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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第五章 エイセルの街
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 マリアとグレンは、屋敷の一室を借りて着替えを選んでいた。


「あまり身分が高く見えちゃダメでしょ?だからといって貧相に見えちゃダメだし⋯⋯」


 マリアは呟きながら、服を取り出していった。


「⋯⋯何やってるんだ?」

「服を選んでるんじゃない。見てわからない?」

「それぐらいはわかる! 僕が言ってるのはなんで服を選んでいるのかだ!」

「⋯⋯それなりに裕福に見えた方が攫って貰えられ易いんだよ? だからと言って豪商の子供とかに見えたら攫って貰えないしね」

「なんでだ?」


 グレンは不思議そうにマリアを見た。


「グレンもまだまだだね。そんな相手を攫ったら、捜索隊が出ちゃうかもしれないじゃない」

「あっ」


 ようやくグレンも理解できたようだった。


「あれ? ってことはそれなりに裕福に見えて、貧しく見えちゃいけないのは、健康状態とかそういう問題か?」

「うん。⋯⋯あっ、これが良いかな。さらに言えば冒険者に見えてもダメだよ。子どもでも冒険者ってだけで普通の大人並みの腕を持っていたりするから」


 話しながらマリアは薄い茶色の半袖のワンピースと、白いカーディガンを選び出した。裾には白いレースがさり気なく飾っている。


「わかったらグレンも選んで」

「そんなこと言われても服なんてみんな同じに見える⋯⋯」

「もう、しょうがないな。持ってるの全部出して」


 マリアは溜息を吐くと、グレンの服も選び始めた。


「流石に数が少ないか。う~ん、まぁこれで良いか」


 あまり納得がいかなかったようだが、その辺を歩いている子どもよりは若干質が良いものを選び出した。


「とりあえずそれに着替えて」


 マリアは有無を言わさずグレンに着替え一式を押し付けると、自分の服を着替え始めた。

 グレンもそれを見て慌てて着替え始めた。


「よし、これでOK」


 マリアは満足気に頷くと、出していた他の服をアイテムポーチにしまった。そして仕上げに結んでいた髪をほどくと、ハーフアップに結び直した。


「う~ん、これどうしよう。目立つよね?」


 冒険者の印とも言えるアイテムポーチを前に、マリアは考え込んだ。

 それを横目に見ながら、グレンは自分の服を《アイテムボックス》でしまっていった。


「あっ、その手があったか!」


 その様子を見て、マリアはしばらく使っていなく、忘れていた無属性魔術の存在を思い出した。


「『《アイテムボックス》』」


 マリアがそう呟くと、虚空に黒い空間が現れた。

 マリアはそこに躊躇なくアイテムポーチを放り込んだ。

 黒い空間はアイテムポーチを飲み込むと、小さくなり消えてしまった。


「じゃあ攫われに行きますか」


 そう言ってマリアはこげ茶のポシェットを肩から下げるとニッコリと笑った。


 それからおよそ30分後、マリアとグレンは仲良く街を歩いていた。


「あっ、あの串焼き美味しそう! 私あれ買ってくるけどグレンも食べる?」

「うん! お願い」


 マリアは屋台で売られていた串焼きに目を輝かせ、駆け足で駆けていった。その様子は仲の良い幼馴染同士か、歳の近い姉弟のようだった。

 街の住人たちもその姿を微笑まし気に見ていた。


「おじさん! 串焼き2つ頂戴」

「2つだな? 銅貨4枚だ」

「はい!」


 マリアは肩から下げていたポシェットから硬貨が入った布袋を取り出し、中から銅貨を4枚数えて渡した。


「毎度あり! 熱いから気をつけるんだぞ、嬢ちゃん」

「うん! ありがとう!」


 マリアは満面の笑顔で頷くと、片方を隣のグレンに渡し、早速噛り付いた。


「うわぁ~、美味し~い!」

「ありがとな」


