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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第四章 護衛依頼
51/210

40 14日目

 宿までの道中、新しい装備が嬉しいのか、マリアの足取りは軽く、鼻歌までしていた。スキップをする度に、膝より少し下までのローブの裾がひらひらと翻った。


「遅くなっちゃったから少し急ぐわよ」


 時刻は20時過ぎ。街に入ったのが16時だったことを考えると、十分遅いと言って良い時間だ。


「急がないと夕飯を食べそびれるわよ」


 宿のラストオーダーは20時半。戻る時間を考慮すればギリギリだ。


「うん。わかった!」

「ああ」


 4人は駆け出した。


 5分ほど走ったところで、4人は不意に足を止めた。

 すると、周りの建物の物陰から、人相の悪い男たちが現れた。その数20以上。通常なら逃げるか、戦うにしてもまず勝てない人数だ。そう、通常なら。


「お前ら、有金を全て出しやがれ」


 後ろを見れば、ご丁寧に退路も塞がれていた。


「隠しても無駄だ。お前らが今日ギルドで大金を受け取ったことは知っている」


 その言葉に、エリザベートは大きく溜息を吐いた。


「それだったらもうないわよ? さっき使っちゃったもの」

「だったらそれで買ったものを出せ」

「良いけど殆ど前金で使っちゃったけどね」

「なんだと!」


 その言葉を引き金に男たちは4人に襲い掛かった。


「時間もないし、サッサと倒すわよ!」


 その言葉をただの強がりだと思ったのか、男たちの勢いは変わらなかった。


「あなたたちレベルじゃ、武器を出すほどじゃないわね」


 一番弱いと思われたのか、マリアに向かってくる者が一番少なかった。次がエリザベート、アルフォードとアーティスが同じくらい。


「私を舐めないでよね!」


 多勢に無勢にも関わらず、男たちの攻撃は全て避け、的確に急所に蹴りやパンチを打ち込み、倒していった。

 1分もかからない内に全員が地に倒れ伏した。


「アーティス! 警備兵を呼んできて!」

「わかった!」


 数分後、警備兵が駆けつけてきて、男たちは全員捕縛された。


「詳しい話を聞きたいんだが⋯⋯」


 隊長格らしき警備兵がそう言ったが、4人の反応は冷たかった。


「後にしてもらえますか? ラストオーダーに間に合わないんで」

「夕食を食べそびれたらどうするのよ」

「私、お腹空いたよ~」

「食べ物の恨みは怖いって言うしね」


 口々に言われる言葉に、警備兵の方が折れた。


「わかった! 夕飯を食いながらで良いから!」

「それだったら良いわ」

「早く行こ~」


 ぞろぞろと移動を始めた。

 この時の警備兵は、若干涙目だった。

 そこから15分ほど歩き、宿に戻ってきた。受付の壁にかかった時計は8時25分を指している。どうやらギリギリ間に合ったようだ。


「夕食を4人分お願いします」

「少し時間がかかりますが、大丈夫ですか?」

「はい」


 給仕をしていた女性に注文を伝えると、空いている席に座った。

 来るのを待っている間に、事情を説明することとなった。


「それでは何があったのか話してもらいたいのだが⋯⋯」

「何がって、宿に帰る途中にあの男たちに囲まれて、お金を出せって言われたわ。それを断ったら襲い掛かってきたから、返り討ちにしただけよ」

「お前たちがか?」

「当たり前でしょう? 私たちではなかったら、誰がやったと言うの?」

「⋯⋯見た目が若いし、それほど強くは見えないからな。実はあいつらはギルドの新人をいたぶって、金を奪い取っていた常習犯なんだよ。だからこそな」

「つまり、僕たちじゃなくて、誰か他の奴がやったんじゃないかと思っているわけか?」

「ああ、そうだ。通りがかった奴が倒したんじゃないかと思っている」


 兵士ははっきりとそう言い切った。


「でもなんでそんなに誰が倒したことにこだわるの?」

「あの手の輩は性質が悪いからな。懸賞金がかかっていたんだ」

「倒した人にしか渡せないってこと?」

「簡単に言えばそうだ」

「でも、証明しろと言われても難しいぞ」

「それはわかっているんだが⋯⋯。実はお前たちは高ランク冒険者だったとかじゃないよな?」

「普通Eランクを高ランクとは呼ばないと思う⋯⋯」

「寧ろ低ランクに入るよね」


 4人とも困った顔をした。


「Eランク? 登録したばかりのHかGじゃないのか?」

「私たちはこの街の住人じゃないしね」

「この街には依頼で通るだけだし⋯⋯」

「依頼? 配達か何かか?」

「護衛依頼だよ」

「護衛依頼! 止めておけ。今からでも高ランクのやつに引継ぎすべきだ」


 この兵士は親切心から言っているようだった。


「どうしてですか?」

「おそらくお前たちは領都までの依頼を受けたんだろうが、ヨルの森はCランク以上の魔物の巣窟だぞ。Eランクじゃ到底通過するのは不可能に近い」

「? そんなこと言われても、私たちは領都の方から来たんですが」

「何!」


 兵士は驚愕の声を上げた。


「そんなことより、話がそれているけど良いの?」

「そんなことって⋯⋯。だがそうだな。証明する手立てがない以上、懸賞金は諦めてもらうしか⋯⋯」

「別に良いぞ」

「えっ?」

「お金には困ってないしね」

「はっきり言ってこのままだと平行線だしな」

「時間の無駄だよね」

「私、面倒臭いのは嫌だよ」

「えっ? えっ! 本当に良いのか?」

「ああ」


 これで話は終わりだとばかりに、アルフォードは話を打ち切った。

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