29 13日目
その日は次の街まで距離があったこともあり、森の中で野営をすることとなった。
「森の中に泊まるなんて初めてだから楽しみ!」
「呑気だなぁ。夜の森は魔物の巣窟だぞ。活発になる種類は強いものが多い。油断して怪我をしても知らないぞ」
「は~い」
4人は手分けをして野営の準備を進めていく。
マリアとエリザベートはアルフォードとアーティスがテントを張っているのを横目に薪拾いを始めた。
「⋯⋯思ったよりも枝が落ちてないね」
「街道の近くだもの、皆この辺に泊まるんじゃないかしら」
「領都からだと⋯⋯この辺で日が暮れるのか」
30分ほどかけ、集めた薪を手に戻ると丁度テントをやり終わったところだったようだ。
「⋯⋯随分と時間がかかったみたいね」
「仕方がないだろう? 慣れていないんだから」
「うまく行かないでアレキスさんたちのお世話になってしまったけどね」
「アーティス! 余計なことを言うな!」
「へ~え。これだけ時間がかかってテントの一つも張れないなんてだらしないわね」
エリザベートが良いことを聞いたとばかりに、ニッコリと笑った。
「もうこの話はいいだろう? サッサと夕飯の準備をするぞ」
アルフォードが話を逸らせ、微妙な空気の中調理が始まった。
「アーティス、アルフォードは野菜を洗って小さく切って。エリザベートは鍋を洗っておいて。私は火を熾しちゃうから」
マリアはそう言うと薪に魔術で火をつけ始めた。他の者も言われたように作業を始める。
「刃物を使う時は指を丸める! 危ないじゃない!」
「もっと小さく切らないと火が通らないよ」
エリザベートは洗い物が終わった後は2人に混じって野菜を切り始めた。
マリアはそれを横目に見て時折注意しながら切り終わった野菜を鍋に入れ、茹で始めた。
(この分だと完成まで時間がかかりそうだね)
スープの味を見ながらマリアはそんなことを考えた。
(よし! もう一品作っちゃおう)
火加減を見ながら時々かき混ぜることしかすることがなくなったマリアはアイテムポーチから小麦粉、砂糖が入った袋と卵を数個。それにルンガ(リンゴ)とバターを取り出すと、ボールに卵を割入れ、泡立て始めた。ある程度泡立ったところでバターを加えさらに泡立てる。しっかり混ざったところで小麦粉と砂糖を入れて、よく混ぜる。それを鉄でできた型に流し込むとルンガを風魔術で瞬時に薄くスライスし、上に乗せた。同時並行で土魔術で即席の窯を作り、火を入れるとそこに入れた。
「これでOK」
マリアは粗方野菜を切り終わった3人に指示してサラダを作らせた。
最後に入れた乾し肉まで火が通ると、マリアはさらによそった。
最後にアイテムポーチからパンを出せば完成だ。マリアが即席で作ったテーブルに並べ、同じく即席で作った椅子に座る。
「「「「頂きます」」」」
自分たちで作った夕食に舌鼓を打っていると、匂いに釣られたのか商人たちが寄ってきた。
「美味しそうな匂いですね」
「もし良かったら食べますか?スープならまだ残っているので」
「良いんですか⁉」
「ええ」
マリアがよそって渡してあげると喜んで食べ始めた。
「美味しい! これは誰が?」
「作ったのは皆でですけど私たちは野菜を切っただけで、その他は皆マリアが⋯⋯」
「その歳でこの料理の腕前とは凄いですね。碌な設備とかもないのに⋯⋯」
アレキスは感心したように呟いた。
「私たちなんていつも野営の時はパンだけですよ」
「エヘヘ、そう言ってくれると嬉しいです」
料理がなくなるころ、辺りに甘い美味しそうな匂いが漂い始めた。
「? マリア、何か作ったの?」
「うん。時間があったからデザートを少しね」
「一体いつの間に⋯⋯」
マリアは窯のところまで行くと、中の様子を見た。
「うん。良さそうだね」
直接触れば火傷をするので、魔術で風を操って取り出し、テーブルまで運ぶ。
「熱いから触らないでね」
そっと型を外すと切り分けた。
「思い付きで作ったし、分量もちゃんと計っていないから味に自信ないけど⋯⋯」
「そんなことないよ! 十分美味しいよ!」
「マリアさん。うちの専属護衛になりません?」
「嬢ちゃんなら大歓迎だぞ」
マリアは自信なさ気だったが、皆大絶賛した。
「専属は流石に⋯⋯。護衛依頼を受ける時にアレキスさんたちのものがあったら優先的に受けても良いですけど⋯⋯」
「本当ですか! それだけでも嬉しいです」
レシピを訊かれたが、マリアが窯がないと難しいと言うと、肩を落とした。
「思い付きで作るぐらいなら簡単に作れると思ったんですけどね⋯⋯」
「もし窯があったとしても素手じゃ熱くって出せませんからどっち道無理だと思いますよ」




