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「悪者退治ってどこに行くの?」
そう上手くは行かないだろうけど、決まっていないなら後は簡単だ。
「う~ん、わかんないわ。だから悪者の方から登場してもらおうと思ってるわ」
つまり具体的な場所は決まっていないってことか。
「え~、それってめんどくさくない? 私、悪い人たちがい~~~~っぱいいるとこ知ってるよ?」
試しにそう言ってみればエリザお姉ちゃんは目を輝かせた。
「本当? そこに案内してくれるかしら?」
「うん! こっちだよ」
あっさり上手く行ったことを喜びながら、目当ての酒場《龍の息吹》にエリザお姉ちゃんの手を引いて向かった。
途中でまだ着かないのかと言われて慌てたけど、後ちょっとで着くとこだったからなんとかなった。
実際に見る《龍の息吹》は噂以上にボロボロだった。
中に入るとまだ少し時間が早いせいか、目的の人物らしき人たちはいなかった。追い出されては元も子もないので、大人しくエリザお姉ちゃんが頼んでくれたルンガのジュースを飲んで待っていることにした。
少ししてドアが開いてやつらかと思ったけど、いたのはお姉さんたち2人だった。がっかりはしたけどそれ以上に気になったのは金色の髪のお姉さんの耳がとんがっていたこと。
「わぁ~、エルフさんだ」
物語の中でしか知らない、ある意味憧れの種族のエルフを見て、私は本来の目的を忘れて見入ってしまった。
「あら、エルフを見るのは初めて?」
「うん。おねぇさん綺麗だね」
素直にそう言うことができた。
「ウフフ、ありがとう」
はにかんで笑う姿も可憐だった。私は目を合わせられなくって、目線を下げた時にお姉さんが腰に剣を帯びていることに気がついた。この街の兵士さんにエルフがいるなんて話は聞いたことがない。ということは⋯⋯。
「おねぇさんたちは冒険者なの?」
「そうよ」
正解だったみたいだ。
「私が魔術師でリアリスが剣士なの」
リアリスっていうのはもう一人のお姉さんかな?
「魔術師っ⁉すご~い」
記憶が正しければ魔術師ってすごく少なかったはず。
「ああ、リースの魔術は本当に凄いぞ」
リアリスさんの言葉で魔術に興味がわいた。
「私見てみたい。ダメ?」
リースさんを見上げると、リースさんは困ったように笑った。
「う~ん、でもここでは大したことはできないわよ?」
「それでも良いから!」
これを逃すともう二度と見る機会なんてない。最近じゃわがままなんて言ったことはないけど、これだけは譲れなかった。
リースさんは熊の獣人さんに魔術をここで使って良いか許可を取ってくれた。
「『水の精霊よ、あなたの踊りを見せて頂戴、《水の舞》』」
水でできた人形が空中に4つできて、2組になって踊り始めた。どの人形も皆同じデザインの服で、ふわりとしたスカートのワンピースを着ていた。
そのスカートがクルクルと回る度に膨らんで、微妙に雫にになって舞った水とスカートが光を反射してキラキラ光って、幻想的だった。
「キレ~い」
思わずそんな声が出た。
横目でエリザお姉ちゃんを見ると、エリザお姉ちゃんもその光景に目を奪われているみたいだった。でもエリザお姉ちゃんはハッとすると煽るようにエールを飲み始めた。
「お代わりをお願い」
中身がなくなると次から次へとお代わりを頼んでいた。おかわりが5杯目を超えた辺りで私はエリザお姉ちゃんの体調が心配になってきた。
「もう止めた方がいいよ。もうだいぶ酔っぱらってるでしょ?」
「しょんにゃことにゃいわよ~」
完璧に呂律が回っていなかった。そしてそのままそこで寝てしまった。
「はぁ。代金は後でこいつから貰うから203号室に運んで貰えるか?」
熊さんが溜息を吐きながらリアリスさんに頼むと、リアリスさんは頷いてエリザお姉ちゃんを担いで2階に運んでいった。
「嬢ちゃんはどうする? ここで待ってるか?帰るなら家まで送るぞ」
「だいじょうぶ。ここで待ってる」
「部屋で目を覚ますのを待ってても良いぞ?」
「ここの方が面白そうだもん。ここにいる」
せっかく来たんだし、何も収穫なしじゃ帰りたくない。
「⋯⋯そうか。気をつけろよ。中には柄の悪い連中もいるからな」
「わかった」
サービスだと言って焼いてくれたハッタコークを食べていると、冒険者の服装をした5人組が入ってきた。
「おっ、美人がいるじゃねえか」
「よく見りゃぁエルフじゃねぇか。俺、エルフなんて初めて見たぜ」
「1人か? 一緒に呑まねぇか?」
「エルフって寿命が長いんだろ? いくつなんだ?」
「一度でいいからこんな別嬪さんに相手して貰いたいものだぜ」
下心が丸見えなあいつらに、リースさんは毅然としていた。私だったら一人ぐらいは殴ってるかもしれない。
「止めてください。あなたたちと呑むつもりもありませんから」
「なんだと⁉このアマ! こっちが下からお願いしているのによう!」
あいつらのうちの1人がリースさんに掴みかかった。私はリースさんを少しでも傷つけたら、後ろから蹴り飛ばしてやろうと身構えた。
でもそんな心配は無用だった。
「すごい⋯⋯」
リースさんは掴みかかってきた腕を掴むと、そのまま勢いよく振り回した。周りの男たちを薙ぎ払い、あっという間に全員倒してしまった。どこにあんな力があるんだろう?
