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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第四章 護衛依頼
42/210

31 14日目

 皆が寝静まった真夜中、森の中では魔物がうごめく気配があった。

 やがて一つの影が野営地の方に近づいてきた。そして見張りが誰もいないのを見ると、一気に駆け出した。そして──。


「ぎゃいんっ」


 見えない壁にぶつかり弾かれた。

 ぶつかった瞬間、一瞬だが結界が光り、その姿を照らした。それは通常の狼よりも一回り大きい銀色の狼だった。Cランクの魔物、シルバーウルフだ。

 シルバーウルフはそれでも諦めず、再度結界に体当たりをした。

 結界に弾かれるのはさっきと一緒だが、今度は同時に結界から漆黒の刃が生み出され、シルバーウルフに向かって飛んでいった。

 それは首に寸分の狂いもなく当たり、易々と切り落とした。シルバーウルフは声を出す暇もなく絶命した。その死体は結界から伸びてきた黒い手によって、結界内に引き込まれた。

 そして何事も無かったかのように、周囲は先ほどまでと変わらない静寂が訪れた。その場にはシルバーウルフの血の跡だけが残された。


 暫く経ち、血の匂いに釣られてか、シルバーウルフが何匹もやって来たそして──。


◇◆◇


 翌朝一行の中で一番に起きた人間――商人のコスタスはテントの外に出て真っ先に目に入った魔物の死体の山に固まった。

 その山は人の背丈よりも高く、目算でも100匹分以上あるのは確実だった。

 数十秒後、我に帰ると慌ててテントの中に戻った。


「おい! 起きろ!」


 必死に商人仲間たちを揺さぶって叩き起こした。


「う~ん? どうしたんですか?」

「いいから外に出てみろ!」

「だからどうしたと⋯⋯えっ?」


 アレキスが文句を言いながら外に出て魔物の山を見ると唖然とした顔で固まった。


「なんですか? あれ」

「魔物の山だな」

「それは見ればわかります。なぜあの様なものが⋯⋯」

「⋯⋯わからないが、冒険者の嬢ちゃんたちなら何か知っている気がする」

「⋯⋯そうですね。そろそろ起きているかもしれませんし、伺ってみましょう」


 2人は未だ眠っているバシル、カロロス、ゲオルゲの3人を起こさないようにそっとテントから出て、アルフォードとアーティスが寝ているテントに向かった。


「「あの魔物の山は何ですか(何だ)!」」


 アレキスとコスタスはアルフォードとアーティスのテントに入るや否や、そう叫んだ。


「えっ? 魔物の山、ですか? 何か知っているか?」

「いや。初耳だ」


 2人はすでに起きていて身支度まで整えていた。


「あの結界が関係していると思うんですけど⋯⋯」

「結界、か。⋯⋯マリアが何と唱えていたか覚えていますか? 最初だけで良いので」

「えっと、確か『光と闇よ、我らに危害を』だったと思います」


 アレキスの返答に思わずアルフォードとアーティスは顔を見合わせた。


「確か結界って光で良かったんじゃなかったっけ?」

「ああ、その筈だ」

「どうかしたのか?」

「原因は恐らくわかったと思います。ただ、マリアに話を聞いてみないことには⋯⋯」

「確実とは言えない、か」

「はい。あの2人のことですからもう起きているでしょうし行ってみましょう」


 4人はぞろぞろと女性陣がいるテントに移動した。


「起きてるか?」


 中に呼びかけると入って良いよと、返事があり、中に入った。


「朝早くからどうしたの? あっ、アレキスさんたちまで」


 4人を見て、マリアはそう尋ねた。


「どうしたの? だと。マリア、外の魔物の山は何だ? 状況的に考えてお前の仕業だろう?」

「魔物の、山?」

「とぼけるな!」

「えっ、そんなこと言われても⋯⋯。あっ、あれかな? 魔物が一杯来ちゃって、結界が壊されちゃ嫌だと思って、闇属性を付加して自動迎撃するようにしたけど。対象は2回位以上結界に悪意を持って触れた者で」

