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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第五章 エイセルの街
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54

 ジャンたちに自分たちのことを固く口止めし見送った後、アーティスが再度街に行こうとした時だった。


コンコン


 本日何度目かわからないノックがされた。


「失礼します。犯罪組織『ドラゴン(dragon)トースト(toast)』のメンバーを捕縛しました」

「なんだって!『ドラゴン(dragon)トースト(toast)』と言えば、中々尻尾を出さない奴らじゃないか。よくやった」


 レインは興奮しているのか、口調が崩れていた。


「それが⋯⋯」


 報告した兵士は言い辛そうに言った。


「捕まえたのは我々ではありません」

「それでは誰が?」


 レインは首を傾げた。頭の片隅にはとある人物の顔が浮かんでいたが、まさかという気持ちの方が強かった。


「信じられないとは思いますが、10歳の子どもです」


 レインは予想が的中したことを悟った。

 アルフォードとアーティスの2人は初めから予想がついており、別段驚くようなことはなかった。


「⋯⋯それでその子たちは今どこにいますか?」

「保護した身元不明の子どもたちと一緒に1階の応接室の方に」

「それではその2人をここに連れてきて貰えますか?」

「はい!」


 兵士は返事をするとすぐに部屋から出ていった。


◇◆◇


「あれ?」


 部屋から出たところで兵士は首を傾げた。


「俺、2人って言ったっけ?」


◇◆◇


 5分もしない内に先ほどの兵士の手でマリアとグレンが連れてこられた。


「やはりあなたたちでしたか⋯⋯」


 レインは頭を抑えた。


「? どうかしましたか?」

「いえ、ちょっと頭痛が⋯⋯それよりも何があって今の状況になったのか説明して下さい」

「わかりました」


 マリアは時系列に沿って話し始めた。


「私たちは色んな店──雑貨屋さんとか洋服屋さんとかを回っていたんです。ちょっと人気がない道に入ったら後ろから襲われて袋に入れられました」

「それを見ていた人がいたらしくて、詰所で騒いでいたよ」


 アーティスが補足説明を加えた。


「そうなの? ⋯⋯それで袋から出されたのは小さな窓しかない部屋でした。そこには私たちの他にも子供がいて、少ししたら偉そうな人が来ました。隙を見てその人たちを倒して、残った建物内の人たちも全員気絶させて警備兵のおじさんたちを呼んで来ました。それでその後この屋敷に連れてこられました。⋯⋯ところでなんでアーティスがここにいるの?」


 今になって気がついたのか、マリアは不思議そうな顔をした。


「酷い⋯⋯僕は別件でちょっとね」

「⋯⋯どうやって倒したのか詳しく訊きたいところですが止めておきます」


 レインはどこか遠い目をしていた。


「そう言えば身元がわからない子たちってどうなるんですか?」


 今更とも言える質問に、レインは微笑んで答えた。


「しばらくこの屋敷で面倒を見ながら親を探します。大体1月~2月ですね。それでも見つからない場合は里親を探すことになります。勿論引き取り手がどんな人物か精査した上でです。本人が希望し、職人や冒険者になる場合は職人の場合は弟子入り先が見つかるまで、冒険者の場合はGランクに上がるまでは面倒を見ています」

「孤児院とかはないんですか?」

「他の領にはありますが、ここマイエル領では領主邸及び代官屋敷が孤児院代わりになっています」

「へぇ~」

「ただ⋯⋯」

「ただ?」

「その運営はアル様が私財を使っておりまして⋯⋯」


 レインは酷く言い辛そうだった。


「つまり?」

「アル様の個人的なお金の大半が使われておりまして、アル様自身はその辺の商人の子並みしかお金を持っていません。つい半年程前なんて⋯⋯」


 その場にいた4人は話が長くなることを悟った。アルフォードは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 案の定長くなった話を要約すると次の通りだ。

・アルフォードは度々1人で領内を旅して回る。その際にかかるお金は自分の小遣いから出される。

・半年ほど前、アルフォードはいつものようにのんびりと旅を楽しんでいた。

・その際街道上で親を病気で亡くした子どもに会い、持っていたお金の半分以上渡してしまった。

・その結果、アルフォードは食べ物を買うお金もなくなった。

・アルフォードがエイセルにやって来たのはそれから1週間後だった。屋敷に辿り着いたアルフォードは、門のところで倒れた。レインは心臓が止まるかと思ったと語った。その時の心情が全体の9割以上だった。


「アホじゃないの?」

「バカだろう? 絶対」

「普通そんなことにはならないだろ」


 話を聞き終わった3人の感想は辛辣だった。


「そもそもなんでお金を渡す必要があったのよ?」

「場所が場所でな。ベルジュラック公爵領のすぐ近くだったんだ。そしてあの辺りは街がない。小さな村が点在しているだけだ」

「⋯⋯事情はわかったけど、食うに困るほどお金を渡す必要はなかったでしょ?」

「いや~、見ていて可哀そうで⋯⋯」


 結局はただのお人好しだった。そのことに皆呆れ果て、小一時間ほど怒られることとなった。


◇◆◇


 その頃エリザベートは街のとある宿にいた。


「何⋯⋯これ⋯⋯」


 エリザベートは目の前に広がる光景に眩暈を覚えた。


◇◆◇


 話は2時間程前──丁度マリアが人身売買組織に捕まり、アーティスが警備兵に誘拐犯の疑いをかけられていた頃に遡る。


「ウフフフ、どんな目に合わせてやろうかしらね」


 エリザベートは犯人に会ったらどんな目に合わせようかと、頭の中で画策していた。不気味な何とも言えない笑い声が漏れており、道行く人がエリザベートを避けていくことに、幸か不幸かエリザベートは気付かなかった。


「おねぇさん、そんな笑顔で何かいいことでもあったの?」


 声の方を見れば、5歳前後の少女がいた。だが普通なら今のエリザベートに近づこうと思う者などいない筈だった。そう、普通なら。ましてや幼い子どもなどが声をかけてくるなどということまずあり得なかった。

 エリザベートにとって不幸だったのは、漏れ出ていた笑い声に気が付かなかったこと。周りから遠巻きにされていたことに気が付かなかったことだ。


「ううん、お姉さんはこれから悪者退治に行くの」

「悪者退治っ⁉ 私も行きたい!」


 少女は目をキラキラと輝かせた。


「う~ん、でも危ないのよ?」

「私、ついていっちゃダメなの?」


 エリザベートは危険だと言って諦めさせようとしたが、少女はエリザベートの言葉に目を潤ませた。


「そ、そんなことは言ってないわ」


 エリザベートは慌てた。


「じゃあついていってもいいよね?」


 少女はジッと目をウルウルさせてエリザベートの目を見詰めた。見る人が見ればあざといというような表情だ。


「好きにしなさい。ただし危ない目にあっても知らないわよ」


 折れたのはエリザベートの方だった。


「うん! ありがとう、おねぇちゃん」


 少女は満面の笑みで頷いた。


(か、可愛い⋯⋯)


 その笑みに、エリザベートは少し見とれてしまった。


「あ、あなたの名前は何かしら? 私はエリザベートと言うの」


 エリザベートはハッと我に帰ると、半分誤魔化すように少女に尋ねた。


「私? 私はリオナだよ。リオって呼んで。よろしくね、エリザベートおねぇちゃん」

「エリザベートって言い辛いでしょ。エリザで良いわ」

「わかった!」

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