「リースっ!」
2階から戻ってきたリアリスさんは、床に倒れた男たちを見て悲鳴を上げた。
「大丈夫よ。ちょっと絡まれただけ。まだ残っていたみたいね」
リアリスさんとは対照的にリースさんは落ち着いていた。
「マスター、部屋を貸して貰える? 警備兵が来るまで置いておきたいのよ」
「良いぞ。202号室を使え。代金はいらねぇ」
「ありがとう」
リアリスさんとリースさんは慣れた様子でバックから出した紐で5人を縛っていった。
「え~と、あなたお名前は?」
縛り終わるとリースさんは私を見てそう訊いてきた。
「リオナ」
「そう。リオナ、ここは一人じゃ危ないから上に一緒に行きましょうか?」
その言葉には有無を言わせない力があった。
「⋯⋯うん」
一人一人リアリスさんが運ぶのかと思ったけど、リースさんがニヤリと笑ったかと思うと、何か呪文を唱え始めた。
「『風の精霊よ、運んで頂戴《風の揺り籠》』」
するとどこからか吹いてきた風があいつらを持ち上げ、運んでいった。
「行きましょう」
慌ててリースさんたちの後をついて行くと、3つあるうちの真ん中の部屋に入っていった。
「私はあの子の様子を見てくるわ。後はお願いね」
リースさんが部屋を出ていってすぐに1人が目を覚ました。
「何のつもりだ! 解け!」
何を言っているのかな? 自分たちがリースさんに絡んでいたっていうのに。
「寝言は寝て言え」
「なんだと⁉」
「黙れ」
リアリスさんはそいつの顔のすぐ横に剣を突き刺して黙らせた。
「どうせ前にも色々と悪事を重ねてきたんでしょ? サッサと吐きなさい。さもないと⋯⋯」
そう言って首筋に剣を突きつけた。
「頭と体がさよならすることのなるよ」
「わ、わかった。言う、言うから剣をどけろ!」
「嘘を吐いたらどうなるかはわかっているね?」
リアリスさんは脅しをかけることも忘れなかった。すごいな。私ならあそこまではできないや。
男はペラペラとこれまでやってきたことを語った。盗みから始まって恐喝、強盗。聞いていて気持ちの良いものじゃなかった。それでもその後に言ったことに比べればかわいいものだった。
「恐怖に引きつった顔のあいつらを犯すのは楽しかったぜ。中には泣きながら許しを請うてくるやつもいたな」
楽し気に笑いながら、得意気に強姦したことを語った。それにはリアリスさんも顔を歪めていた。
「⋯⋯それはそこに転がっているやつらもか?」
「ああ。そう言えば3日前のあの女。あいつが今までで一番だったな」
3日前、その数字に手がピクリと動いたのがわかった。
「普段だったら適当なところで終わらせるんだけどよ。ついな、あの時だけは皆で心ゆくまで楽しませてもらったぜ。普段だったらじゃんけんで勝ったやつ一人だけだけどな。綺麗なやつだったぜ。紫の髪でな、食堂で働いてんだ」
私はそれ以上話を聞いていられなかった。3日前、紫色の髪、食堂で働いている、合致することが多すぎる。紫色の髪なんて、他に見たことなんてない。
「あなたたちが⋯⋯あなたたちのせいで⋯⋯」
それ以上は言葉にならなかった。気がつけば私は馬乗りになって男たちを殴っていた。
「あなたたちみたいなやつらがいるからお母さんは!」
止めろと言われて腕を掴まれたけど、そんな気は毛頭もなかった。
「はなして!」
次回は明日の18時です。




