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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第四章 護衛依頼
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33 14日目

「オーガかぁ。確かパワーだけはとんでもないのよね⋯⋯」


 エリザベートはオーガに接近しつつそんなことを呟いた。


「そんでもって防御力は低かったはず。攻撃を避けてカウンターかしらね」


 そんなことを言っている間にオーガまで後10メートを切っていた。

 そしてそのまま手に持っていた杖を横薙ぎに振るった。

 直撃したオーガは数メート空を舞った。



「ていっ!」


そこへ走り寄ってきたエリザベートが杖を振り下ろし地面に叩き付けた。

 オーガは何度かバウンドし、動かなくなった。

 杖を振り下ろしたまま、態勢が立て直せていないうちに、後ろに回り込んでいたオーガがエリザベートに蹴りを放った。


「おっと」


 エリザベートはそれを跳んで避けると、そのまま地面に手をついてばく転の要領で顎を蹴り上げた。


 身を捻りながら着地することで体の向きを変えると、軽い脳震盪を起こしている目の前のオーガの首筋を素早く杖で打ち据えると、すぐにバックステップで下がった。

 一瞬後、いつの間にか横に迫っていたオーガの拳がエリザベートの目の前を通り過ぎていった。


「ていやっ!」


 伸びきった腕を掴むとそのまま投げ飛ばし、頭から地面に叩き付けた。


 すぐに後ろから他のオーガの攻撃が迫り、それを半身になって避けると、高く跳躍し、重力も利用して威力を上げた首に踵落としをする。

 そのまま地面に下りず、勢いを利用して更に高く跳ぶと、オーガたちの包囲の外に降り立った。


「後7か。ちょっと試したいことがあったし、実験台になってもらいましょうか」


 そう呟くと、一番近くにいたオーガに走り寄った。

 放たれたパンチを身を低くすることで避け、空いた胴体にそっと触れた。

 普通なら何も起こらないが、触れられたオーガは弾き飛ばされ、数メート先をゴロゴロ転がり、ピクリとも動かない。

 何をやったのかと言えば、手の平を通じて相手に直接魔力の塊を叩き込んだのだ。


「う~ん、ちょっと強すぎたかな?」


 次のオーガも同じように飛ばされたが、さっきと違い、すぐに起き上がった。ただし、ダメージは確実にあるようで、足元がおぼつかない。


「今度は弱かったか⋯⋯」


 止めを刺しながらそう呟いた。


 その後、残ったオーガたちは、エリザベートの練習台にされるのだった。


◇◆◇


 どこかから叫び声が聞こえた。


「あっちは方角的にアルかな?」


 マリアはそちらの方を見ながらそう呟いた。間違っても敵の目の前でとる行動ではない。


「皆ほとんど魔術が使えないって縛りがあるんだから、私が魔術を使いまくったら卑怯だよね?」


 マリアは目の前のオーガ・・・にそう問いかけた。勿論返事があるわけもなく、威嚇の声と共に攻撃が放たれた。


「えっと、そこの方ってもしかしてキングさんですか?」


 マリアは他のオーガよりも一回り大きく、額に立派な角が生えたオーガ──オーガキングに問いかけた。


「ということはこの群れを率いているのはあなたですか。3人にはちょっと悪いけど相手として不足なしです」


 マリアは上衣の内ポケットに右手を入れた。引き抜かれた手には細長い針が指の間に1本ずつ挟まれていた。


「実戦では魔術ばかりで、これを使ったことはないですけど、良い機会です。練習台になってください」


 マリアは横薙ぎに振るわれた腕をしゃがんで回避すると、その腕に左手をついて逆立ちすると、その首筋に手の針を打ち込んだ。

 同じ要領でマリアはひたすら攻撃を──時にしゃがみ、時にはジャンプして躱し、隙を伺い、隙を見つけるとすかさず近寄り、首筋に深々と手の中の針を打ち込んだ。

 オーガは一瞬ピクリと震え、動かなくなった。


「射程距離が短いのが難点だね、やっぱ。短剣よりはましだけど」


 本来この針は仕留めるというよりは、動きを阻害するための武器なのだが、マリアはそのことに気づいていない。


「使い捨てだし、割に合わないかな?」


 そのことに気づかぬまま、マリアはオーガキング以外の普通のオーガ12匹を倒し切った。

その間、オーガキングはじっと食い入るようにマリアの動きを見ており、攻撃に参加することはなかった。


「残りはあなただけですね」


 マリアはオーガキングと相対した。針は使い切っており、その手には何も握られていない。


「行きます!」


 マリアは宣言すると、オーガキングに向かって駆け出した。


「魔術は使わないと言いましたけど、武器がないので仕方ありません。『《錬成》』!」


 マリアが手を空中に差し出しながら唱えると、虚空に小ぶりな短剣が現れた。

 装飾の類はほとんどなく、柄に小さく龍が彫り込まれている。

 マリアはそれを掴むと、構えた。


「えいっ!」


 そしてそのままオーガキングを切りつけた。

 オーガキングはそれを易々と躱すとマリアに向かって手を振り下ろした。


「きゃっ!」


 マリアはそれを辛うじて避けたが、あまりの威力に地面が抉れ、土塊がマリアを襲った。

 動きを止めた隙を見逃さず、オーガキングは渾身の拳をマリアに放った。


「えっ? きゃあっ!」


 とっさに短剣で逸らしたが、受け流しきれず、マリアは吹き飛ばされて近くの木に叩き付けられた。手に持っていた短剣も粉々に砕け散った。

 オーガキングはそれを見てニヤリと笑うとゆっくりとマリアに近寄っていった。マリアは意識を失っているのかまったく動かない。

 そしてオーガキングはその腕を勢いよく振り下ろした。

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