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最初は必死に踊っていたマリアもだんだんとなれ、会話をする余裕が出てきた。既に曲も四曲目になっている。
最初は平民が踊れるのかと馬鹿にしていた者たちも見直していた。密かにアルフォードがいなくなったら誘おうと思っている者もいたのだが、いつまでもアルフォードと踊っているので声をかけられずにいた。
そんな周りの思いなど露知らず2人は話していた。
「そう言えばさっき国王様にアルとの関係は何だって訊かれたんだけど何だったんだろう?」
マリアが心底不思議そうな顔をした。
「それで何て答えたんだ?」
「友人って言ったけど⋯⋯」
アルフォードは父親が何か誤解していることに気付き慌てて訊いた。マリアもいぶかし気な顔をしながら答えた。
「そうか」
アルフォードはその答えに心からホッとした顔をした。
「でもその後に本当にそれだけかってしつこく訊かれたんだよね~」
どういう意味だったんだろうと首を傾げるとアルフォードは頭を抱えた。
(まずい。この状況じゃ絶対誤解されている。後で何を言われるかわかったもんじゃない。せめてもの救いはマリアが意味がわかっていないことか⋯⋯)
アルフォードはこの状況が手遅れであることを悟った。
アルフォードが国王から散々に言われるまで後どれぐらいだろうか。
その曲が踊り終わるとアルフォードはどこかに行ってしまった。知らない奴と踊るんじゃないと言い残して⋯⋯。
「あ、あの僕と踊っていただけませんか?」
そんなことは知らずアルフォードがいなくなったことをいいことに機会を伺っていた貴族の子弟がマリアに近づいてきた。
「ごめんなさい。知らない人とは踊っちゃダメって言われているの」
「し、知らない人⋯⋯」
彼はショックを受け、固まった。ちなみに彼はマリアは気がついていないがクラスメートだったりする。
「ぼ、僕は同じクラスのアーティス・グランファルトだ」
「ごめんなさい。思い出せないわ」
気を取り直して改めて名乗るも瞬時に返されてまた落ち込んだ。
「そ、そんなぁ」
マリアは話は終わったとばかりに飲み物やお菓子が並んだテーブルに向かって歩き出した。
ホールの片隅のテーブルの上にはマリアが見たこともない様々な種類のお菓子が並んでいた。どれも様々な色のフルーツで飾られており、それだけでも目で楽しむことができる。
「あっ! これ綺麗。何ていうお菓子なんだろう。あっ! あれも美味しそう!」
これは好きなものを選ぶ形式だが、マリアには目移りして選べなかった。種類が多いだけに気になるもの全てというわけにもいかない。
「それはコークという種類のお菓子ですわ。この辺に並んでいるものは全てそうですわね。種類も多いですけど似たものも多いですわ。あちらのはケックーという焼き菓子ですわ」
見かねたのか近くにいた少女が教えてくれた。
「ありがとうございます⋯⋯何かお勧めはありますか?」
「そうですわね~」
少女は悩みだした。
「私としてはこのウツガのコークがお勧めですけど貴女には少し多い気がしますわね。量を考えますと⋯⋯」
少女が悩んでいるのをマリアはワクワクしながら待っていた。
「そうですわね、ゾルーなんかが良いと思いますわ」
「ゾルー?」
マリアは聞き返した。
「ええ、プルプルしていて美味しいですわよ。中にフルーツが入っているのですけれど何か好きなフルーツはありますの?」
「あまりフルーツの種類を知らないので何かお勧めを⋯⋯」
「そうは言われても好みの問題ですわね~。⋯⋯甘いフルーツと少し酸味があるフルーツではどちらがいいですの?」
マリアはちょっと考えてから答えた。
「どちらかと言えばただ甘いだけより少し酸味がある方が良いです」
「ではこれですわね」
少女が差し出したのは透明なカップだった。中にはフルーツが入っており、周りは半透明なもので覆われていた。上にはクリームが乗っていた。
「アロンズとミセキッタのゾルーですわ」
おずおずと受け取り一口食べてみる。
「美味し~い!」
少女の言った通り周りの部分はプルプルで甘く、フルーツの甘さがマリアの好みだった。
「それは良かったですわ」
少女もマリアの満面の笑みに満足そうだ。
「他にもいくつかお勧めを教えて差し上げますわ」
「ありがとうございます! えっと」
マリアは少女に名前を聞いていないことに気がついた。
「アイリス・レオンチェフですわ。二年生ですの」
「マリアです」
マリアも慌てて名乗った。
「マリア⋯⋯。あの噂の新入生ですか」
「どの噂か知りませんけどおそらくそうです」
「噂を聞いて一度話してみたいと思っていましたの!」
アイリスはマリアに抱きついてきた。
「えっ? ちょっ!」
マリアは慌てたがアイリスはそれを気にしなかった。
「噂以上の可愛らしさですわ~」
マリアが解放されたのは、それから10分も後のことだった。
パーティーはその後何事もなく終わった。
マリアは結局パーティーが終わるまでアイリスと話しながら様々なお菓子を心ゆくまで堪能した。パーティーが終わるころにはアイリスとも仲良くなり、今度有名なお菓子屋さんに連れていってもらう約束までした。
「楽しみだなぁ~」
寮の部屋に戻る途中マリアは終始笑顔だった。
「はいはい、楽しみなのはわかったけど顔が不気味よ」
にやけすぎてエリザベートからお叱りを受けてしまったが⋯⋯。
◇◆◇
場所は変わり、王家の紋章が入った馬車の中、国王は1人悶々と考え込んでいた。
「あれはやっぱりそういうことなのか?いや、でも⋯⋯」
その呟きを聞くものはいない。
そしてそのまま馬車は王城に向かった。
◇◆◇
寮の自室でアルフォードは頭を抱えていた。
「まさか父上に見られていただなんて⋯⋯」
アルフォードはあの後マリアと別れた後、国王、サンドライトのもとに向かった。
誤解を解こうとしたのだが、会わせられないと近衛騎士たちに追い払われてしまったどんなに頼んでも無駄だった。
「絶対誤解されている⋯⋯」
後日呼び出されて根掘り葉掘り訊かれることを予感してアルフォードは気が重かった。
◇◆◇
「パーティーは退屈なものだと思っていましたがあんな可愛らしい子と会えるとは思いませんでしたわ~」
アイリスは部屋で今度のマリアとの約束を思い出してニヤニヤしていた。
「どのお店にしましょう」
頭の中にいくつか候補を思い浮かべて、マリアの好みに合う店をピックアップし始めた。
◇◆◇
寮の入り口でマリアと別れた後、エリザベートは部屋で自己嫌悪に陥っていた。
「そもそも今日マリアが上級貴族に絡まれたのは私がマリアを置いて先に会場に行っちゃったせいよ。国王陛下が助けて下さったのだって偶然にすぎないし⋯⋯。それにマリアを一人にしたせいで色んな輩に変な目で見られていたし⋯⋯。それにあのレオンチェフ先輩と約束しちゃうなんて完璧に失敗だったわ」
今日の反省を挙げ、どれだけ自分の行動が不味かったのかわかり、更なる自己嫌悪に陥っていた。
「そ、それに表情が不気味だって言っちゃった⋯⋯」
◇◆◇
アーティスは1人落ち込んでいた。
「まさかマリアに名前はおろか、顔すらも覚えられていないなんて⋯⋯」
アーティスは大の可愛いもの好きだった。女性の好みはロリコンといっても差し支えないほどだ。
アーティスは明日から必死にクラスメートであることをアピールすることを心に決めるのだった。




