40 14日目
宿までの道中、新しい装備が嬉しいのか、マリアの足取りは軽く、鼻歌までしていた。スキップをする度に、膝より少し下までのローブの裾がひらひらと翻った。
「遅くなっちゃったから少し急ぐわよ」
時刻は20時過ぎ。街に入ったのが16時だったことを考えると、十分遅いと言って良い時間だ。
「急がないと夕飯を食べそびれるわよ」
宿のラストオーダーは20時半。戻る時間を考慮すればギリギリだ。
「うん。わかった!」
「ああ」
4人は駆け出した。
5分ほど走ったところで、4人は不意に足を止めた。
すると、周りの建物の物陰から、人相の悪い男たちが現れた。その数20以上。通常なら逃げるか、戦うにしてもまず勝てない人数だ。そう、通常なら。
「お前ら、有金を全て出しやがれ」
後ろを見れば、ご丁寧に退路も塞がれていた。
「隠しても無駄だ。お前らが今日ギルドで大金を受け取ったことは知っている」
その言葉に、エリザベートは大きく溜息を吐いた。
「それだったらもうないわよ? さっき使っちゃったもの」
「だったらそれで買ったものを出せ」
「良いけど殆ど前金で使っちゃったけどね」
「なんだと!」
その言葉を引き金に男たちは4人に襲い掛かった。
「時間もないし、サッサと倒すわよ!」
その言葉をただの強がりだと思ったのか、男たちの勢いは変わらなかった。
「あなたたちレベルじゃ、武器を出すほどじゃないわね」
一番弱いと思われたのか、マリアに向かってくる者が一番少なかった。次がエリザベート、アルフォードとアーティスが同じくらい。
「私を舐めないでよね!」
多勢に無勢にも関わらず、男たちの攻撃は全て避け、的確に急所に蹴りやパンチを打ち込み、倒していった。
1分もかからない内に全員が地に倒れ伏した。
「アーティス! 警備兵を呼んできて!」
「わかった!」
数分後、警備兵が駆けつけてきて、男たちは全員捕縛された。
「詳しい話を聞きたいんだが⋯⋯」
隊長格らしき警備兵がそう言ったが、4人の反応は冷たかった。
「後にしてもらえますか? ラストオーダーに間に合わないんで」
「夕食を食べそびれたらどうするのよ」
「私、お腹空いたよ~」
「食べ物の恨みは怖いって言うしね」
口々に言われる言葉に、警備兵の方が折れた。
「わかった! 夕飯を食いながらで良いから!」
「それだったら良いわ」
「早く行こ~」
ぞろぞろと移動を始めた。
この時の警備兵は、若干涙目だった。
そこから15分ほど歩き、宿に戻ってきた。受付の壁にかかった時計は8時25分を指している。どうやらギリギリ間に合ったようだ。
「夕食を4人分お願いします」
「少し時間がかかりますが、大丈夫ですか?」
「はい」
給仕をしていた女性に注文を伝えると、空いている席に座った。
来るのを待っている間に、事情を説明することとなった。
「それでは何があったのか話してもらいたいのだが⋯⋯」
「何がって、宿に帰る途中にあの男たちに囲まれて、お金を出せって言われたわ。それを断ったら襲い掛かってきたから、返り討ちにしただけよ」
「お前たちがか?」
「当たり前でしょう? 私たちではなかったら、誰がやったと言うの?」
「⋯⋯見た目が若いし、それほど強くは見えないからな。実はあいつらはギルドの新人をいたぶって、金を奪い取っていた常習犯なんだよ。だからこそな」
「つまり、僕たちじゃなくて、誰か他の奴がやったんじゃないかと思っているわけか?」
「ああ、そうだ。通りがかった奴が倒したんじゃないかと思っている」
兵士ははっきりとそう言い切った。
「でもなんでそんなに誰が倒したことにこだわるの?」
「あの手の輩は性質が悪いからな。懸賞金がかかっていたんだ」
「倒した人にしか渡せないってこと?」
「簡単に言えばそうだ」
「でも、証明しろと言われても難しいぞ」
「それはわかっているんだが⋯⋯。実はお前たちは高ランク冒険者だったとかじゃないよな?」
「普通Eランクを高ランクとは呼ばないと思う⋯⋯」
「寧ろ低ランクに入るよね」
4人とも困った顔をした。
「Eランク? 登録したばかりのHかGじゃないのか?」
「私たちはこの街の住人じゃないしね」
「この街には依頼で通るだけだし⋯⋯」
「依頼? 配達か何かか?」
「護衛依頼だよ」
「護衛依頼! 止めておけ。今からでも高ランクのやつに引継ぎすべきだ」
この兵士は親切心から言っているようだった。
「どうしてですか?」
「おそらくお前たちは領都までの依頼を受けたんだろうが、ヨルの森はCランク以上の魔物の巣窟だぞ。Eランクじゃ到底通過するのは不可能に近い」
「? そんなこと言われても、私たちは領都の方から来たんですが」
「何!」
兵士は驚愕の声を上げた。
「そんなことより、話がそれているけど良いの?」
「そんなことって⋯⋯。だがそうだな。証明する手立てがない以上、懸賞金は諦めてもらうしか⋯⋯」
「別に良いぞ」
「えっ?」
「お金には困ってないしね」
「はっきり言ってこのままだと平行線だしな」
「時間の無駄だよね」
「私、面倒臭いのは嫌だよ」
「えっ? えっ! 本当に良いのか?」
「ああ」
これで話は終わりだとばかりに、アルフォードは話を打ち切った。