 グレンも無言で口を動かしていた。


「それだけ美味しそうに食べてくれると、こっちも嬉しいよ。特別にお前らに1本ずつサービスしてやる」

「ホント!」


 屋台のおじさんから新たに串焼きを貰うと、2人は再び街を歩き始めた。


「本当にこれ美味しい。タレに何を使ってるんだろ? お肉はオークだと思うんだけど⋯⋯」


 屋台からある程度離れると、マリアは串焼きの分析を始めた。その様子にはさっきまでの可愛らしい子どもの面影はない。


「醤油ベースなのはわかるけど、この絶妙な甘さは味醂? う~ん、わからない」


 その様子を、グレンは覚めた目で見ていた。


「毎回毎回よくやるよな」

「だって、美味しい料理は自分でも作りたいじゃない」


 実はマリアの行動は今回が初めてではなかった。行く先々の街で、気に入った食べ物を見つけると、毎回こうなっていた。流石に料理店や宿の食堂では自重しており、先ほどの屋台などに限ったことだが⋯⋯。

 何はともあれ、2人は本来の目的を半分忘れ、純粋に街を楽しんでいた。


「グレンはどこか行きたいところある?」

「う~ん、特には思いつかないな」

「じゃあ、服屋さんと雑貨屋さんを回って良い?」

「ああ」


 2人は楽し気に次なる目的地を服屋に決め、歩いていった。


◇◆◇


 そんな2人を建物の陰から見ていた2人組がいた。


「次はあいつらにするか」

「金もそれなりに持っていそうだし、見た目も悪くないし、良いんじゃないか?」


 2人は頷きあうと、マリアとグレンの後をつけていった。


◇◆◇


 2人は雑貨屋で金色の蝶々と蒼い薔薇の花を模したバレッタと服屋で何着か新しい服を買うと、段々と人気のない方に歩いていった。

 そして薄暗い路地の横を通り過ぎた時、突如後ろから羽交い絞めにされた。口を抑えられているため、大声を出したくても出せない。

 マリアとグレンは必死に抵抗して見せた。


「怪我をしたくなかったら大人しくしろ!そこの坊主もこの嬢ちゃんに怪我をさせたくなかったら暴れるのを止めろ!」


 それを聞いてマリアは、諦めた振りをした。グレンもそれを見て大人しくなった。

 人攫いたちはまず2人の両手両足を縛ると、薄汚れた麻袋の中に一人ずつ放り込んで口を縛った。


「動いたら殺す。死にたくなければ決して動くんじゃねぇ。良いな?」


 それだけ言うと、袋を担ぎ上げ、何食わぬ顔で歩き出した。


 その一連の様子を見ていた者たちがいた。その者たちは男たちが立ち去ると、慌てたようにどこかに走っていった。


 マリアたちが袋から出されたのは、薄暗い狭い部屋だった。

 男たちは袋から2人を出すと、手足のロープはそのままにして部屋から出ていった。

 マリアは首を巡らして辺りの様子を観察した。窓は上の方に小さい明かり取りのものがあるだけで、到底そこから出れる大きさではなかった。そもそも普通ならそこに手すら届かないだろう。ドアは一か所だけで、外で見張っている者がいるようだ。すぐ隣にはグレンも同じように放置されていた。それだけでなく、他にも10歳前後の子供たちが6人ほどいた。


「あなたたちも捕まっちゃったの?」


 マリアの視線に気がついたのか、マリアよりも1つ2つ上の少女がそう尋ねてきた。


「う~ん、そういうことになるのかな?」


 幸い口は塞がれておらず、話すことだけはできた。その気になれば魔術が使えることに、マリアは内心ホッと息を吐いた。


「なんでそんなに落ち着いているのよ! 私たちこのままじゃ売られちゃうのよ!」


 攫われてきたというのに、妙に落ち着いているマリアに、少女は苛立たし気に叫んだ。


「うるせぇ! 静かにしろ!」


 外から怒鳴られ、少女は体をビクつかせた。


「う~ん、なんて言えば良いと思う? グレン」

「僕に訊くなよ」


 マリアとグレンはそんなことは些細なことのように気にせず、話していた。どこまでもマイペースな2人だった。

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