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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第四章 護衛依頼
39/210

28 12日目

 開いた扉の先にいたのはアーティスだった。後ろには10人ほどの少女たちがいた。


「遅かったじゃない」


 エリザベートは不敵に笑った。


「無茶を言わないでくれ。これでも急いだんだ」

「言ってみただけじゃない」


 そんな能天気ともいえる会話をしている2人とは別に、バードは悪かった顔色を更に青ざめさせた。


「そ、その者たちは⋯⋯?」

「あら? どうしたの? 顔色が随分と悪いようだけど」


 エリザベートはそれはそれは心配そうに尋ねた。


「でもしょうがないわよね。だってこの子たちはあなたの行ったことを知っている証人ですものね」


 バードを見つめるエリザベートの目は冷ややかだった。


「一応一人ずつ話を聞かせてもらえるかしら?大丈夫よ。あなたたちの身の安全は保証するわ」


 少女たちはエリザベートの言葉に怯えた表情をしたが、顔を見合わせると、その中で一番年長であろう少女が口を開いた。


「あ、あの、安全を保証するとは本当ですか?」

「ええ。心配なら別に話さなくても良いわよ?裏付けを取りたいだけだしね。どっち道この男が領主の調べを受けるのは決定事項だしね」


 その言葉を聞いて少女は安堵の色を浮かべた。


「いえ、領主様のお役に立てるのなら喜んでお話し致します」


 その少女の言葉を皮切りに、他の少女たちも皆領主の為ならばと、進んで話したがった。

 そんな少女たちの姿を見て、アルフォードはこれほど領民に慕われている領主も珍しいと感心した。


「わ、わかったわ。あなたが代表して話してもらえるかしら? 他の人たちも違うところや付け足すところがあれば言って頂戴」


 それにはエリザベートも驚き、最初の少女に話すように言った。


「はい。私がここに連れてこられたのは⋯⋯」


 少女たちの話によると、領主が不在になってから急に税が高くなったという。そして、その税が払えない村も少なくない数が出たそうだ。少女たちの村もその一つらしい。そして徴税官は税が払えないのならば、年頃の娘たちを差し出すように迫ったらしい。村長は他にどうしようもなく少女たちを泣く泣く引き渡したという。その際、村長は泣きながらこうするしかない自分たちを許して欲しいと頭を下げたらしい。そしてこの屋敷に連れてこられ、牢に押し込められたそうだ。最初他の村の者もいたが、一人、また一人と牢から出され、どこかに連れていかれた。そして、誰も戻ってこなかった。少女たちはいつ自分の番が来るのかと、怯えて過ごしていたと言った。

 エリザベートはアリサの話、領都に来るまでの間に聞いた話と大きな齟齬がないことを確認すると、お礼を言ってバードに向き直った。


「何か言いたいことはあるかしら?」


 エリザベートはバードに問いかけた。


「言いたいこと? 黙って聞いていれば根も葉もないことばかり。全て出鱈目です」

「それでは税を上げるような真似をした覚えもないと?」

「はい」


 バードは力強く頷いた。


「そう⋯⋯。だったら私が途中の街や村で聞いた話は一体何なのかしら?皆税が上がったと、口をそろえて言っていたわ」

「そ、それは⋯⋯」

「そしてそんな事実は私たちに届けられていなかったわ。これは立派な反逆行為よ。その他にも余罪は色々ありそうね。ねぇ、マリア」

「うん」


 エリザベートに話を振られ、マリアは気を失った振りを止めた。


「少なくとも、領民の訴えを聞いていないのは確か。さっき門番さんたちは問答無用で追い払おうとしたもの。少なくとも門番さんの独断ではないはず」

「そう、ありがとう。一体誰かしらね? そんなことを命じたのは。兵士長の暴走とかいう言い訳は効かないわよ。そうよね、アルフォード?」

「ああ」


 バードは何も言わず、俯いて肩を震わせていた。


「なぜそのようなことを言える!」

「昨日の夜、密かに私のところに情報提供に来てくださった方がいるの。誰だと思う?」

「?」

「兵士長よ」

「! それではなぜ兵士長が嘘を言っていないと」

「だって、あなたと違ってあの人は私に土下座をして、どんな罰でも受けると言ったのよ? 止められなかったのは自分の責任だと。ことがことだけに死刑の可能性も高いというのにね。そんな危険を犯してまで偽りを述べるメリットがないわ。そして彼の身柄は既に確保させてもらっているわ」


 バードは肩を落とした。


「後数日でお父様も到着されるわ。それまで牢暮らしよ。兵士長に信頼できる者を教えてもらったから逃げられるとは思わないことね」


 エリザベートはバードの体を縄で縛ると、入って来た兵士に身柄を渡した。


「さて、一件落着と言いたいところだけどそうは行かないわよね?」

「当たり前だろう? 連れていかれて戻ってこない者たちがどうなったのか調べなきゃいけないし、他にも色々とやらなければならないことが山積みだ。しかもそれを今日一日で片付けなければいけないんだぞ」

「⋯⋯聞きたくなかったわ」

「僕もできる限り手伝うからサッサと取り掛かろう? 本当に終わらなくなるよ」

「私も手伝う!」


 アーティスとマリアの言葉にエリザベートはクスリと笑った。


「ありがとう」


 それからは目の回るような忙しさだった。

まず、バードの他にこの件に関わっている人物を全員拘束し、牢に入れた。その数は何と屋敷にいた者の半数以上に上り、牢はぎゅうぎゅう詰めのすし詰め状態となった。

そして、残った者で事後処理をすることになった。

 アーティス、アルフォードの2人は他の者たちに混じり、取り調べの手伝いをしていた。主に下の方の者ではスムーズに取り調べができない幹部クラスの者たちを相手にしていた。最初彼らは自分が何だと思っていると、地位を笠に着て、高圧的な態度をとる者もいたが、2人が自身の名を告げると一転してごまを擦り始めた。その変わり身に呆れながらも何とか全員の取り調べが終わったのは日付が変わる頃だった。

 エリザベートは執務室で証拠の書類を押さえると、領内に向けて今回の件に関することを知らせ、今年の税は免除することを告知した。そして、そのことに関する書類仕事に追われた。

 マリアは3人のように特段できることもなく、暇を持て余していた。それを見かねたエリザベートが保護した少女たちと話してみたらどうだと提案し、マリアは少女たちの村の話を聞いて過ごした。

 行方がわからなかった者たちだが、全員男爵邸の別邸で無事発見された。ただ、皆精神に大きな傷を負っており、元の生活に戻れるのは随分先になるであろうというのが、男爵家の侍医の見立てだった。中には男性が近寄っただけでひどく怯えたり、恐慌に陥る者もおり、その様子にエリザベートは心を痛め、回復するまで男爵家で全面的に支援することを決めた。男爵家で最初に保護された少女たちが彼女たちの面倒は自分たちが見ると申し出、人手が足りないこともあり、エリザベートは喜んでそれを受け入れた。


 そして次の日、マリア以外の3人は眠い目を擦っていた。


「おはようございます。随分眠そうですが大丈夫ですか?」

「はい。心配はいりません。少し昨日寝るのが遅かっただけですから」

「家族と話し込んでしまったんですか?」

「⋯⋯そんなところです」


 アレキスの質問にエリザベートは曖昧に答えた。


「そう言えば聞きました?」

「何をですか?」

「何って、代官が捕まったって話ですよ。なんでも不正行為が領主にばれたとか⋯⋯」

「⋯⋯悪いことはできないってことですね」

「まったくです」

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