25 2日目
次の日、マリアたちはアレキスたちと門のところで合流した。
「昨日は良く眠れましたか?」
「はい」
「アーティスは起きなくて皆に叩き起こされていたけどね」
「ね、寝れないよりは良いじゃないか!」
「確かにそうかもしれないが、それで遅れたら他の人たちに迷惑が掛かる」
「何事も程々が大事ってことよ」
「仲が良くって羨ましいですね」
アーティスがエリザベートとアルフォードの2人に寝坊したことについて責め立てられていると、アレキスがそう言った。
「そうですか?」
マリアにはその言葉が理解できなかった。
「ええ」
マリアに聞き返され、アレキスは笑いながら答えた。
「喧嘩するほど仲が良いと言いますしね」
「そうは言いますけど、毎回あんな感じなんですよ」
仲が良いとはとても言えないとマリアは溜息を吐いた。
「ハハハ、君にもその内本当の意味がわかると思いますよ。遅くなってしまいますし、そろそろ出発しますよ」
特に問題もなく門を通過し、街道を進んで行くと、人が倒れていた。
「大変!」
「駄目だ!」
エリザベートが慌てて近寄ろうとしたのを、アルフォードが制止した。
「何でよ! 倒れている人を助けるのは常識でしょ!」
「わかったから落ち着け。その気持ちはわかるが、倒れている者が本当に行き倒れとは限らない。追剥ぎの類だっているんだ。最悪殺されるぞ」
「彼の言う通りです。まず疑って掛かるのが原則です。不用意に近づいては襲ってくれと言っているようなものです」
「⋯⋯わかったわよ。私が悪かったわ」
エリザベートが不承不承といった様子で頷いた。
そんなやり取りをしているうちにマリアは倒れている女性に近づいていた。
「あの~。大丈夫ですか?」
一応声を掛けながら近づくが、返事はおろか、ピクリとも動かない。
マリアはすぐ近くまで来ると、まず生きていることを確認した。そして武器の類を隠し持っていないことを確認すると振り向いてその旨を伝えた。
「意識がないだけで生きてます! 武器も持っていないみたいです!」
「倒れていた理由はわかるか?」
「目立った怪我はないから多分食べていないんだと思います。この人、かなり痩せているので⋯⋯」
「そうか、だったら気がつくまで待って話を聞いてみよう。おい!何か食べ物を用意しておけ!」
女性が意識を取り戻したのは、それからすぐのことだった。
「ううっ、ここは?」
「目が覚めたみたいですね」
「えっと、確か私は王都を目指していて⋯⋯そうだ!早く王都に行かなきゃ!」
そう叫ぶと立ち上がろうとしたが、力が入らず、すぐに倒れてしまった。
「大丈夫ですか?」
「何か訳ありみたいだけど、私たちで良かったら話を聞くわよ」
「お腹が空いているみたいですし、食べながらでも」
「どっち道その状態じゃ近くの村や街までも行けないだろう?」
「す、すいません」
女性は泣き出してしまった。
エリザベートが体を支えて馬車まで案内した。
「私はアリサと申します。ここから離れたスノーウェル男爵領にあるアロマーという村の者です」
アリサは落ち着くと話し始めた。その時にエリザベートの指が僅かに動いたことにマリアだけが気が付いた。
「スノーウェル男爵領はどこも裕福とは言えないですが、決して貧しいわけでもありませんでした。それは領主様が税をできるだけ少なくして下さっているからです」
そこで一息吐くと、手のスープを一口飲んでまた話し始めた。
「ですが、領主様が王都に行かれてしまってからは事体が変わりました。領主様の代わりに領地に残った代官が重税を課すようになったからです。暮らしは一気に苦しくなり、その日の食事も満足に取れなくなりました。そして税が払えなかった村は若い女性が役人に連れて行かれました。私の村もこのままでは税が払えず、私を含めた7人が連れて行かれてしまうことになりました。一計を案じた村長は私たちにこのことを王都にいる領主様一家に伝えるよう仰られ、私たちを村から密かに送り出されました。それが今から一月程前のことです」
「私たち? それじゃあ他の方は?」
「わかりません。村を出てすぐに盗賊に襲われ散り散りになってしまったので⋯⋯」
エリザベートの質問にアリサは力なく首を横に振った。
「ですがこのままでは村の人たちがどんな目にあうか」
「徴税はいつなの?」
「予定では文月の初めです」
「後半月か⋯⋯」
エリザベートは何か考え込んでしまった。
「アレキスさん」
「はい」
「スノーウェル男爵領の領都は通る予定ですか?」
「ええ、まあ。っ⁉ まさか代官のところに乗り込むつもりですか!」
「違うわ」
エリザベートは首を降ると言った。
「領都に実家があるから寄ろうかと思って」
「実家、ですか?」
アレキスは虚を突かれたような顔をした。
「ええ。アリサさんだったかしら?これ、少ないけど王都までの旅費にして」
「えっ? でも⋯⋯」
差し出された硬貨にアリサは戸惑った。
「私もスノーウェル領の人間だもの。気にしないで。そうだ! 私からもお願いの手紙を書くから届けれてもらえる? 気になるんだったらそのための代金だと思ってくれて良いわ」
それで納得したのかアリサはお金を受け取った。
その後、アリサが残ったスープを食べている間にエリザベートは手紙を書き上げ、アリサに手渡した。
「それじゃあお願いね」
「はい!」
そしてそのままアリサとは別れた。




