリと笑った。
「護衛は⋯⋯ありがたいけど必要ないわ」
「えっ? でもあなたたちはそこまで強くないでしょう?」
「あら、言ってなかったかしら? 私たちこれでもEランクパーティーなのよ。それも登録してから2月も経っていないね。Dランクへのランクアップ試験の話も来ているしね」
「でもここまでパーティーで来るのと人1人を護衛しながら移動するのとでは勝手が違うでしょう?」
「それこそ心配いらないわ。私たちは王都からこの街までの護衛依頼を受けてこの街に来たんだもの」
「⋯⋯」
リースはもうそれ以上何も言えないようだった。
「他に言うことがないのだったら、遅くなってしまうし、早く街を出たいのだけれど⋯⋯」
「あっ、ごめんなさいね。近いうち私たちも一度王都に行こうと思うから、その時にまた会いましょう」
「⋯⋯ええ。⋯⋯リオナは荷物は準備できているのよね?」
「うん。着替えとかは全部この中に入ってる」
そう言って背負っているリュックを見せた。
「重いだろうし、荷物は私が預かるわ」
そう言ってエリザベートはリオナから荷物を貰うとアイテムポーチの中に入れた。
「それじゃあ行きましょうか」
リースたちと別れると、今度こそ6人は街の外に出た。そしてそのまま街道を外れ、見通しの悪い森の中に入っていった。
「えっ? なんで森に入るの?」
リオナは理由がわからず、不思議そうな顔をした。
「これから見ることは内緒にしてね」
エリザベートはそれには答えず、グレンに向き直った。
「これだけ街から離れれば大丈夫だと思うわ」
「わかった」
森に入った理由。それは長い道のりを大幅に短縮するためだった。
グレンは短く返答すると、瞬時に龍形態に戻った。
「とりあえずブルメルに向かいましょうか? 頼んでいたアイテムポーチを受け取らなくちゃね。ヘザー平原に降りれば大丈夫でしょうしね」
そう言ってエリザベートはニッコリと微笑んだ。
この時エリザベートは完全に飛ぶ時のことを忘れていた。
次回は10日の12時です。




