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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第五章 エイセルの街
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「うわぁ~、大き~い」


 マリアは感嘆の声を上げた。


「この国で一、二を争う交易都市ですからね。領都は別にありますが、この街は第二の領都とも呼ばれているぐらいです」

「へぇ~」


 交易都市都市と呼ばれるだけあり、門での手続きもすぐに終わった。商人たちとはその場で別れ、5人はアレキスと共に冒険者ギルドに向かった。


「依頼完了の手続きをお願いします」


 王都と同じくらい広いギルドに、マリアは興味深気に周囲を見渡していた。


「わかりました。必要書類はありますか?」

「こちらです」


 そんなことをしている間にも、手続きは進んでいく。


「⋯⋯確かに。こちらにサインと、こちらの水晶に手を当てて頂けますか?」


 アレキスが指し示された水晶に手を触れると、僅かに発行した。


「冒険者の方々はギルド証を出してもらえますか?」


 その言葉にマリアはカウンターに視線を戻すと、慌ててギルドカードを取り出した。


「4人、ですか? そちらの子は?」

「あっ、グレンは途中からパーティーに加入したので、今回は報酬の類は無しで話がついています」

「そうでしたか。失礼いたしました。最近冒険者の方の中には、幼い子供に戦わせた挙句、その子には報酬がゼロで、全部自分たちの懐に入れる方がいらっしゃるもので⋯⋯」


 そう言って受付嬢は悲しそうに笑った。


「いえ、大丈夫です。酷い人もいるんですね」


 4人はそのまま1人大銀貨25枚ずつ、マリアだけは追加で更に大銀貨15枚を受け取り、皆嬉しそうだった。


「私たちは5日後までこの街に滞在して王都に帰りますので、良かったらまた受けてください」

「⋯⋯考えておきますね」

「また会えることを願っていますよ。仲間も待たせているので私はこれで」

「はい、ありがとうございました」

「⋯⋯お礼を言うのはこちらの方ですよ」


 5人はアレキスと別れると、再度ギルドに戻ってきた。


「すいません、ギルドマスターにお会いしたいんですけれど⋯⋯」

「面会予約は御座いますか?」

「いえ」

「それでしたら申し訳御座いませんが、会われることはできません」

「これを渡して貰うだけで良いですから」


 アルフォードは一歩も引かなかった。受付嬢もそのことを察したのか──。


「⋯⋯しょうがないですね」


 受付嬢はアルフォードから受け取った封筒を持って、渋々といった様子で奥に入っていった。


「⋯⋯お会いになるそうです」


 戻ってきた受付嬢は、当惑を顔に浮かべていた。

 5人は何も言わずに、受付嬢の後をついていった。


「こちらです。くれぐれも失礼のないようにお願いします」


 受付嬢はとある部屋の前まで案内するとそれだけ言い置いて、足早に去っていった。


コンコン


「どうぞ~」


 ドアをノックすると、気が抜けるような返事が返ってきた。

 ドアを開けると、初老の小柄な女性がいた。


「アルちゃん以外は初めましてよね?私はここのギルドマスターのエリンよ。よろしくね」


 マリアたちを見ると、ハイテンションでそうまくしたてた。


「アル、ちゃん?」


 マリアの中でギルドマスターのイメージが音を立てて崩れた瞬間だった。否、レオナールによってひびを入れられていたところに、追い打ちをかけられたと言った方が良いだろう。


「その呼び方は止めてくれと、いつも言ってるだろ?」

「ええ~、良いじゃない別に」


 エリンは子供のように頬を膨らませた。


「そんなことより、今回はいつまでいるの?すぐ帰っちゃうわけじゃないでしょ?」

「⋯⋯長くて5日だな」

「え~、いつもそれぐらいで帰っちゃうじゃない。偶には10日ぐらいいたら?」

「そこまで暇じゃないんだ。学園もあるしな」


 エリンが駄々をこねる様は幼い子供のようだった。


(なんかアルが絶対に顔を出したくないけど、出さなかったら後が怖いって言っていた意味がよくわかるなぁ)

(毎回こんな感じなのかしら? ⋯⋯大変ね)

(こいつも苦労してるんだなぁ)

(⋯⋯この人がギルマスなんだよな? 大丈夫なのか?)


 その様子を見る皆の目は、どこか遠いところを見ていた。


「顔は見せたし、あいつのとこにも行かなきゃいけないからもう帰るぞ」

「え~」

「⋯⋯少しは自分の歳を考えた方が良いといつも言ってる気がするんだが」

「もう、わかったわよ。あいつに近々こっちに顔を出すように言ってくれる?」

「わかった」


 アルフォードは短く返事をすると、足早に部屋から出ていった。その後を慌てて4人も追いかけた。


「気づいた?」


 部屋を出てすぐにエリザベートはそうマリアに問いかけた。


「うん、部屋全体に防音がかけれていたね」

「最初は中から声が聞こえたから、私たちが入ってからやったってことよね?」

「そうだと思うよ。流石ギルマスをやっているだけはあるね」

「性格はちょっとアレだったけどね」

「アレさえなければ、申し分ない有能な人物なんだがな」

「⋯⋯完璧な人間はいないってことか」

「そういうことだ」


 マリアたちは揃って溜息を吐いた。


「ねぇ、もしかしなくてもこれから行くのって⋯⋯」

「この街を治めている奴のところだな」

「奴って、口が悪いわよ」

「会えば奴って呼ぶ理由がわかると思うぞ」


 そんなことを話しながら道を歩いていた。


「なぁ、いやに僕の影が薄いのは気のせいか?」

「お前なんてまだましだ。僕なんて存在を忘れられてる気がするぞ?」


 お互いに慰めあうグレンとアーティスだった。


 ギルドから20分ほど歩き、5人は一軒の屋敷の前にいた。


「ここだ」


 その屋敷は高級住宅街の一角にあった。周囲の家よりも一回りほど大きかったが、飾り気が少なく、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「こ、これはこれはアル様。急なお越しで」


 門の前に立っていた兵士は、アルフォードに気がつくと急にかしこまった。


「いきなりですまないな。レインはいるか?」

「はい。おそらく書斎にいらっしゃるかと」

「ありがとう」

「いえ。⋯⋯そちらの方々は?」

「僕の友人だ。通しても良いか?」

「勿論です」


 特に武器等の持ち込みなども確認されずに通された。


「ねぇ、あなたのことはどう認識されているの?」


 エリザベートが、門の兵士から話が聞こえないぐらい離れてからそう問いかけた。


「確か昔命を救ってもらった貴族の子供と説明されていた筈だ」

「で、真実は?」

「レインの命を救ったっていうのは本当だな」

「⋯⋯嘘は吐いていないってことか」

「皆を騙す時は、できるだけ真実を話した方が良いらしいぞ? 皆にはアルと呼べと言っているしな」

「嘘を吐かなくて済む時は真実を話した方が良いってこと?」


 2人の話を聞いていたマリアも会話に参加してきた。


「まっ、そういうことだ。だが嘘を吐いていないからといって、本当のことを話しているとは限らない。そのことは覚えておけ」

「ものは言いようってこと?」

「というよりは、敢えて話していないと言った方が良いな」

「ん~、なんか難しい」

「そのうちわかるようになるさ」


 顔をしかめたマリアに、アルフォードはそう言って笑った。

 そんなことを話しているうちに玄関に辿り着いた5人は、勝手に扉を開けて屋敷の中に入っていった。

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