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マリアたちは王都に戻ると冒険者ギルドに直行した。
「すいません、依頼達成の確認をお願いします」
「ゴブリンの討伐ですね? 今討伐証明部位の確認をするので少しお待ちください」
代表してエリザベートが大量のゴブリンの右耳が入った布袋をカウンターに出すと、若干顔を引きつらせながらも確認を始めた。
「あっ! こちらの魔石の買取も一緒にお願いします」
忘れずにゴブリンの魔石も渡しておく。
時間がかかりそうなので終わったら声をかけてもらえるようお願いし、ギルドの片隅で話に花を咲かせた。
数十分後、ようやく数を数え終わったようで声をかけられた。
「ゴブリンの右耳が547体分。一体あたり銅貨3枚なので全部で1641エル。ゴブリンの魔石が615個、1個5エルですので3075エル。合計4716エルになります。⋯⋯凄いですね、まさかゴブリンの集落を潰したんですか?」
どう答えたものかと曖昧に笑うと肯定ととったらしくキラキラした目で4人を見た。
「お金ですが、冒険者ギルドに預けることができます。その場合ギルド証に記録され、世界のどの支部でも引き出すことが可能です。⋯⋯どうしますか?」
顔を見合わせて話し合った結果、下手に大金を持っていて他の冒険者に絡まれても面倒だと、全員金貨1枚ずつ預けることにした。
「それでは全員分のギルド証の提示をお願いします」
ギルド証を出すと、すぐに手続きは終わったようで返された。
「残りの716エルは頭割りの現金払いでよろしいでしょうか?」
「はい」
全員179エルずつ受け取った。
「おい!」
さて、帰ろうかと入口に向かうとガタイの良い中年の男性3人組に声をかけられた。アルコールが入っているのか顔が赤らんでいる。
「一体何の用です?」
嫌な予感を覚えながらもマリアはそう返した。他の3人はどうすれば良いのかわからず、固まっている。
「へっへっへ、今大金を受け取ったのはわかってんだよ。有金を全部出しな」
想像通りと言えば想像通りの答えにマリアは嫌悪感を隠せなかった。
「嫌です。なんでそんなことしなくちゃいけないんですか」
「いいから黙って出しな!」
男が殴りかかってきた。辺りから悲鳴が上がる。
「『《強化》』」
マリアは身体能力を強化すると、当たるか当たらないかのギリギリのところで男の拳を避けた。そのまま伸びきった腕を引っ張ると、あっさり体勢が崩れた。そこへお腹への蹴りを放つと男はあっさり意識を失った。
「あなたたちはどうします?」
マリアが残った2人を見ると、2人は背を向けて逃げていった。後には気を失った男が取り残されていた。
「この人どうしよう⋯⋯」
マリアが男の扱いに困っているとギルドの職員の男性が近づいてきた。
「えっと、今日登録された方ですよね?ギルドマスターがお呼びです。この男についてはこちらで処理をしますので、放っておかれて結構です」
そのままついて行くと、2階の部屋に通された。
「こちらです」
部屋には立派な執務机があり、若い青年が座っていた。
「案内ありがとうね。通常業務に戻って良いよ」
案内をした男性は一礼すると部屋から出ていった。
「もうわかっていると思うけど、僕がギルドマスターのレオナールだ。よろしくね。君たちのことは聞いているよ。普通の一冒険者として扱ってくれといわれているからこの喋り方で我慢してね」
そこまで一息で言うと4人を見回した。
「さて、君たちを呼んだ理由だけど⋯⋯ゴブリンの集落を潰したって本当?」
「ええ、まあ」
「それじゃあ訊くけど、どれくらい取り逃がした?数によっては緊急依頼を出さなければいけないからね」
4人は顔を見合わせた。
「僕の方は逃げたやつはいないけど皆は?」
「こっちもだ」
「私の方もよ」
「少なくとも逃げたやつは見てないけど⋯⋯」
「ということはいたとしても数匹か」
アルフォードはレオナールに向き直ると言った。
「聞こえていたと思いますけど、いたとしても数匹です」
「その根拠は?」
「そこは急な崖の下だったんですけど、崖以外の三方位に一人ずつ待機して、崖の上から少し派手な魔術を撃ち込んだんです。本当はその後、残ったやつを殲滅していく予定だったんですけど⋯⋯」
「それだけで片がついちゃったのよね」
「僕は火事になるってパニックになったけどね。あれは軽くトラウマだよ」
「⋯⋯どんなのを使ったのかは聞かないけど、それだったら大丈夫そうだね。もう帰っても良いよ」
レオナールは若干呆れた顔をした。
「最後にこれは助言。たかがゴブリンといえど新米が全滅させたんだからかなり目立っているはずだよ。絡まれるかもしれないから頑張ってね。本当はあの依頼、ある程度ゴブリンの数を減らしてくれれば良かったんだよ?」
隅に討伐数何体以上って書いてあったでしょう?と言われてしまった。4人は次からは隅まで依頼書を読むことを心に誓った。
まさか受け取った金額のせいですでに絡まれたとは言えず、別れの挨拶をすると部屋を後にした。
「明日は普通に授業かぁ」
帰り道でアーティスがそんなことを言った。
「そんなこと言わないの。明後日またあるでしょう?」
学園には魔術関連の授業の他に、計算や歴史などの一般教養の授業もある。今回授業内容変更に伴い、一日にその授業が集中して行われることになった。
「それはわかってるんだけどさ~」
寮に帰り着くまで、アーティスは文句を言い続けた。




