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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第一章 入学と第二王子
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 時は少し戻る。


 マリアと別れたローザは講堂のにいた。


「何をしに来たんだ平民が!」


 いかにも貴族といった感じの男がそう言い捨てた。


「ここは平民の来る場所じゃない、帰れ!」


 見た目は上品そうな女性がそう罵る。

 幼い子供達もローザを睨んでいた。

 そう、ローザは行動の中に一歩も入れずにいた。ここから一歩でも近づくと魔術が雨のように降り注ぐ。

 だからといってローザの中に帰るという選択肢はなかった。


(さて、どうしたものかねぇ)


 攻撃が迫っているにも関わらずローザは動く気配がなかった。


「馬鹿め! 自殺する気か!」


 この言葉のとおり、降り注ぐ魔術のどれが当たっても間違いなく死亡するだろう。

 だが、ローザにはたとえ防御のための魔術であろうと使用した時点でそれを理由に殺されるであろうことがわかった。結局死ぬのが早いか遅いかの違いしかない。

 それでもローザの目からは光が消えていなかった。


 ローザの体に当たる直前、ついにローザが動いた。攻撃を全て必要最小限の動きで紙一重でよけていく。

 地面に当たった攻撃が土埃を巻き上げ、貴族たちからはローザの姿が見えなくなった。


「恥知らずにも平民がここに来るからだ」


 ローザが死んだことを確信したのだろう、貴族の中の一人がそう呟いた。


 土埃が収まってきてローザの姿が見えてきた。


「何!」


 ローザは無傷だった。あえて被害を上げるとすれば土埃で服が少し汚れたことぐらいだろうか。

 そう、ローザは純粋な身体能力だけでよけきってみせたのだ。


「う、嘘だろ」

「人間技じゃねぇ」


 貴族たちの顔が恐怖で真っ青になった。


「な、何らかの魔術を使ったに決まっている! 何をした!」

「何も使っておらんよ。それはあんただったらわかるだろう?」


 ローザが話しかけたのは隅で座り込んで震えている10代後半の貴族の青年だった。

 青年は魔力を見ることができる魔眼の持ち主だった。だからこそローザの言葉が正しいことがわかってしまったのだ。


「あ、あ、ああ」


 そんな青年を周りの貴族たちは冷ややかな侮蔑のこもった眼差しで見下ろした。


「貴族の恥さらしが!」


 この青年はまだ運が良かったといえるだろう。⋯⋯他の貴族たちの末路に比べたら。


「確か王国法じゃたとえ相手がどんな身分であろうと殺されそうになった者はその相手に対して反撃が認められていたね?」


 ローザは微笑みを浮かべた。

 その日学園には貴族たちの悲鳴が響いたとか響かなかったとか。


◇◆◇


「大丈夫だった⁉」


 駆けつけたマリアたちが見たのは気を失った貴族たちとその傍に静かに佇んでいるローザの姿だった。


「やはりこうなってしまったか⋯⋯」


 学園長が天を仰いだ。どこか遠い目をしているのはマリアの気のせいではないだろう。


「私は法に従って制裁を加えただけだよ。何か文句があるのかい?」

「い、いや」


 ローザに凄まれて学園長は早々に白旗を上げた。


「いつもこれだから⋯⋯」


 学園長が何かをボソッと呟いたが、幸か不幸か離れたところにいるローザには聞こえなかったようだ。


 それからが大変だった。貴族たちを騎士団に引き渡さなければならなかったのだ。

 当然のことながら騎士団の上層部の大半は貴族で構成されている。揉み消した上でこちらを捕まえようとした。

 そんな騎士たちに効果を発揮したのがローザが#常に__・__#使用している魔術具の一つだった。

 魔術具は本来、使用するときにだけ魔力を流す。ローザのように常に使用しているとそれが非常にわかり辛くなる。だからこそ貴族たちも気づかなかったのだろう。蓄音の魔術具から再生させると面白いぐらいに真っ青になって騎士たちは壊そうとしたが、学園長が止めた。


「今のは儂も聞いておったから証言しても良いぞ?」


 脅しを入れておくことも忘れない。

 貴族たちは途端に大人しくなり、下級騎士たちに連行されて行った。ちなみにさっき校長室でマリアに意地悪をした副学園長のロゼットもマリアがローザの指示で起動しておいた魔術具で録画されており、一緒に連れて行かれた。あんなのが副学園長とは世も末である。

 どうせすぐに釈放されるだろうがこれで少しは懲りただろう。


「あれ? ってことはもしかしてさっき身体強化系の魔術具を使っていた?」


 唯一直接何もしなかったという理由で連行を免れた貴族の青年がポツリと呟いた。ちなみにさっきローザを怯えていたあの青年だ。


「よくわかったのぅ。その通りじゃ」


 ローザはこうなることを最初から見越して学園に来る前から身体強化の魔術具と畜音の魔術具を使用しており、それから念のために防御のシールドを張る魔術具も発動こそさせていなかったが発動待機状態にしていた。

 つまり、全てはローザの思惑通りだったのだ。

 そうとは知らないマリアは純粋にローザのことを心配していたが、学園長は騙されなかった。


(ローザ、相変わらず恐ろしい奴じゃ)


 学園長はローザの狙いがマリアの安全だということを見抜き、我が身に代えてでもマリアを守り抜くことを心に決めたのだった。


「保護者、入学者の大半が騎士団に捕縛されてしまったが入学式は予定通り行うからのぅ。全員席に座ってくれ。後5分もない」


 その言葉通り残ったのはマリアとローザ、それにあの貴族の青年だけだった。

 全員が席に座るとすぐに入学式は始まった。人がいなさ過ぎてよくわからないが、今年の入学者は20名らしい。あの青年もそのうちの一人だ。

 実はこの学園、入学できるのは10歳からとなっているが、実際は10代後半になってから入学することが多い。

 その理由の一つに、授業の難しさが挙げられる。


 恙なく入学式は終わり、学園長直々に明日以降の連絡を受けると、マリアは女子寮に案内された。

 寂しいがローザともここで暫くお別れだ。

 マリアは寮についての説明を寮母さんから受けた。勿論、寮母さんは平民だ。マリアの寮母さんの印象は優しい人だというものだった。


(仲良くなれそう)


 寮の食堂で出された昼食はアリアが今までで食べたことがないくらい豪勢なものだった。マリアはこれからの食事が楽しみになった。

 本来は昼食は校舎にある食堂で食べるのだそうだが、今日は上級生を含め、主だった者が皆捕まってしまったため寮の食堂での昼食になったらしい。


 午後からは学園の施設の案内をされた。本当は自己紹介や先生の紹介の予定だったそうだが、先生たちも他の貴族とともに捕縛されてしまい、明日以降に延期になったそうだ。道理で所連絡を学園長がするわけだ。


 夕食も昼食と同じように豪勢なものだったが、一人で食べるのはマリアのは辛かった。


 夜、マリアは今日起こったことと明日以降の生活の不安、今日から一人だという事実に中々眠れなかった。それでも疲れていたこともあり、いつの間にか眠りに落ちてしまった。

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