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そして次の週、第三演習場に集まった生徒たちに向かってカーラが言った。
「今日から授業内容が変更になったわ。これから説明するからよく聞きなさい」
その言葉に生徒たちは騒めいたがすぐに静かになった。
マリアとアルフォードはいよいよかと気を引き締めた。
「貴方たちにはこれから冒険者ギルドで冒険者として登録してもらうわ」
その言葉に再度騒めいた。
「あの~」
1人の男子生徒が手を挙げた。
「何かしら?」
「それは僕たちに冒険者になれということですか?」
「ええ」
カーラは何馬鹿なことを言っているんだという顔をした。
「ふざけるな! 冒険者など庶民の中でも粗雑で乱暴な人間の職種ではないか! なぜ私たちがそのようなものにならなければならない!」
誰かがそう叫んだ。
騒めきもだんだんと大きくなった。
「静かに!」
カーラの言葉で一瞬で辺りは静まった。
「これは学園長の決定よ。貴方たちに実力社会の冒険者になり、自分の実力を知ってもらうためらしいわ。それと庶民の暮らしの一部を体験してもらう、実戦経験を積んでもらう、世間での魔術師の評価の向上の目的もあるそうよ」
カーラの言葉に反応した者がいた。
「ちょっと待て! 他は兎も角魔術師の評価の向上とはどういうことだ!」
「そのままの意味よ。この国の魔術師のほとんどが貴族だというのは貴方たちも知っていると思うわ。そのため冒険者などには魔術師が少ないのよ」
貴族は冒険者なんてしないしねと、カーラが自虐的に笑った。
「この学園の学費は庶民には手が出ないほど高いわ。だから入れる者はほとんどいない。推薦で入るという手もあるけどさっきも言ったように庶民の魔術師はほとんどいない。その中でも推薦状を書けるような者は一握りよ。その結果多くの人が知っている魔術師は実力が低く、せいぜい初級魔術までしか使えないそうよ」
大半の生徒が魔術師の評価が低い理由を理解したようだ。理解できなかった者も近くの者に説明されわかったようだ。
「悪循環、というわけか」
誰かが皮肉気に呟いた。
それにカーラが大きく頷いた。
「その通りよ。そして国民の多くが貴族が魔術師だと知っている。最近では貴族を軽く見ている者も増えてきているわ」
「自分たちの実力を示せばそれも減るということか⋯⋯」
皆、今回の授業内容変更意味を自分たちに都合良く解釈したようだ。
その様子にマリアは何とも言えない表情をした。
「それではこれから冒険者ギルドに向かうわ。ただし歩きよ。文句は受け付けないわ。それと注意事項を1つ、冒険者として活動している間は冒険者とは対等な立場で付き合い権力は振り翳さないこと。イメージが悪くなるわよ。ちなみに学園に戻るまでが授業だからね」
その言葉に生徒は皆頷いた。
それを見てカーラは満足そうに笑った。
説明と諸注意が一通り終わったところで冒険者ギルドに向かった。
学園から30分ほどぞろぞろと歩き、冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドは3階建てのレンガ造りの建物で1回には受付の他に酒場もあるようだった。
「すいませ~ん、この子たち全員の登録をお願いできますか?」
冒険者ギルドの中は朝のピークが終わったばかりのようで閑散としていた。
マリアたちは真っ直ぐカウンターの方に向かった。受付の女性にカーラが代表して声をかける。
「わかりました。って多いですね?」
「ええまぁ」
人数に目を丸くした後、気を取り直したように説明を始めた。
「こちらの紙に最低限お名前と、書ければ他の項目の記入もお願いします。名前以外は強制ではありませんので。代筆が必要な場合は申し出てください」
全員に向かって説明された後、一人一人登録作業を行っていく。途中から他の職員も出てきて2人になった。
そしてマリアの番となった。
「えっと、お名前はマリアさん。歳は10歳で間違いありませんか?」
「はい」
学園長の方針で職種の欄は未記入で出すことになっている。登録時にまだ武器が決まっていない人も多く、珍しいことではないらしい。
「それではこちらのカードに血を一滴垂らしてください」
白いカードと針を差し出された。
このカードがギルド証で身分証明にも使える。そのため悪用ができないようにその者の血を垂らすことで魔力を登録することができる。もちろん魔力を流すことでも登録はできるのだが、魔術師でない者が魔力を使える筈もなく、この方式となっている。身分証明が必要な場合には専用の魔道具があり、手を置くだけでその者の魔力をギルド証と照合することができるが、高価で、大抵は町の入口にあるだけだ。
マリアは指示通りに針で指を指すと、出てきた血をカードに押し付けた。
「それでは処理を致しますので少々お待ちください」
手元の機械をいじると、30秒ほどで差し出された。さっきは何も書かれていなかったが、今は名前と、Hとランクが刻まれている。
「ギルドについての説明は後ほど皆さん纏めてご説明いたします」
全員分のギルド登録が終わったのは登録作業を開始してから15分ほど経ってからだった。
「それではギルドについてご説明いたします。冒険者のランクはH~SまででSが最高です。C、Dランクがベテラン、A、Bランクが一流と認識されています。Sランクはほとんどいません。この国にも2名いるだけです。また、依頼にもランクが存在いたしまして、Hランク冒険者はHランクのみ、それ以上は1つ上のランクまでしか受けることができません。冒険者ランクは一定回数以上連続で自分のランク以上の依頼を完了させた上で、ランクアップ試験に合格することで上げることができます。HからGに上がる時のみすぐに試験を受けることができ、ある程度の戦闘能力が認められれば上げられます。個人のランクとは別にパーティーランクというものも存在いたしまして、これはパーティーメンバーの平均ランクとなります。また、依頼も2つ上のものまで受けられます。依頼の受注方法についてですが、あちらにボードがいくつかあるのが見えますか?」
指された方には紙が何枚も貼られたボードが並んでいた。
「あちらのボードはランクによって分かれています。受けたい依頼が書かれた紙をこちらに持ってきていただければ受注となります。依頼は早い者勝ちですのであしからず。⋯⋯以上で説明を終わりますが、何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
その質問に一人が手を挙げた。
「パーティーはどうやって組むんだ?」
「メンバー全員でこちらまで来ていただければパーティー結成の手続きを致します。他に質問は?」
「⋯⋯」
「無いようですが、この後ランクアップ試験を受ける方はいらっしゃいますか?」
すると全員が手を挙げた。
「そ、それでは受ける方は地下の演習場までお越しください」
マリアたちはギルドの地下の演習場に向かった。




