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リオナを3人がかりで止めて話を聞いた。男たちの方はその間にエリザベートが最低限の治療をした。
「事情はわかったわ」
話を聞き終わると、リースはそう言った。
「でもね、どんな理由があっても相手を傷つければそれはあいつらと一緒よ。最悪暴行罪で牢屋送りになることもある。それだけは覚えておきなさい」
「⋯⋯はい」
リオナは俯いた。
「⋯⋯それで気になったんだけど、あなたは10歳なのよね? 私には5歳ぐらいに見えるんだけど⋯⋯」
リースは言い辛そうに尋ねた。
「うん」
「あなたのお母さんも見た目が若いのよね?」
「うん。確か27っていってた。見た目はリースさんと同じくらいだけど」
「私と同じって、10代半ばってこと?」
「うん」
リースはそれを聞くと何か考え込んだ。
「実年齢の半分くらいってことよね? いや、でも母親はもっと歳が上の可能性も⋯⋯」
ブツブツと呟くリースを、リオナは不思議そうに見ていた。
「前に私みたいな人がいた可能性も⋯⋯零じゃないか。ねぇ、お母さんってこの街の出身なの?」
「ちがうよ。私が生まれる2、3年前に来たんだって言ってた。それがどうしたの?」
「親族に会ったことはある?」
リースは質問には答えず、質問を重ねた。
「ないよ。お父さんのご両親はお父さんが私ぐらいの頃に死んじゃったって言ってた。お母さんの方は⋯⋯そういえば聞いたことないな」
リオナは不思議そうに首を捻った。
「これは私の推測なんだけど、あなた、もしかしたら薄くだけど私みたいな長命主の血が流れているのかもしれないわ。ただ、それが何かはわからないけど」
「? エルフの他に長命種っているの?」
「あまり知られていないけど、龍とかね」
「えっ? でも龍って体の大きさがちがいすぎない?」
「あら、龍の中には人型になれる者もいるのよ。まぁ、好んでなるのは少ないけどね」
「へぇ~」
2人の話を聞きながら、エリザベートは冷や汗をかいていた。
(不味いわ。リースさんにグレンを会わすのは危険すぎる。でもこのままじゃ代官屋敷までついて来るって言いそう。どうすれば⋯⋯)
「私の予想が正しければリオナは人よりも時間がかかるけど、ちゃんと人並みに成長する筈よ。ただ、人よりも寿命も長い筈だから長い間この街にいない方が良いかもしれないわ。私みたいな長命種だって、見た目でわかれば良いけど、最悪化け物扱いをされるかもしれない。人は、自分と異なっている者を排斥しようとするから」
「そんな⋯⋯」
「別にいじめてるわけじゃないのよ。ただその可能性があるってだけで。それで提案なんだけど、あなた冒険者登録しているのよね?」
「うん」
「私たちのパーティーに入らない? あなた魔術に興味を持っていたみたいだけど、良かったら教えるわよ? 勿論しばらく考えてもらって構わないわ」
リオナは目をせわしなく動かした。
「あの、私、この街はお母さんが元に戻るまでは出ていたくないの。それに私は戦闘なんてできないし。でももしそれでお母さんを治せるなら、魔術は習いたい。無茶を言っているのはわかるけど⋯⋯」
「⋯⋯私は回復系は使えないのよ」
リースは申し訳なさそうに言った。
「エリザベートは教えられる?」
リオナはその時になって初めて男たちの傷の大半が塞がっていることに気がついた。
「えっ? なんで⋯⋯?」
「う~ん、私、教えるのは苦手なのよね。それに適性があるとは限らないし。王都まで来られるんだったら魔術学園に通うっていう手段はあるけど、お勧めはしないわ」
「それはなんでかしら?」
「学園の中では身分は関係がないってことになっているけど、それは建前だけ。入ったら馬鹿貴族どもにいじめられることは目に見えているもの。現にマリアが平民ってだけで馬鹿にされるのを近くで見てきたもの」
エリザベートは苦々しく言った。
「エリザお姉ちゃんは貴族なの?」
「⋯⋯男爵家の三女だけどね」
エリザベートは苦笑いした。
「私の持っている力なんて、その辺の豪商よりも弱いわ」
「そうなの?」
「人望はそれなりにあるけどね」
「へぇ~」
「驚かないのね?」
「だって、エリザお姉ちゃんって、ちょっとその辺の人とはちがう気がするもん」
この話は一時保留となった。
「とりあえず、リオナを送りましょうか?エリザベートもそこに泊まっているのよね?」
「ええ」
エリザベートの願いも虚しく、リースとリアリスも代官屋敷までついてくることになった。
(どうかグレンに会いませんように。会っても正体に気がつきませんように)
エリザベートは祈りながら屋敷までの道を重い足取りで歩いた。
途中詰所に寄って、男たちを引き渡した後、30分ほどで屋敷に到着した。
「どういうメンバーだ? うちで預かっている子にレイン様の客人。それにエルフって」
「⋯⋯色々あったのよ」
リースとリアリスは剣を預けるように言われたが、身体検査の類はなく中に入れた。
「警備がこんな笊で良いのかしらね?」
首を傾げているのはリースだけだった。
次回は明日の18時です。




