幕間7 憂鬱
憂鬱だ。それが私が王立魔術学園に入学することになり、最初に思ったことだ。
私はアナベル・カールトン。カールトン子爵家の次女だ。
私ははっきり言って堅苦しいことが嫌いだ。学園では階級によらず皆平等な扱いを受けると聞いて喜んだことをついさっきのことの様に覚えている。しかしその期待はすぐに裏切られることとなった。
平民が入学するらしい。そんな噂が広まったのは入学式を数日後に控えた日のことだった。すぐにその噂は第二王子の耳に入り、学園に通う年頃の子供がいる家に第二王子からの手紙が届いた。
そこにはただ、平民が退学するまで学園に来るなと書かれていた。そしてそれを破った場合、どんな目にあっても知らないと脅し文句も書かれていた。
お父様もお母様も第二王子の怒りを恐れ、二つ上のルエラお姉さまと私に、学園に通うことを禁じた。
一通の手紙が我が家に届いたのは入学式が行われたはずの週の終わりのことだった。
夕食の席でお父様がそのことを告げ、すでに開封されていた手紙を回された。
封蝋に押されていた紋章を見た瞬間、なぜ私たちにこの手紙を見せたのか理解した。そこには王家の紋章が押されていた。
内容は学園に来ない理由を問うものだった。学園にもし何か問題があるのならすぐに改善するとも。手紙には名前が書かれていなかったが、封筒をひっくり返すと王と第四王子の名が連名で書かれていた。
まさか王からの手紙に、第二王子から脅されているからとも、平民がいなくなったら行くとも書くことはできなかった。平等を謳っているのは国王自身なのだから。さりとて、理由もなしに学園に行かないというわけにはいかない。結局私たちは週明けから学園に行くことになった。
学園に通うようになって、どの家も第二王子から脅しが入り、ほとんど来る者がいなかったことを知った。
第二王子が学園に乗り込んで来るといった騒動もあったが、結局は国王が勘当を言い渡し、どこぞの田舎貴族に養子に出されたと聞いた。
噂の平民の少女は想像よりもずっと幼かった。それでもその小さな体で頑張る姿は、応援したいと心から思えた。
話を聞いて楽しみにしていたダンスパーティーも、何の収穫もないまま終わった。後であの子が王に別室に連れていかれ、話をしたらしいと聞き、羨ましく思った。その時からだろうか、私がマリアという平民の少女に興味が湧いたのは。それまではただのクラスメートというだけのはずだ。
次にマリアの話を聞いたのはそれから少ししてからのことだった。なんでも、公爵家の令嬢に絡まれたらしい。その場は学園長が来て収まったというので、すぐにそのことは頭の片隅に追いやられてしまった。
マリアがフェリシー・ベルジュラックが決闘すると聞いたのはその数日後のことだった。なぜそんなことになったのか不思議に思ったが、心配になり、決闘当日は見に行った。
その心配が杞憂だったと知ったのは、始まってすぐのことだった。マリアはあっという間にフェリシーを倒してしまった。同じことをやれと言われても、私にはとてもできない。
それから少し経ったある日の授業でのこと、今日から急遽授業内容が変更になり、冒険者として実際に活動してもらうと告げられた。そしてそのまま冒険者ギルドに連れて行かれ、登録作業を行った。
ランクアップ試験を受けた後、クラスを二つに分け、パーティを組むように言われた。私はこれ幸いに、マリアと同じ班に入るつもりだった。
結果から言えば、それはできなかった。マリアは友人二人とまず班を組み、残った一枠もアーティスに取られてしまった。この期に仲良くなるつもりだったのに⋯⋯。
何はともあれ、私は残ったメンバーとパーティを組んだ。カルロ・アロニカはまだ良い。問題はアグナ・アイード、アーネスト・パーシヴァルの二人だ。
アグナはマイペース。アーネストは真面目だ。二人が組み合わさった結果どうなるかというと⋯⋯。
「良いから依頼を受けに行くぞ!」
「え~。私今日はもう疲れたから帰りた~い」
「何言ってんだ。我儘を言うんじゃない」
受ける依頼はあっさり決まった。スライム討伐だ。その後が問題だ。アグナが疲れたから行きたくないと言い始め、この状況になった。もうかれこれ10分以上経つ。アーネストは根が真面目だから真正面から言っているが、少し時間をおくとあっさり意見を変えることを知っている。
結局出発したのはそれからかなり経ってからだった。この班でやっていけるのか凄く心配になった。なお、依頼はスライムをあっさり見つけ、1時間で完了した。
明日以降もこんな感じになるのかと思うと、今から憂鬱だ。




