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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第一章 入学と第二王子
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「荷物はちゃんと全部持ったかい? 忘れ物があっても私は知らないよ」

「うん! 大丈夫だよ!」


 元気に答えたマリアの足元には大きなトランクがあった。


「今日までお世話になりました」


 マリアは丁寧に頭を下げた。


「およし、別にこれが今生の別れっていうわけじゃないだろう」

「でも、今の私がいるのはローザさんのお陰だよ? 私一人だったら絶対にどっかで死んでいたもの」

「それを感謝するならウーノたちにだろう?私のところにお前を連れてきたのはあいつらなんだから⋯⋯」

「それはそうですけど⋯⋯」


 マリアは納得がいかなかった。勿論頭では理解できているのだが、感情がそれに付いていかなかった。


「そんなことよりも時間は大丈夫かい? 遅れたら洒落にならないよ」

「そうだった!」


 マリアは慌てて時間を確認した。マリアが今腕に付けている時計はウーノたち二人からの選別の品だった。当初マリアはこんな高価なものは貰えないと遠慮したのだが、二人に押し切られてしまった。今ではマリアの宝物の一つになっている。


「後30分しかない!」


 ローザの家から学園まで1時間はかかる。完璧に遅刻だ。

 ちなみにローザの家も学園も同じ王都にあるが、学園が王宮の隣、王都の中心にあるのに比べ、ローザの家は王都の端の方にある。それだけで王都の広さが窺い知れるだろう。


「しょうがない子だねぇ。仕方がない、私が送ってやるから手をお出し」


 マリアがローザに手を差し出すと、ローザはその手を握った。


「『転移』」


 ローザが短く唱えるとマリアの視界がグニャリと歪んだ。

 次の瞬間には二人は学園の門の前に立っていた。


「次はないからね」


 口ではこう言っているがまたこのようなことがあればやってくれるのだろう、そんな確信がマリアの中にあった。


「わかってるよ。それよりもここから早くどかないと他の人たちの邪魔だよ」


 正直マリアはじろじろ見られて居居心地が悪かった。


「それもそうだねぇ」


 二人は校舎の方に歩き出した。


「私の教えられることは全て教えた。だから頑張っておくれ」

「えっ?」


 校舎の入口で別れる直前、そんなことを言われ思わず聞き返した。だがローザはただ微笑むだけだった。

 ローザは二言三言マリアに告げると入学式が行われる講堂の方に去って行った。

 マリアはローザの言った意味がすぐにわかることになる。それもいやとなるほど。

 マリアは最後にローザが言ったことを反芻すると校長室に向かった。推薦入学者は入学式の前に学園長に会わなければいけないからだ。


コンコン


「どうぞ~」


 マリアが学園長室のドアをノックすると中から涼やかな女性の声が返ってきた。


(あれ?)


 事前にローザからは学園長は年配のおじいちゃん先生だと聞いていた。


「失礼します」


 不思議に思いながらドアを開けると二人の人がいた。一人は立派な顎鬚を蓄えた老人。おそらく学園長だろう。もう一人は20代前半ぐらいの女性だった。


(誰だろう)


 マリアは訝し気な視線をその女性に向けた。


「あなたが今年の推薦入学者ね。悪いことは言わないから早くお家に帰りなさい。ここはあなたみたいな平民が来て良い場所じゃないのよ。⋯⋯全く誰が推薦したのかしら」


 女性は上から目線でそう言ってきた。最後の一言は小さくってはっきりと聞き取れなかったがそれが悪口だというのはマリアにも理解できた。


「えっ、でも推薦があれば誰でも入れるはずですよ」


 マリアは戸惑いの声を上げた。


「耳が悪いのかしら。私は平民・・が来て良い場所じゃないと言ったの。それにその推薦状が本物かどうかすらも疑わしい」


 マリアの頭がカッと熱くなった。


「ローザさんが偽物なんて書くわけないでしょ!」


 学園長の表情が少し変わった。


「じゃあそれを見せてごらんなさい」


 女性は手を差し出した。

 マリアはこの女性に推薦状を渡して良いものか迷った。


「どうしたの。渡さないってことは偽物ってことかしら」


 マリアは推薦状を女性に叩き付けた。


「これでいいでしょ!」


 女性は推薦状を手にするとにんまりと笑った。


「ええ」


 女性は中を確認するとそれを破ってしまった。


「何をするの!」

「どんな手を使ったのか知らないけれど本物みたいね。でもこうしてしまえば効果はなくなるわ」


 マリアは絶望で真っ青になった。そして1年前にローザが言ったこととさっき言われたことの意味を悟った。


「そこまでじゃ!」


 割って入ったのはずっと黙っていた学園長だった。


「いい加減にせんか、ロゼット!」

「し、しかし⋯⋯」

「儂は黙れという意味で言ったんだ。わからなかったのか?」


 学園長が怒っているのがマリアにもわかった。


「すまなかったのぅ」


 学園長は心からすまなそうに頭を下げた。


「平民ごときにあなた様が頭を下げる必要なんてありません!」

「聞こえなかったのかのぅ。儂は黙れと言ったんじゃ」


 ロゼットはそれで静かになった。


「このロゼットが言ったように推薦状がなければ推薦入学は認められんのじゃ。お主は入学試験を受けておらん。通常の入学も無理じゃ」

「それじゃ、どうすれば⋯⋯」

「手がないこともない」


 マリアの顔が輝いた。


「それは何ですか⁉」

「推薦者を直接連れて来ることじゃ。しかし入学式までもう20分を切った。さっきローザと言ったな? 彼の者は儂も知っておるがここから家までどんなに頑張っても片道1時間は掛かろう。残念じゃが「大丈夫です!」諦めて⋯⋯何!」

「ローザさんも今日来てます!」

「本当か! 今どこにいる!」

「講堂に行ったはずです」

「講堂じゃと!」


 学園長は慌て始めた。


「えっ? 入学式って講堂で行われるんですよね?」

「そうじゃが今日は貴族が何人も来ておる。どんな目にあっているか⋯⋯」


 入学者の親のほとんどが貴族の魔術師だ。マリアと同じく平民であるローザがどんな目にあっているのかは想像に固くない。

 マリアは真っ青になった。

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