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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第四章 護衛依頼
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32 14日目

 朝食後、皆満足そうな顔をしていた。

その中には商人たち5人もいた。匂いに引き寄せられ、途中から参戦したのだ。

 結局マリアは用意してあった物の倍の量を作らなければならなかった。

 食べている途中の一幕には、マリアがアレキスにレシピを教えてくれと言われ、窯がないと難しいからと断るということもあった。

 そして結局、今回の旅の最中に野営する時にはマリアが料理をすることが満場一致で決まった。商人側が、一食辺り材料費の他に大銀貨1枚払うと言ったことも大きい。

 そして手早く荷物を纏めると、地面を元のように戻して、一同は旅立った。


 1時間ほど何もなく一行は進んでいたが、不意にアルフォードが歩みを止めた。


「囲まれているな」

「うん、周囲50メートぐらいにぐるっと」

「ええ、40、といったところかしら?」

「それぐらいだろうな」


 すぐに他の3人も気づいた。


「ちょっと数が多いよね?」

「さっきの魔物はCランクのシルバーウルフが最低ランクだったしな」

「あの、大丈夫なんですか?」


 そんな会話を聞いていたアレキスが心配そうに尋ねた。


「心配ご無用です。1人ではきついというだけの話ですから」


 アーティスが安心させるように言った。


「1人10匹といったところだな。僕は後ろのやつを倒す」

「じゃあ私は右にするわ」

「僕は左側を。マリア、正面はお願いするね」

「わかった」


 手早く割振りを決めると、それぞれの担当の魔物に向かっていった。


「おっと、その前に『光よ、彼らを守る盾となれ、《光の盾ライト・シールド》』」


 ユニコーンから降り、走り出そうとしたところでマリアは思い出したように商人たちと荷馬車を光の壁で守った。


「大丈夫だとは思いますけど、一応念の為です」


 マリアはニッコリ笑うと気を取り直して魔物の群れに向かっていった。


「お気を付けて⋯⋯」


 アレキスが声をかけたが、その言葉はマリアには届かなかった。


◇◆◇


(魔術は使えることは隠しておいた方が良いよな? 地味なやつだけにしておくか)


 アルフォードは走りながら考えを纏めると、腰に差していた剣を抜いた。


「『《身体強化》』」


 すぐに敵の姿が目に飛び込んできた。赤い肌をした人型の魔物だ。身長は2メートといったところだろうか。


「Bランクのオーガか。魔術に縛りがあるとなるとアーティス辺りが苦戦しそうだな」


 オーガもこちらに気づいたようで、向かってきた。


「全部で13匹か。⋯⋯負けはしないだろうが、少しきついな」


 アルフォードは独り言ちた。


「っと! 危な!」


 攻撃が届く距離まで近づいていたオーガのパンチを、半身になることで紙一重で躱すと、その腕を切り落とした。


「ぎゃあぁぁ」


 オーガは痛みに悲鳴を上げた。

 アルフォードはそれを気にせず首をはねた。


「まずは一匹」


 アルフォードは一番近くにいたオーガに向かっていった。


「うおぉ」


 そして放たれたオーガの渾身のパンチを、しゃがむことで回避し、剣を横薙ぎに振るった。

 足を失ったことでバランスを崩したオーガの首を、先ほど同様切り落とすと、後ろに回り込んでいたオーガの蹴りを身を捻りながら跳躍することで避け、そのまま回転の遠心力を利用して首を切り落とした。


「これで3匹っと」


 ここまでの所要時間、オーガを発見してから約20秒程だ。


「意外と余裕だな」


 アルフォードはオーガの脅威度を下方修正した。

 オーガがBランクなのはその攻撃の威力故であり、全て避けられるのならば、防御力もDランクほどで、それほど苦労せずに倒せる。ただし、その避けるというのは、オーガの攻撃はそれなりに速く、かなり難しい。

 アルフォードはその事実に気づかぬまま、新たなオーガに向かっていった。


 残り3匹になったところでオーガは背を向けて逃げようとした。


「逃がすか!」


 強く地面を蹴った。数瞬後には一番近くにいた。そのまま勢いを殺さず首を切り飛ばしながら残りのオーガを追う。すぐに他のオーガも同じように首を切られ、地に倒れ伏した。


「さて、解体して、素材を回収してから帰るか」


 アルフォードは足元のオーガから順に解体を始めた。


「⋯⋯そう言えばこれだけオーガがいるのに、オーガキングはいなかったな」


 そう呟きながら。


◇◆◇


「オーガがいるなんて聞いてない!」


 アーティスは叫びながらオーガたちからの攻撃を必死に躱していた。


「僕は肉弾戦は苦手なのに!」


 すでにアーティスは涙目だった。周囲はオーガに囲まれており、逃げ場はない。

 苦手と言っておきながら、躱し続けられるのはひとえに《身体強化》のお陰だった。

 本来ならば躱したところで攻撃するのが普通だが、アーティスの場合はそれをする隙がなく、防戦を強いられていた。一応手には剣が握られている。


「しかも、9体ってなんだよ! 勝てるわけないだろ!」


 それでも避けながら僅かな隙を見つけては攻撃を繰り返していた。


(この場合は同士討ちを狙うのがセオリーだったよね?でもどうやれば⋯⋯)


 さっきから回避は横の動きだけで、上下に動くという発想はアーティスの中から消えていた。


「うわっ!」


 避けた拍子にバランスを崩し、しゃがみ込んでしまうと、アーティスの頭上で狙いが消えたパンチが他のオーガに当たり、頭が爆発四散した。


「どんな攻撃力だよ!」


 すぐに立ち上がり、その時に残ったもう片方のオーガの首を切り落とした。そしてすぐに迫っていた四方からの攻撃を再び掻い潜り始めた。


(そうか、しゃがめば相打ちになってくれるのか)


 そうわかればと次に来たパンチをしゃがんで避ける。すると、狙い通り他のオーガを倒してくれたが──。


「えっ?」


 さっきのを見ていて学んでいたオーガの蹴りが放たれた。


「うおっと」


 それを何とか跳躍することで避けるが、そこを狙っていたオーガのパンチが前と後ろからアーティスに迫る。


(嘘だろ)


 空中のため避けようがない。


「くっ、この!」


 とっさに身を捻ることで前のオーガのパンチを避け、その勢いのまま後ろのオーガの腕を切り落とす。

 体のバランスが取れなくなったオーガの首をすかさず近寄り切りつける。


(これで後5体)


 その後も着実に攻撃を掻い潜り、一体ずつ確実に仕留めていき、何とか無傷で全て倒しきった。


「疲れた~。他の人たちならもっと簡単に倒してそうだよな。エリザベートとか⋯⋯」


 終わったところで座り込んでしまった。


 少し経ち、体力がある程度回復すると、倒したオーガの解体をすべく動き始めた。

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