「⋯⋯それは自動的に倒した者の死体を集めることも組み込んだのか?」

「うん! だって売ればお金になるでしょ? 他の魔物に傷つけられちゃ価値が下がっちゃうもん」


 マリアは満面の笑みで答えた。


「それに、一か所に集まっていた方が後で回収しやすいでしょ?」

「もういい。わかったから。⋯⋯だということだそうです」

「⋯⋯事情はわかった。早目にあれは片付けてくれ」

「わかりました。というわけで行くぞ、お前ら」

「えっ? ちょっ⁉ 私まだ話がわからないんだけど!」

「外を見ればわかる!」


 そしてそのままエリザベートはアルフォードに、マリアはアーティスに腕を掴まれ、山のところまで引きずられていった。


 4人は魔物を片っ端から解体し始めた。

 驚いたことにC、Bランクが中心でいくつかAランクも混じっていた。


「こういう時、高かったけど5級のアイテムポーチを買って良かったと思うわ」


 エリザベートはしみじみと呟いた。


「そうだね~。入りきらないと勿体ないもんね」

「⋯⋯今の言葉で何かが台無しになったような気がするのは私だけ?」

「安心しろ、僕もだ。それよりも手を動かせ、終わらないぞ」


 諭され、止まっていた手を再び動かし始めた。


「なんか前にも似たことがあったような⋯⋯?」


 何やかんやで全て解体するのに1時間近くかかり、アイテムポーチも9割ほど埋まった。


「朝ご飯を作らなくちゃいけないんだけど⋯⋯皆疲れてるみたいだし、簡単なもので良かったら私作るけど」

「お願い」

「僕が手伝ったらかえって時間がかかる気がするから大人しくしているよ」

「お言葉に甘えさせて貰う」

「わかった」


 マリアは三者三様な返事を聞くと、昨夜と同じように魔術で簡易の窯を作り出し、火を入れた。そして温まるのを待つ間にホールに小麦粉、塩、水を適量入れると手早く混ぜ、一纏めにした。それを適当な大きさに分け、丸めるとその中の一つでスライスチーズを包み、薄く伸ばした。そして丁度良い温度になった窯の中に入れた。


「焼いてる間に他もやっちゃわないと」


 残った5つの内の2つを、同じように焼く直前の状態にすると今度はパトタ(ポテト)、アヌアン(オニオン)を薄く切り、予め作ってあったタミタ(トマト)のソースと一緒に残りの生地に入れ、伸ばした。


「そろそろ良いかな?」


 4枚目が出来た辺りで窯の中の様子を見るとほど良く焼き色がついていた。それを取り出し、皿に載せた。


「1枚目焼けたよ~。冷める前に食べちゃって。私は気にしなくて良いから」


 エリザベートに皿を渡すと2枚目を――今度は伸ばしたばかりの野菜入り――を入れた。

 残りも同じように後は焼くだけの状況にしたところで2枚目が焼けた。

 マリアはそれを出し、3枚目を入れるとそれを持って3人の方に行った。


「あれ? 食べてなかったの?」


 3人は食べずにマリアを待っていた。


「気にせず食べろとは言われたけど⋯⋯」

「なんか悪いしな」

「まぁぶっちゃけどう食べれば良いのかわからなかっただけなんだけどね」

「ちょっ! それは言わない約束!」

「あ~ごめんごめん」


 マリアは謝りながらそれぞれを四等分に切った。


「中身はチーズのと野菜の二種類にしたよ。気にせずに手に持って齧っちゃって」


 そう言うと早速とばかりにチーズ入りの方を手に取り齧った。その際溶けたチーズがほど良く伸びた。


「? どうしたの? 冷めちゃうと美味しくないよ」


 食べる様子のない3人に心配そうに訊いた。


「あっ、いや、何でもない。冷めてしまうし食べてしまおう」

「そうそう、冷めちゃうしね」


 誤魔化すように笑いながらそれぞれ好きな方を手に取った。


「まだ焼いてるからお代わりあるからね」


 そう言ってマリアは焼き加減を見るために席を立った。

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