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こうして少女は最強となった  作者: 松本鈴歌
第三章 魔術の授業
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19

「これからあなた方にはBランク冒険者の方と1人ずつ戦っていただきます。その戦闘の内容でランクアップの有無を決めさせていただきます。」


 つまり、最低限の戦闘能力さえあれば例え瞬殺されようともランクアップできるわけだ。⋯⋯もっとも、瞬殺された人間の戦闘能力が認められるかはまた別問題だが。


「武器はこちらの刃を潰したものを使ってください。そしてこちらが今回ランクアップ試験を担当してくださるBランク冒険者のアイアスさんです」

「アイアスだ。よろしく頼む」


 紹介されたのは猫の獣人の中年の男性だった。腰に剣を下げていることから剣士だとわかる。

 獣人であることと言葉遣いで何人かが顔を顰めた。怒鳴りつけようとした者もいたが、学園での諸注意を思い出したのか怒鳴る者はいなかった。


「順番に並べ。順番に相手をしてやる」


 嫌そうな顔をした者も少なからずいたが、皆大人しく並んだ。


「まずはお前からだな。武器を構えろ!⋯⋯って武器を持っていないじゃねえか!舐めてんのか⁉」

「いえ、僕は武器は使えないので⋯⋯」


 運が悪く一番最初になってしまったのはカルロ・アロニカ。クラスでも大人しい少年だ。


「格闘家か。⋯⋯いつでも好きな時にかかって来い!」


 そう言ってアイアスは剣を構えた。


「それではお言葉に甘えて。『火よ、燃え盛る炎の球となりて敵を焼き払え、《ファイアボール》』」

「っ⁉」


 魔術師であるとは思っていなかったのだろう。眼前に迫った《ファイアボール》をアイアスは慌てて回避した。


「まさか魔術師だったとはな。合格だ」

「やった!」


 カルロは小さくガッツポーズをすると他の生徒たちの方に戻ってきた。


「合格された方は書き換えを行いますのでギルド証をお出しください」


 カルロがギルド証を渡したところで次の試合が始まった。

 今度戦うのはアグナ・アイード。マリアに次ぐ年少の少女でまだ12歳だ。


「今度は随分と可愛らしい子が出てきたな。それに鞭か⋯⋯」

「あら、ダメでした?」

「いや、なんていうかその⋯⋯」

「それでまだ攻撃してはいけないのかしら?」


 アイアスの話していることは完璧に無視してマイペースに尋ねた。


「あ、ああ、いつでも良いぞ」


 アイアスも若干戸惑いながら頷いた。


「それでは行きます」


 アグナはアイアスに走って近づくと剣が届かない距離で立ち止まった。そしてそのまま鞭を思い切りアイアスに打ち付けた。

 アイアスはそれを半身になって避けると距離を詰め、アグナの首筋に刃を突きつけた。


「狙いは悪くなかったと思うぞ。鞭を使ったのもリーチの差を補うためだろう?槍とかの長物は持てそうにないしな。まあぎりぎりだが合格だ」


 アイアスはまだ言葉を続けようとしたが、アグナは合格と言われた瞬間に踵を返して戻ってきた。

 その姿にアイアスは苦笑を漏らした。そして視線を次の者に移した。


「次は誰だ?」

「僕だよ」


 進み出てきたのはアーティス・グランファルトだった。手には槍を握っている。


「後ろで待っている人もいるし始めて良いかな?」

「ああ」


 アイアスからの返事を聞くとアーティスは槍を振りかぶり――そして投げた。

 槍は一直線に呆気にとられているアイアスに向かった。

アイアスは当たる寸前で我に帰ると剣で槍を弾いた。


「武器をすぐに手放してどうする? 投擲の腕は」


 認めてやるが、と続けようとして迫り来る火で出来た槍に気づいた。そしてそれは1本ではなく3本。それも2本は避けられるが、1本は確実に当たる嫌らしい配置になっている。


「えっ? っちょ⁉」


 アイアスは本気で焦った。それでも何とか2本は躱し、最後の1本はギリギリで直撃は免れた。とは言っても全身に軽い火傷を追ってしまった。


「流石はBランク冒険者ということか⋯⋯。絶対当たると思ったんだけどな。しょうがない、『火よ、炎の槍となりて敵を貫け、《ファイアランス》』」


 そして今度は倍、6本の槍が浮かび上がった。

 その様子にアイアスは青くなった。


「ま、待て! 合格だ! 今すぐそれを消せ!」


 その言葉にアーティスは申し訳なさそうに言った。


「ごめん。この本数だと上手く制御できない。頑張って避けてくれ」

「嘘だろ~!」


 演習場に悲鳴が響き渡った。


「はぁ、『水よ、身を守る壁となれ、《ウォーターウォール》』」


 マリアは溜息を吐くとアイアスの周囲に水でドーム状の壁を創り出した。別に《マジックシールド》でも良かったのだが、それだと一方向からの攻撃しか防ぐことができない。瞬時に無理だと判断した結果だ。


 間一髪で間に合い、水が水蒸気になったことで視界が妨げられる。視界が戻ると――。


「あれ? なんで俺は無事なんだ?」


 不思議そうに首を傾げるアイアスがそこにはいた。

 マリアはアイアスの無事を確認すると胸を撫で下ろした。


「よかった~」


 そしてアーティスに詰め寄った。


「自分で制御できない魔術を使うなんて正気なんですか! 無事だったからよかったものの、大怪我もあり得たんですよ?」

「いや、無事だったんだから良かったじゃないか」

「結果の問題じゃありません」


 バッサリと切り捨てるとアイアスのもとに向かった。


「怪我の治療をしますね。『《キュア》』」

「っ⁉」


 アイアスはあっという間に火傷が治ったことに目を見張った。


「お前もランクアップ希望者だな」

「はい」

「他に攻撃系の魔術は使えるか?」

「はい」


 アイアスはマリアの目をじっと見た。マリアが視線に堪えられなくなった頃――。


「良いだろう。合格だ」


 合格を告げられた。


「えっ? でもまだ私試験受けてないですよ?」


 マリアの様子にアイアスは苦笑した。


「魔術の腕はさっきの傷を治した時にわかっているから問題ない」


 こうしてマリアはランクアップ試験に合格した。ちなみにマリアのクラスで落ちた者はいない。そして今回のことでアーティスはカーラにこってり絞られた。

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